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セラ ケンタロウ
2020年9月13日 14:40
良心を失ってしまうのが怖かった。それなのに、世に対する恨みは、日増しに強まっていく。一向に増えない預金残高に比してみれば、その増加速度は、指数対数的といってもいい。独身、アラフィフ、窓際族、ブス・・・マッチングサイトに登録してみても、あまりもののハゲとブサイクばかり・・・ これでは敦子が鬱憤を溜め込んでしまうのも無理なかろう・・・ 抑えきれない憎悪のせいで、他人のささいなミスにも声を荒げ
2020年9月6日 13:08
永いあいだ、僕は夢を見ることがなかった。暗い夜が、ただ暗い夜のまま、過ぎてゆくだけだった。久しく見ていなかった月を見た。満月だった。夜空にぽっかり穴が空いているよう。暗い洞窟に、太陽の光が漏れてくる。夢そのものだった。宇宙の外側が、片鱗を覗かせている。とても眩しいくらいで、熱さえ感じられそうだった。真夏の残滓が、そこで燃え尽きようとしている。地上から追いやられ、消えゆく夏の香りが、そこに凝
2020年9月1日 12:24
お互いにお互いの心の寂しさは埋められないと知っていたから、朝陽との関係は、実に淡泊だった。 夜、ホテルの近場で落ち合い、特に何かを話すでもなく、部屋に入るや愛撫して行為にいたり、朝は最寄りの駅で、別々のホームへ向かってお別れをする。 心のつながりといえば、そのときに交わすささやかな微笑くらいだった。それは不思議な瞬間だった。彼女の口元が微かな笑みをたたえた瞬間、それは空間の裂け目のようであり