見出し画像

子ども食堂だいちのめぐみ #2

第二話:雁木の下で生まれる友情
助け合いの雪道でつながる絆

第一部

新潟県上越市の高田本町商店街。冬の冷たい風が吹きすさび、雪が雁木(がんぎ)の下に積もる中、商店街を歩く人々の姿がちらほら見える。雁木は人々を雪や風から守り、町の住人たちが共に歩ける温かい道を提供してくれている。晃四郎はこの町の雁木が大好きで、ここを歩くと家族や友達に守られているような気持ちになる。

その日、晃四郎は母親のめぐみと「だいちのめぐみ」でおにぎりを握っていた。外では、雁木の下で町の人々が雪かきをしながらも笑顔でおしゃべりをしている。

店のドアが開き、一人の中学生が雪まみれになりながら入ってきた。彼の顔にはどこか疲れが見える。

「いらっしゃい!寒かったでしょ?雪がすごいね!」晃四郎が声をかけると、その少年は少し戸惑いながらも席に着いた。

「僕は晃四郎!ここはお母さんと一緒にやってるお店だよ。」

少年はうつむいたまま、「俺、タケル…」とだけ名乗った。晃四郎はタケルの様子を見て、何か悩みがあるのだろうと思い、母のめぐみと目を合わせた。

「タケルくん、今日は特別なおにぎりを用意しているから、ぜひ食べて元気を出してね。」めぐみは優しく声をかけ、温かいおにぎりを差し出した。

タケルはそのおにぎりを受け取り、かすかに微笑んだが、その瞳はどこか寂しげだった。彼は言葉少なにおにぎりを食べ始めたが、晃四郎にはその様子が気になった。

第二部

タケルがおにぎりを食べ終わる頃、晃四郎は彼に話しかけた。「タケルくん、何か悩んでるの?もし良ければ話してくれないかな?」

タケルはしばらく黙っていたが、やがてポツリと話し始めた。「実は…学校でいじめられてるんだ。だから帰り道も一人でいるのが怖いんだ。」

めぐみはその言葉を聞き、タケルに寄り添うように優しく微笑んだ。「タケルくん、ここはあなたの居場所よ。誰もあなたを傷つけたりしないから、安心してね。」

晃四郎も頷き、「僕もタケルくんと一緒にいるよ!だいちのめぐみに来れば、いつでも一緒にいられるから、またここに来てね。」

タケルは少しずつ打ち解け、晃四郎と話をする中で、心が軽くなっていくのを感じていた。雁木の下を歩くときも、ひとりではなくなることを想像すると、少しだけ心が温かくなった。

第三部

翌日、タケルは学校の帰り道に、勇気を出して「だいちのめぐみ」に向かって歩き出した。雁木の下を歩くと、雪が屋根に積もっているが、道はきれいに除雪されており、歩きやすい。雁木の中はまるで別世界のように静かで、誰かに見守られているような気持ちになれる場所だった。

タケルが「だいちのめぐみ」に入ると、晃四郎が笑顔で迎えた。「タケルくん、また来てくれたんだね!」

タケルは照れくさそうにうなずき、めぐみが用意したおにぎりを受け取った。暖かい食事と温かな雰囲気に包まれ、タケルは少しずつ心が癒されていくのを感じた。

晃四郎とタケルは、一緒におにぎりを食べながら話をした。話題はサッカーや学校のこと、そして雁木を通じて感じる町のことまで広がり、タケルも徐々に笑顔を見せ始めた。

「僕、ここに来ると安心できるんだ。なんでだろう…」タケルは呟くように言った。

「きっと、みんながタケルくんを待ってるからじゃないかな。」晃四郎がそう答えると、タケルはさらに大きな笑顔を見せた。

第四部

数日が経ち、タケルは「だいちのめぐみ」に通うことが日課になっていた。学校で辛い思いをした後でも、ここに来ると晃四郎やめぐみが迎えてくれるため、少しずつ心が軽くなっていくのを感じていた。

ある日の帰り道、タケルは晃四郎と一緒に雁木の下を歩いていた。外は吹雪が強く、雪が勢いよく降り続いている。それでも、雁木があるおかげで、彼らは雪に打たれることなく、穏やかに歩き続けられた。

「ねぇ、タケルくん、どうして雁木って呼ぶか知ってる?」晃四郎がふと尋ねた。

「え…知らないな。どうして?」タケルは興味津々で聞き返す。

「昔の人たちが、この町を雪から守るために作ったんだって。雁木っていうのは、がんばって作った『木』のことなんだ。冬の間はみんなで支え合って、雪の中を歩きやすくするために作られたんだよ。」

タケルはその話を聞き、雁木が単なる道ではなく、人々が助け合うために生まれたものだと知って感動した。「すごいね。こんなにみんなで支え合ってるなんて思わなかった。」

晃四郎は微笑んで、タケルの肩をポンと叩いた。「この町のみんなはね、タケルくんも家族みたいに思ってるよ。だから、雪が降るとみんなで助け合って、一緒に生きてるんだ。」

タケルはその言葉に勇気をもらい、自然と笑顔がこぼれた。彼の心には、町の人たちと一緒に生きているという温かさが広がっていく。

第五部

ある日の放課後、タケルは「だいちのめぐみ」で雪かきを手伝うことになった。めぐみが頼むと、タケルは快く引き受け、雪かきスコップを持って店の前に出た。晃四郎も手伝いに出てきて、二人で雪をどかしながら、談笑を続ける。

