セラ ケンタロウ

1990/4/4, Tokyo. ふつくしい文章を求めて、夜と百合の間で揺れる人。スキって言われると、離れたくなるタイプです。

セラ ケンタロウ

1990/4/4, Tokyo. ふつくしい文章を求めて、夜と百合の間で揺れる人。スキって言われると、離れたくなるタイプです。

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綺夏のいたわり:ショートショート

 かすむ目をパチクリさせながら歯を磨いていたら、突然、鏡の自分と実際の自分の動きとが、少しずれているのではないか、という気がしてきた。  一旦、歯磨きを中断して目を流してみる。  クリアーになった視界はだが、却って状況を詳らかに露呈してしまったようだ。  かすんでいた時の方が、鏡と自分はずっと合致していた。  顔を上げたとき、綺夏(あやか)は自分の後頭部が見えてしまったのである。幸い、地肌はしっかりと髪に覆われていて健康的だった。  『ふぅ』 などと安心している場合で

    • 【雑感】矛盾する規範

      朝方6時、出勤するために電車に乗ると、思いの外混んでいて驚く。駅は既に3密状態だが、一応、たとえば階段では上る方、下る方と人の流れが秩序だっていて、方向性がきっぱりとあらわれている。しかもマスクをしていない者は一人としていない。 さすが日本人の道徳意識、と感嘆することもできようが、注目すべきは、そのホームに発着する電車の特質上、朝はホームから下りて駅を出、職場へ向かう人の数が圧倒多数で、上ってゆく人の姿は稀である。というより、ほとんどいなくて、階段を下りる一歩目から下りきる

      • 最近、スマホの修理工場でせっせと働いているのだけど、どれもこれも壊れ方が尋常じゃない。普通に落としただけではあんなに割れないだろう。みんな結構、スマホ投げてるんだな笑 なかなかのカルチャーショックでした

        • 【雑感】伊勢谷友介とテレビ放送(Ⅰ~Ⅲ)

          Ⅰ 美と善。ギリシャの昔から論じられているこの絶対的価値。しかしその次元は現代ではもっぱら表象の領野に閉じ込められて、「イメージ」という表象的直観が猛威をふるっている。新実在論者マルクス・ガブリエルの言うように(世界史の針が巻き戻るとき、PHP新書)我々の認識はいま、現実から乖離し、イメージがその大いなる基盤となっている。現実を捉えるのは、本来、理性の仕事であったけど、それ対する信用が失われたせいで、あるいは単なる怠惰というべきか、替わってイメージが、宗教的真理がかつて我が物

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        綺夏のいたわり:ショートショート

        • 【雑感】矛盾する規範

        • 最近、スマホの修理工場でせっせと働いているのだけど、どれもこれも壊れ方が尋常じゃない。普通に落としただけではあんなに割れないだろう。みんな結構、スマホ投げてるんだな笑 なかなかのカルチャーショックでした

        • 【雑感】伊勢谷友介とテレビ放送(Ⅰ~Ⅲ)

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          【雑感】わたしの矛盾

           出会い系やマッチングアプリなんかに一度でも登録すれば、たとえば「彼女にできないことをお願いできるアプリ❤️」なんて文案の広告が流れてくるわけで、その昔、小学生のとき私は1年だけ大阪に住んでいたことがあったのですが、家のポストによく入っていたヘルスかなんかのチラシみたいなのが、今やスマホという高度なプライベート空間に寄生しているのです。  まったく、ネットとは上手い具合に人間の欲望を拾ってくる空間だと関心せずにはいられないのも正直なところです。  もっと正直に言えば、エロチ

          【雑感】わたしの矛盾

          敦子の守護神:ショートショート

           良心を失ってしまうのが怖かった。それなのに、世に対する恨みは、日増しに強まっていく。一向に増えない預金残高に比してみれば、その増加速度は、指数対数的といってもいい。独身、アラフィフ、窓際族、ブス・・・マッチングサイトに登録してみても、あまりもののハゲとブサイクばかり・・・  これでは敦子が鬱憤を溜め込んでしまうのも無理なかろう・・・  抑えきれない憎悪のせいで、他人のささいなミスにも声を荒げる彼女は、当然の成り行きとして職場ではモンスター社員と陰口を叩かれ、厄介者扱いさ

          敦子の守護神:ショートショート

          【雑感】就活と恋愛、からの刑法178条

           確かに、就活は優秀な人から決まってゆく。嘘偽りない真理であるけど、どの点において優秀なのか。ご存知、嘘なのです。  おお、嘘。おお、なんと不穏な言葉でしょう。いやいや、さっさと内定を貰っている人はみんな悉く誠実で真面目な人ですよ、と思っているあなたは要注意。なぜならあなたはもう既に騙されているからです。嘘つきにおいて優れている人は、就活戦線においては圧倒的に有利です。  実力で内定を得たのではないなら、入社後は厳しいのではないか、とも思うでしょう。しかしここが社会の恐ろし

          【雑感】就活と恋愛、からの刑法178条

          里奈子の冷たい太陽:ショートショート

          永いあいだ、僕は夢を見ることがなかった。暗い夜が、ただ暗い夜のまま、過ぎてゆくだけだった。 久しく見ていなかった月を見た。満月だった。夜空にぽっかり穴が空いているよう。暗い洞窟に、太陽の光が漏れてくる。夢そのものだった。宇宙の外側が、片鱗を覗かせている。 とても眩しいくらいで、熱さえ感じられそうだった。真夏の残滓が、そこで燃え尽きようとしている。地上から追いやられ、消えゆく夏の香りが、そこに凝縮されている。 宇宙の外にあるもの。誰もが知りたがっているその真理を、僕は見た

