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あんたとシャニムニ踊りたい 第7話ー①「親切」

 前回はこちら。

1

 8月の朝から気持ちがうだるような暑さで、心が折れそうなその日。 
 久しぶりに教室に現れた人がいた。

 「間宮さんじゃん、久しぶり」

 「元気してた?」

 「生きてたんだね」

 「オイ!それは失礼」

 様々なクラスの生徒が、間宮さんを囲んでいた。 
 彼女は、私と同じ小学校の同級生だった間宮さん。 
 いつもは、保健室で一人勉強をしている校内随一の優等生である。

 「いいんです。言われ慣れてますから」

 「すいません、コイツ、馬鹿なんで。謝れ、好(このみ)」

 「いいって、言ってるんだから、いいだろ、一紗(かずさ)」

 私は間宮さんを囲う会を後目に席に着いた。

 「あっ・・・。羽月さん!お久しぶり!」

 いきなり、彼女が私に話しかけて来た。

 「お、おはようございます・・・」

 彼女は笑顔ではいと話しかけてきた。 それを面白くないと思う連中も居ただろう。何処か、視線が冷たい。

 それから、暁が教室に現れたが、間宮さんの方に向かった為、私と彼女が話すことは無かった。

 ホームルームが始まり、諸連絡が終わったその日。石倉先生から、席替えをする運びとなった。

 「はぁ~い、皆おまちかねの席替えタイムですよぉ。やったね」

 よっしゃあとか、寂しくなるねという言葉が教室中にこだました。

 「静かにしろ。とりあえず、ここにBOXがあります。このBOXに数字が君らの運命を握っています。その番号順に席を変えて下さい。席替えは昼休みが終わってからということで」

 目が悪い生徒や体格差がある生徒は申し付けるように言って、先生は加納さんに全てを押し付け、その場を後にした。

 BOXに行く順番は、席順で私は宮本さんの次の次の番だった。 
 BOXに手を突っ込み、直観で紙を引き抜いた。 
 数字は29番。即ち、教室の一番端っこの席に追いやられることとなった。 
 順調に席順は決まり、何事も無く、時間だけが過ぎて行った。 

 暁は私は一度たりとも、目を合わせることは無かった。

2

 四時限目の授業が終わり、迎えた昼休み。 
 暁は部活のミーティングの為、席替えを宮本さんに託し、その場を後にした。 
 私はそれまでの右端4番目の席から、左端29番目の席に移動した。

 目の前の席は、私のことを蛇蝎の如く嫌う奇声女と恰幅の良い野球部男子という席順になった。 
 気楽でいいと思った矢先、間を開けた隣の席には間宮さんが座っていた。 席は他の子がやってくれたようだった。

 「また、宜しくね。羽月さん」 
 笑顔を見せるだけで、触れようともしない間宮さんに、私はぎこちない笑顔しか出来なかった。

 「あははは」

 「羽月さん、わたし、羽月さんとお昼を一緒にしたいわ」

 「えっ・・・」 
 思わず、声が漏れた。 
 彼女は何を言いだすんだろうかと自然と声が出てしまった。するとキモオタが間宮さんに接近して来た。

 「はっ?なんで、コイツと飯食わないといけないんだよ。訳が分からん。今日のご飯はボクと食べるって」

 「そんなお話しましたっけ?」

 「したした。ボクがしたんだから。ただ、こいつと食べるのは」

 「好、今日はやめとこう。そんな話はしていない」

 「一紗は黙っとけよ。大体・・・ボクは・・・」

 行くぞと言った大柄女性に引きつられ、キモオタはどこかへ連行された。

 「また、食べましょうね!」 
 間宮さんは笑顔で手を振り続けた。 
 2人が教室からいなくなると間宮さんは私に振り向いた。

 「さぁ、お昼に致しましょう!羽月さん!」  
 どうやら、私に拒否権は無い物に等しく思えた。 
 私は間宮さんの席を合わせ、2人で食事をすることとなった。 

 「ちょっと、お待ちなさい!」

 それは私の右斜め上の席になった矢車さんの声だった。

 「どうしたの?矢車さん?」

 「わたくしも混ぜてはくれませんか?成績上位者で食べるお食事。頭がどんどん良くなる気しか致しませぬわ」

 いや、空気読めよと突っ込みたくはなったが、その空気に負けないメンタルで、矢車さんは席を移動して見せた。

 クラスが誇る成績上位者のみによる謎の食事会が幕を開けた。

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