段々とミシガンに乗ってみたくなってきた
構成がうまい
本作も変わらず主人公は成瀬あかりという「おもしれー女」。成瀬は天下を取りに行くでは、その最終章で成瀬あかり本人の視点で描かれる章があった。
本作も当然、成瀬あかり本人の視点はどこかであると思い、ワクワクしながら読みすすめていきました。
しかし読めども読めども、成瀬あかりは出てきても、成瀬あかりその人の視点は出てこない。
1章は、成瀬あかりが島崎みゆきとM-1出場の為に組んだお笑いコンビ、ゼゼカラの大ファンの小学生の視点。成瀬はこの時高校3年生。
2章では、成瀬の父親の視点。娘である成瀬あかりが京都大学を受験・入学するにあたり、どうやらひとり暮らしを画策しているようで・・・?
3章は、成瀬あかりがアルバイトで勤めているフレンドマートの常連客の中年女性のお話。この時成瀬は大学1年生。
4章では、びわ湖大津観光大使として成瀬あかりと共に1年間の任期を全うする事になる、祖母も母も観光大使を務め、親子三代に渡って観光大使を歴任してきた一家の女子大学生の視点。このt気成瀬は高3~大学1年生。
5章(最終章)では、満を持して成瀬・・・!と思いきや、なんと成瀬は「さがさないで下さい」という置き手紙をひとつ残して、スマホも持たずに大晦日に突如失踪・行方不明に。
これには登場人物はおろか、我々読者も「えー!成瀬いないの!?」と頭を抱えたに違いない。
しかしこの状況でも「まあ成瀬だし」とあっけらかんとしている、幼馴染の島崎みゆきの視点で物語は閉じていく。
私が構成が上手いと思ったのは、前作成瀬は天下を取りに行くでは、いつ主人公の視点を見せてくれるんだ・・・いつなんだ・・・?と我々読者にフラストレーションを溜めさせて、それを最終章で発散させてくれる構成をしていた。
本作成瀬は信じた道を行くでは、同様の構成を取ってくるのだなと思わせておいて、我々読者の視界からあえて遠ざけておいた幼馴染、島崎みゆきの視点で描かれる。
なるほど島崎はそのために東京に引っ越したのか、とさえ思わされる作り。
最終章がはじまったその時、我々読者は「なんだ成瀬視点じゃないのか・・・」というガッカリ感よりもむしろ、「島崎!島崎じゃないか!」と自分の親友と出会えたかのような安心感がそこにはあったハズである。
素直に期待に応えてくれた前作と、良い意味で期待を裏切ってくれた本作。宮島先生は本当にこれがデビュー作なのか?と思わされるほどお話づくりが上手で、世界観もあいまって引き込まれてしまう。
変わらぬ軽快感と、群像劇の持つ強み
成瀬シリーズのお話が面白いことは、私が語るまでもなく面白い。
そして本作でも、前作の軽快なテンポは損なわれる事なく進んでいった。ビックリするが、本2冊だけで成瀬あかりという人物は中学2年生~大学2年生まで成長を遂げている。
次作があるとすれば(あるに決まっている)、成瀬は恐らく大学4年生近辺で、就活をしているか会社員になっていそうである。
成瀬の夢のひとつに、膳所町に大きいデパートを構える事がある。なのでその勉強の為に、百貨店に務めそうでもあるし、勉強が好きという描写が出てきたので、研究者の道に進みそうでもある。そもそも勤め人になっていない可能性もあれば、地方公務員にもなっていそう。被選挙権を手に入れたら、市議会議員に立候補していてもおかしくない。
それほどまでに成瀬の可能性は無限大だ。
また本作のもう一つの魅力に、成瀬あかり史に名を刻む人間という形で、様々な登場人物の視点が描かれる。
本作では(前作もだが)その構成を上手に扱い、最終章で各章の主人公たちを集結させる。
視点は先程も申し上げた通り島崎の視点ですすむのだが、各章の主人公が何かしらで関わってくるのだ。しかも成瀬あかりという人物に出会った事により、多かれ少なかれ影響を受けたカタチで。
成瀬シリーズの真骨頂である軽快感と群像劇の強み、本作も楽しませていただきました!
余談:妄想!今後出てきそうな成瀬あかり史に名を刻みそうな人々
1月末に発売されたばかりの本作ですが、もう次回作が待てないので、勝手に次回作の各章を担うキャラクター達の予想を立ててみました。
成瀬あかりの母
成瀬あかりの父は本作でその視点が描かれているが、御尊母は未だ描かれていない。物静かな人という以上の情報はあまり無く、父ほど娘に対して過保護でもないので、成瀬あかり同様感情が読みづらいキャラクターとなっている。次回作当確レベル。
ありがとう西武大津店に出てきた白髪の男性
何となく前作「成瀬は天下を取りに行く」の時から、この人はポッと出で出したキャラクターではないのでは?と違和感を覚えながら読み進めたのを覚えている。
天下を~の時にその伏線が回収されるのかと思いきやそういうわけでもなく、信じた道を行くでも特に出ては来なかった。
私の思い過ごしなだけかもしれないが、その後の再登場が地味に気になっている人物である。
タクロー或いはマサル
前作で多く登場したマサルだが、登場人物としては極めて優秀な部類の人。無理に視点を描かなくてもマサルの奥行きは充分表現されていると思うが、可能性はありそう。
タクローは個人的に成瀬母に次ぐ主人公キャラと思っているキャラクターで、大阪でごみ収集車のドライバーをやっている以上の情報が無い。
マサルともう一人の敬太は既に成瀬あかり史に名を刻んでいる。タクローは作中で成瀬あかりと交流が無い数少ない人物の1人。そうした人間が成瀬あかりにどう感化されてしまうのか、とても気になる。
結希人
前作のレッツゴーミシガンで、章主人公西浦の相棒として出てきた恋多き多感な高校生だった結希人。西浦と同じ進路を進んだとは考えづらいが、西浦の近況報告がてら出てくる可能性はありそう。
成瀬あかり
満を持しての登場。今作での成瀬視点での描写が無かった分、しっかりと読ませてほしい。何なら次回作第一章からいきなり成瀬視点ではじまっても私は驚かない。
まだ知らぬ人
まだ成瀬あかり史に名を刻んでいない人物。これが一番濃厚な線ではある。何せ成瀬あかりという人物は、これからも様々な人々を巻き込んでいくに違いないからである。