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【テスト小説】「詐欺師、広告業界を破壊する!?」/第2幕:『欺瞞の壁を越えて』

キャラクター
主人公:高杉 陸(たかすぎ りく)
元プロ詐欺師。詐欺の天才であり、策略家。
信念よりも"勝つこと" を優先する合理主義者。

御堂 一馬(みどう かずま)
40代の広告ク代理店「LUX(ルックス)」部長。
冷静沈着で知的、しかし皮肉屋。
哲学的な思考を持ち、広告業界の矛盾に内心疑問を抱いている。

影山 達也(かげやま たつや)
大手広告代理店「LUX(ルクス)」のクリエイティブディレクター。
表向きは軽快で明るい性格の中年男だが、その実、狡猾で冷酷。
どんな商品でも「売れる広告」に仕立て上げることを信条としており、倫理や道徳には興味がない。


↓第1幕


第4章:「欺瞞の構造」

陸は広告業界に馴染みつつあった。
御堂のもとで仕事をする中で、「広告とは人を動かすための洗練された詐欺」と改めて実感する。

そんなある日、大手食品メーカーの新商品の広告を任されることになる。
商品のコンセプトは 「飲むだけで健康的な体を手に入れるスーパードリンク」 だった。
しかし、裏側を見れば、その効果は微々たるもので、医学的な裏付けもほとんどない。

そんな時、陸のもとに影山が現れる。

「新人くん、君にこの案件を任せるよ。」

影山は楽しそうに書類を投げて寄越した。
陸は冷笑しながら受け取り、目を通す。

「この商品、本当に効果あるんですかね?」

影山はニヤリと笑う。

「バカだなぁ、効果があるかどうかは問題じゃないんだよ。」
「大事なのは、『あると思わせること』さ。」

陸は笑った。
「簡単そうですね。」


第5章:「欺瞞の広告戦略」

陸は冷静に考えた。
「この商品は、ただの健康食品に過ぎない。しかし、人々に “奇跡のドリンク” だと思わせればいい。」

そこで、彼は 以下の戦略 を立てた。

  1. インフルエンサー戦略
    まず、健康・美容系のインフルエンサーを起用し、彼らに実際にこのドリンクを飲ませる。
    そして、彼らの 「実体験レビュー」 を拡散させることで、「効果がある」と思わせる。

  2. 偽の研究結果を強調
    会社側が提供した 「科学的に根拠があるように見えるデータ」 を広告に組み込む。
    実際には因果関係の証明が不十分でも、「〇〇%の人が健康になった」といった曖昧な表現を使うことで、消費者に強い印象を植え付ける。

  3. 広告のビジュアルを徹底的に作り込む

    • 飲むだけでスリムになった男女のビフォーアフターを演出。

    • 背景に青と白を基調とした「清潔感のあるデザイン」を採用し、「科学的で信頼できる」印象を与える。

  4. 期間限定キャンペーン
    「今なら50%オフ」や「初回限定で無料」といった特典をつけることで、消費者の「今すぐ買わないと損をする」という心理を煽る。

  5. 口コミ誘導

    • SNSで「効果があった!」という投稿を拡散させる。

    • やらせレビューを書かせ、Amazonや楽天などの評価を高める。

影山は陸のアイデアを見て、満足そうに笑った。
「いいねぇ! これで、何百万本と売れるさ!」


第6章:「欺瞞の大成功」

結果、この広告戦略は 見事に成功 した。

  • 発売初月で 50万本 が売れ、メーカーの売上は 過去最高 を記録。

  • SNSでは「このドリンクのおかげで人生が変わった!」という投稿が次々にシェアされる。

  • インフルエンサーたちは「本当に効果がある!」と熱狂的に語り、テレビにも取り上げられる。

影山は陸の肩を叩きながら言った。
「お前、天才だな。」

陸は笑った。
「簡単すぎて拍子抜けするよ。」

しかし、その夜、彼のスマホにある投稿が飛び込んでくる。

「広告と違って効果がなかった」
「誇大広告に騙された」
「企業の金儲けに踊らされた」

最初は無視するつもりだった。
「よくあるクレームだろ?」

しかし、その後も苦情が増え続け、ついには ニュース番組 で取り上げられる事態に発展する。

企業は対応に追われるが、陸は面白がっていた。
「想定内だろ? どこかで落とし所を見つければいい話さ。」

だが、御堂は違った。
彼は陸を連れ、クライアントとの緊急会議に参加させる。

そこには、クライアントの担当者と、消費者の代表 がいた。
消費者は憤っていた。

「私はあなたたちを信じていたんです! だからこそ、こんな広告に騙された自分が許せない!」

陸は思わず息をのんだ。
なぜ、彼女はそこまで怒っているのか?