「ねぇ、タケルくん、僕たちもこの町の一員として、雁木を守る人になれるんだよね。」晃四郎が嬉しそうに言う。

「うん。俺もこの町のために何かしたいって思えるようになったよ。」タケルも同じ気持ちだった。これまで感じていた寂しさや孤独感が、少しずつ溶けていくのを感じていた。

その時、商店街の他の人たちも雪かきを手伝いにやってきた。彼らはタケルに声をかけ、「いつもありがとうね」と感謝の言葉をかけてくれた。タケルは思わず照れ笑いしながら、みんなと一緒に雪をかき続けた。

第六部

雪かきを終えた後、めぐみが温かいおにぎりを作ってくれた。雪かきをして冷えた体に、おにぎりの温かさがじんわりとしみ込んでくる。タケルはそのおにぎりを食べながら、心の中で感謝の気持ちが湧き上がってきた。

「お母さん、タケルくんのおかげで今日は早く雪かきが終わったよ。」晃四郎が嬉しそうに言うと、めぐみも笑顔で答えた。「タケルくん、本当にありがとう。あなたもこの町の一員だね。」

タケルは顔を真っ赤にしながらも、心から嬉しそうに微笑んだ。雪が降り積もる寒い日々の中で、「だいちのめぐみ」と商店街の人々とのつながりが、彼にとってかけがえのない居場所となっていた。

第七部

それから数週間が経ち、タケルは毎日のように「だいちのめぐみ」を訪れるようになった。彼の心に芽生えた温かさは、日に日に大きくなっていった。学校で少し辛いことがあっても、「だいちのめぐみ」で晃四郎と話し、めぐみのおにぎりを食べることで、彼は元気を取り戻していた。

ある日の夕方、タケルは「だいちのめぐみ」にいた。外はまだ吹雪いており、町中が白い雪に覆われている。その時、タケルがふと、商店街の一角で小さな子供が雪に埋もれているのを見つけた。

「晃四郎くん、ちょっと外を見て!あそこに誰かいるよ!」

晃四郎とタケルは急いで外に出て、雁木の下で震えている小さな子供に駆け寄った。彼は泣きそうな顔をして、雪道に迷ってしまったのか、身動きが取れない様子だった。

「大丈夫?寒かったよね…」タケルが優しく声をかけると、子供は涙を流しながらタケルに抱きついた。

「お母さんとはぐれちゃったんだ…」と小さな声で答える子供に、晃四郎は手を握り返し、「一緒にお店に戻ろう。おにぎりもあるよ」と安心させるように言った。

第八部

タケルと晃四郎は、泣いていた子供を連れて「だいちのめぐみ」に戻った。めぐみが温かいタオルを用意し、子供にかけてあげた。彼は少しずつ落ち着きを取り戻し、おにぎりをもらうと嬉しそうに食べ始めた。

その様子を見て、タケルは自分が助けられてきた「だいちのめぐみ」の温かさを、今度は自分が他の人に伝えられたことに気付いた。彼の心には、自然と人を支えたいという思いが湧き上がっていた。

「タケルくん、君が見つけてくれなかったら、この子はもっと寒い思いをしていたかもしれないね。ありがとう。」めぐみが感謝の言葉をかけると、タケルは少し照れながらも、心の中で誇らしい気持ちが膨らんでいった。

その後、子供の母親が慌てて店に駆け込んできた。彼女は涙を流しながら、子供を無事に見つけたことに感謝し、タケルと晃四郎、めぐみに頭を下げた。「本当に、ありがとう…」

タケルはその時、助け合いの大切さを強く実感した。この町の雁木のように、自分も誰かを守る存在になれるのだと感じたのだ。

第九部

その晩、タケルは「だいちのめぐみ」に集まった商店街の人々と一緒に夕食を楽しんだ。雪で外に出にくい日々が続いていたが、雁木のある道を通じて、みんなが集まり、助け合いながら日々を過ごしている。人々の笑顔に包まれ、タケルはもうこの町が自分にとってかけがえのない場所であると確信していた。

晃四郎はタケルに微笑んで言った。「タケルくんも、この町で大切な存在になってきたんだね。みんながタケルくんを信頼してるんだよ。」

タケルは少し恥ずかしそうに笑い、「僕も、みんなのことが大好きだよ」と答えた。彼はこの町で、助け合うことの素晴らしさを学び、心が満たされるのを感じた。

第十部

春が近づき、雪が少しずつ解けていく中、タケルは新しい目標を見つけていた。彼は自分もこの町の一員として、誰かの助けになれる存在になりたいと思うようになった。雁木の下で、晃四郎とともに町の人々と支え合う日々を続けることを決意した。

「だいちのめぐみ」は、タケルにとって温かい居場所であり続け、彼はこれからも商店街の一員として、町の人々と共に過ごしていくのだろう。雪が解け、新たな季節が訪れるころ、タケルはこの町での新しい生活を楽しみにしていた。

こうして、タケルはこの町で心の拠り所を見つけ、助け合うことで自分も成長していった。「だいちのめぐみ」で得た温かさと友情が、彼の人生をさらに豊かなものにしてくれるに違いない。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?