          里奈子の冷たい太陽:ショートショート

          【雑感】政治家への労い

           安倍首相が辞任した。今日のツイッターでも、どこかの大学の左翼知識人が炎上している。  彼はおそらく、教養があるのだろう。そうした自分の知性が、少しも世に影響力を持ち得ない現状に対する怒りと焦燥に、まぁ要するに彼は駆られているのだけど、左翼とか右翼とかのイデオロギー的な立場の違いをいったん棚に上げて、ごく冷静に考えてみれば、政治家への労いが良いことか悪いことか、疑問に付す価値はあると思う。  安倍首相への労いは、皆んなが皆んな、まさか「保守派のためにありがとう」なんて風に思

          【雑感】政治家への労い

          朝陽のプロポーズ:ショートショート

           お互いにお互いの心の寂しさは埋められないと知っていたから、朝陽との関係は、実に淡泊だった。  夜、ホテルの近場で落ち合い、特に何かを話すでもなく、部屋に入るや愛撫して行為にいたり、朝は最寄りの駅で、別々のホームへ向かってお別れをする。  心のつながりといえば、そのときに交わすささやかな微笑くらいだった。それは不思議な瞬間だった。彼女の口元が微かな笑みをたたえた瞬間、それは空間の裂け目のようであり、ひずみのようであり、極微なズレ込みさえ許さない、一切合切あるべき所に固定された

          朝陽のプロポーズ:ショートショート

          遼子の娘:ショートショート

           特にやることがなかったので、どうすれば夢のなかで夢と認識できるのか、遼子は考えてみた。  思いついたのは、一か月のあいだ、同じ色の服を着ることだった。もし違う色のTシャツなりを着ていたら、それこそが夢に違いない。  そう考えて、遼子は赤色の服を10着買い、それ以外は捨てた。  翌日、彼女は青い服を着ていた。 『さっそく!これは夢ね!これからどんなことが起こるのかしら!』 と胸を躍らせた。  家を出ると、「ママ!」と呼ぶ女の子の声がした。遼子は独身で子供などいなか

          遼子の娘:ショートショート

          咲子の情熱:ショートショート

          どうすることもできない。世界については、どうすることもできない。考えるだけ時間の無駄。頭を悩ますだけ時間の無駄。大事なことは、それが自分の金になるか、ならないか、だ。 世界が危機にないとき、俺の生活は対照的に危機的だった。世界が危機に陥ったとき、やはり俺の生活は変わらず危機的だった。 だったら、世界を救う意味なんかないじゃないか。だから大事なことは、ただただ俺が生活できるか、できないかにある。 咲子という付き合って間もない彼女が、熱心にデモ活動や抗議活動に駆り出ていることを

          咲子の情熱:ショートショート

          【読書】コロナ時代の哲学:神的暴力と全体主義

           我々は日々、何者かになろうと奮闘している。哲学しない哲学者が哲学者ではないように、仮に何者かを保証する肩書が既に彼にあったとしても、常にそれを維持しようと能動的にならないなら、その人はもはや実質的には何者でもないし、ほとんどの人がそれを理解して、懸命に努めている。  ところが、我々が何者であるかを、ほぼ一方的に決めてくれる、やさしい?強大な力がある。まず、かつてその力は、人々の前に、道をつくった。きれいに舗装された、いかにも歩きやすそうな道である。一切の個人的努力を要せず

          【読書】コロナ時代の哲学:神的暴力と全体主義

          玻奈子のメンヘラ:ショートショート

          スマホの電池が切れそうだ。まだ30%残っているけど、なんだかもう、セカイが終わってしまいそうな気分だ。画面がぱたりと真っ暗になると同時に、セカイの電源もぱたっと切れてしまえばいい。 電車の窓はすべて開け放され、地下鉄を走る列車の轟音が鼓膜を激しく掻き回す。荒っぽい手つきでデリケートなところをなぶられているよう。 ついさっきまでの楽しかった一時も、それが今後も約束されているはずなのに、玻奈子の心を持続的に癒すには、力不足だった。 肌寒い夜闇が彼女の心の常だった。灯された蝋

          玻奈子のメンヘラ:ショートショート

          ナオミの産婆術:ショートショート

          死のうと思ってビルの屋上にやってきた。すでに先客がいた。もちろん、助ける気はさらさらない。救えないくせに自殺を止めたいと思ってる人が昔から嫌いだった。 しかし自分が死ぬには彼女は邪魔な気がした。 「ねえ、君さ」 女が振り返る。 「なに?邪魔しないでくれる?」 「いやいや、邪魔してるのは君だろう。名前なんていうの?」 「は?なにいきなり?どういう神経してんの?そもそもあんたに関係ある?てか邪魔ってなに?」 「へぇ、ナオミっていうんだ。あのさぁナオミ。別のところで飛び降りて

          ナオミの産婆術:ショートショート

          カオルの錯誤:ショートショート

           彼はいったい何が楽しくて生きているのだろう。照り付ける日差しに背を焼かれながら、来る日も来る日も穴を掘っては埋め、こんな意味のない退屈な仕事に従事して得られる日銭といえば、ようやく空腹を満たしうる程度の賃金だった。  正確には、それは賃金ではなかった。労役に対する報酬ではない。では何か。言うところのベーシックインカムであるが、ただでは金をあげたくない陰湿な社会が要求した妥協案だった。  どんなに仕事のできない不器用な連中でも、このくらいのことはできるだろう、と、しかし問題は

          カオルの錯誤:ショートショート