御堂が静かに言った。
「人は、金を騙し取られたことよりも、自分の信じたものに裏切られた時に最も傷つくんだ。」

陸の脳裏に、これまでの詐欺の記憶が蘇る。

彼が狙ってきたのは、金に目がくらんだ者たちだった。
「この投資に参加すれば大儲けできる」
「特別なルートがある」
そんな甘い言葉を囁けば、彼らは疑いながらも金を差し出した。
詐欺だと気づいた時、彼らは激怒するが、それは 「自分が損をしたから」 であって、心の底から傷ついているわけではなかった。

しかし、今目の前にいる女性は違う。
彼女は、広告を信じたからこそ怒っている。

「信じることで、人は前に進める。でも、それが裏切られた時、人は何よりも深く傷つく。」

御堂の言葉が胸に響いた。
陸はふと、自分自身の過去を思い出した。

(俺は、誰かを信じたことがあったか?)

幼少期から、人を信じるよりも騙す方が楽だと知っていた。
誰も信じなければ、誰にも裏切られない。
だから、詐欺師として生きることに疑問を持ったことはなかった。

だが、目の前の女性は 「信じたことそのものを後悔している」
陸は理解できなかった。
なぜ、信じたことでこんなにも傷つくのか?

「……信じるって、そんなに大事なことなのか?」

自分の中の価値観が少しずつ崩れ始めているのを感じた。
だが、それを認めるのは怖かった。

だから、陸はただ 「クライアントのため」 という仮面をかぶったまま、会議を終えた。
しかし、その夜、彼はなかなか眠ることができなかった——。


第7章:欺瞞の先にあるもの

夜のオフィス。蛍光灯の明かりがぼんやりと机の上を照らす。

高杉陸はパソコンの画面を見つめながら、コーヒーを片手に考えていた。
「信じることの価値」について。

最近、影山と御堂の言葉が頭から離れない。
自分は詐欺師だ。人を騙すことに何の罪悪感もなかった。
だが、影山が自分を信じ、広告制作の才能を評価してくれたことで、妙な違和感が芽生え始めた。

「俺は本当に広告を作る才能があるのか? それとも、また騙しているだけなのか?」

陸は、自分自身の在り方について初めて疑問を抱いていた。

翌朝、影山が陸のデスクに書類を置く。

「新しい広告キャンペーンのプロジェクトだ」

書類に目を通すと、今回のクライアントは「夢を叶える自己啓発教材」を売る企業だった。
「成功するためのメソッド」や「人生を変える秘訣」を売りにする商材で、広告次第では爆発的に売れる可能性がある。

影山は笑顔で言った。
「人は希望を求めている。だから、希望を見せてやればいい」

陸は思わず笑ってしまった。
「それは詐欺とどう違うんだ?」

影山は肩をすくめる。
「詐欺かどうかは、売る側の問題じゃない。買う側がそれをどう受け取るかだ」

まさに、陸がこれまで信じてきた価値観だった。
しかし、どこか違和感が残る。

その日の昼休み、陸は御堂に話を持ちかけた。

「影山が言ってた。人は希望を求めてる。だから、希望を見せる広告が必要なんだってさ」

御堂は静かにコーヒーを飲みながら、言葉を選ぶように口を開く。

「広告とは、消費者の欲望に応えるものではない」

陸は怪訝そうに眉をひそめる。

「むしろ、広告とは生産者の欲望に応えるものだ」

御堂は、デスクにあった雑誌を手に取る。そこには最新のトレンド商品が並んでいた。

「人は本当に必要なものなら、勝手に買う。広告が存在する理由は、"必要ではないもの"を"必要に見せる"ためだ」

陸は思わず言い返す。
「でも、人は自分が欲しいものを求めてるんじゃないのか?」

御堂は首を横に振る。
「いや、本来の広告はそうあるべきだった。人々の心の奥底に眠る欲望を引き出し、それを言語化するのが広告の役割だったんだ」

陸は驚いた顔をする。

御堂は続ける。
「人は自分の欲望を正確に言語化できない。"何か足りない"と感じていても、それが何なのか分からない。広告の本来の役割は、それを形にすることだった」

陸は少し考え込みながら、御堂の言葉を反芻する。

「……でも、今の広告は違うってことか?」

御堂は頷く。
「今の広告は、消費者の本当の欲望を引き出すんじゃない。企業にとって都合のいい欲望を"作り出している"だけだ」

陸の中で、また一つ疑問が芽生えた。

影山は「お前が作る広告なら、もっと人を惹きつけられる」と期待している。
陸は「売れる広告を作る」ことに徹するべきか、それとも何かを変えるべきか、決断を迫られていた。

とりあえず、影山の言葉に従い、広告制作を進めることにした。
だが、作業を進めるうちに、陸はますます欺瞞の本質に気付き始める。

このまま進んでいいのか?
それとも、何かを変えなければならないのか?

陸の心の中で、少しずつ変化が始まっていた。


第8章:欺瞞の広告と向き合う時

高杉陸は、影山と共に「夢を叶える自己啓発教材」の広告キャンペーンを担当していた。
「このメソッドで人生が変わる!」
「成功者たちが実践した秘密の法則!」
そんな誇大なキャッチコピーを作りながらも、陸の中には妙な違和感が芽生えていた。

ある日、影山とのミーティングで陸は思わず言った。
「これ、本当に価値のある商品なのか?」

影山は一瞬驚いたが、すぐにクールに答えた。
「価値は、売れたかどうかで決まる。売れれば、それは必要とされたってことだろ?」

陸は反論する。
「でも、それって……ただ人の不安につけ込んでるだけじゃないのか?」

影山は不機嫌そうに溜息をつく。
「お前、最近変わったな」

「……そうかもしれない」

影山は腕を組んで陸をじっと見つめる。
「マーケティングの世界では、消費者に"欲望を植え付ける"ことも仕事の一つだ。お前は何を迷ってるんだ?」

陸は答えられなかった。

影山との会話の後、陸は御堂のオフィスを訪ねた。

「俺、本当にこのままでいいのか分からなくなってきた」

御堂は微笑む。
「ようやく気付いたか」

陸は黙り込む。

御堂は静かに続けた。
「広告とは、本来、消費者の心の奥底に眠る"言葉にならない欲望"を引き出し、言語化するものだ。しかし、今のお前たちがやっているのは"売るために欲望を捏造する"ことだ」

陸は小さく息を吐く。

御堂はさらに続ける。
「お前は今まで、人を騙して生きてきたんだろう?」

陸は一瞬ドキリとするが、表情には出さない。
(……なぜかバレているような気がする)

「だが、騙す側にいたお前だからこそ、"騙し"と"本物"の違いが分かるはずだ」

その言葉が、陸の心に小さく響いた。


第9章:謎のメール

ある日の午後、陸のデスクに見慣れないメールが届いた。
送信者不明──件名は「知っておくべきこと」。

陸は眉をひそめながらメールを開く。そこには、詳細な広告戦略の資料が添付されていた。

──ある大手クライアントの商品が、実際には効果がほとんどないにもかかわらず、「革新的な技術」として市場に売り出されていること。
──社内のマーケティングチームが、消費者の心理的な弱点を狙い、「科学的根拠のないデータ」をいかにそれっぽく見せるかを議論していたこと。
──消費者が疑問を持たないよう、口コミサイトやSNSでの操作が行われていたこと。

すべて、社内で隠されている機密情報だった。
(……なんだ、これ)

陸は身を乗り出し、何度もスクロールして読み返した。内部関係者でなければ知り得ない情報ばかりだ。

(誰がこんなものを……?)

送信者のアドレスは完全に匿名化されていた。社内の誰かが、わざと外部のメールサーバーを経由して送ったのかもしれない。

陸はしばらく考え込んだ後、スマホでメッセージを御堂に転送した。

──「俺は今まで"人を騙す"仕事をしてきた。だからこそ分かる。これが詐欺と何が違う? 違うのは、それが違法かどうかってことだけだろ?」

陸が送ったメールに対し、御堂からの返信は短かった。

「線引きをするのは法律じゃない。"自分が許せるかどうか"だ。お前は、このやり方を許せるのか?」

陸はスマホを握りしめたまま、考え込んでいた。

御堂の言葉は単純だが、妙に重く響いた。

──「線引きをするのは法律じゃない。"自分が許せるかどうか"だ」

(……許せるかどうか?)

何を今さら、と自嘲する。
詐欺師として生きてきた自分が、今さら"許せるか"なんて考える資格があるのか?

だが、あの匿名のメールが頭から離れない。

(この情報を送ってきたのは誰だ……?)

社内の誰かが、わざわざ自分に向けて送った。

まるで──「お前なら、この事実をどう受け止める?」と問われているように。

「……チッ」

舌打ちをしてスマホを置くと、陸はオフィスの窓の外を眺めた。

ネオンが輝く街。煌々とした看板。そこに映し出される、数々の広告。

(この街は、何でできてる?)

それは、欲望か。
それとも、欺瞞か。

陸は、自分の中で何かが揺らぎ始めているのを感じていた。

そしてその時──

「……何考え込んでんの?」

突然、背後から影山の声がした。

「別に……」

「ふーん?」

何気ない会話。でも、陸は感じ取っていた。

影山の視線が、普段よりも鋭く、自分の表情を探るように向けられていることを。

(……まさかな)

陸は軽く肩をすくめ、笑みを作った。

しかし、この瞬間から、彼は無意識に"影山の行動"を気にするようになっていた。

まるで、影山こそがこの全ての鍵を握っているのではないか──
そんな疑念が、胸の奥で静かに芽生え始めていた。

──そして、この"疑念"こそが、次の幕を開くことになる。

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