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軍事はカネが必要。ならばどこから捻出するかー通常経済の逆を行く戦時経済

 軍事は、消費一辺倒です。軍事予算は破壊のためであり、生産のための投資とは逆を行きます。おまけに国債で予算をほぼ全額賄うので、通貨発行量だけは増えていきます。通常の経済では投資や消費に回れば景気の回復となるのですが、戦時下では悪性インフレを生みます。1941(昭和16)年7月15日発行の国策紙芝居「拾円札の喜び」は、そんなインフレの仕組みと避ける方法を説いたものです。
 大事なことですので強調しますが、まだ日中戦争しかしていない段階で、日本の国家予算は大変な状態だったとよく分かります。
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 まず、戦費の比較です。日中戦争の臨時軍事費は、戦争が終わるまでを一つの会計年度として、予算を次々と追加していきます。1937(昭和12)年7月の日中戦争勃発から1941(昭和16)年2月に帝国議会を通過した分の総計は223億3500万円で、過去の戦争に比べてその膨大さが示されます。

満州事変12回分と説明。しかも終わる見通しがない…

 そして1941年度の政府予算案は一般会計で臨時軍事費に回す予算6億7000万円を除くと含めて73億2500万円、これに対し臨時軍事費は58億8000万円。実に軍事費を除く国家予算の8割に臨時軍事費がーこの年度だけでー達しています。日本の1・8年分の予算を1年につぎ込むようなものです。

臨時軍事費で1・8倍に膨れ上がった国家予算

 そして、このお金について「今度の支那事変の戦費は日清日ロの時と違い、金や物を外国に仰ぐ訳には行きませぬ」とあります。日清日ロは帝国主義陣営の一角となっての戦でしたからその複雑なバランスの中でやりくりできました。しかし、日本は満州事変を機に世界の信用を失い、国際連盟を飛び出して勝手に中国と戦争を始めたのですから、当然ですが、ここでは「この名誉ある予算、それは私達一億国民が各々其の双肩にこの負担を担うのです」ー名誉ときました。だから不平はやめて国難突破に進もうと呼びかけます。軍需の設備投資と国債消化、合わせて135億円を臣民に担わせます。

貯蓄目標135億円を、大政翼賛会キャラ大和一家に担がせます
臨時軍事費は全額、それ以外の分も含めて国債発行が75億円

 そして国債を中央銀行である日銀に引き受けさせ、発行される現金で軍需品をまかないます。日銀は、市場の通貨流通量を調整する機能を失います。この十年もそうでしたが。そして軍需に使った現金は、株主配当や労働者の手元に渡ります。

禁じ手の日銀による国債買い入れ
臣民の手元にも現金が

 さて、普通ならこの現金が市場を回りまわって、額面以上の活躍をすることで景気が良くなり、経済が循環するのですが、先に述べたように通貨発行量が調整できず増大する、戦時下で物資は不足する、という中で、同じことをやりますと、悪性インフレが発生するということになります。通貨の価値は経済規模で決まりますから、無制限に通貨を発行しつづければ、その価値は低下する一方です。

普通なら、宴会でさまざまな業者がうるおい
芸者さんの買い物などの波及効果も生み
経済に活気が出て、くたくたの10円札ご苦労様ですが…
戦時下は、物不足と通貨の増大で悪性インフレとなります。
お金が働くとすごい規模の消費になると脅します。

 そこで、10円札を働かせないように、労働者に強制的に貯金や国債をかわせるなどして市場に出回らないようにします。通常の経済とは逆に、消費させずピン札で日銀に戻せば拾円札も喜ぶとしています。

株主配当は国債、賞与の現金支給は4割まで抑え込むなどの例
臣民の懐から天引きしてと解説。
そしてさらに国債の購入を勧めます

 そして、さまざまな貯金や保険の購入などの方法で消費されずお金が集まることで軍事費や生産拡充が順調に行き「聖戦と東亜新秩序建設の大事業は完成されるのであります」と高らかに。

日銀に戻って来るお金

 この紙芝居は「さて、然らば国策に沿うた貯蓄とは何でしょう、また何が一番有利でしょう」と結んでいます。最初この紙芝居を入手したときは、完品じゃないのかとあせりました。実は、いろんな金融機関が自社の商品売り込みや自社への貯蓄を促せる、宣伝紙芝居だったのですねー。
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 これは戦時下のお話ですが、国家予算に占める軍事費の割合が高ければ高い程、それは経済の循環に寄与しにくいお金になる、ということは、平時においても同様です。
 国民に安心を与え、自衛官が不自由なく任務を全うできるバランスを見極め、できる限り多様な国民が必要とするところ、すぐにはお金にはならないが将来の役にたつこと、けがをしたり年をとっても、安心して療養して仕事に復帰したり生活ができたりするように国家予算を使うことで、国民は安心してその力を発揮し、経済にも社会にも活気が生まれるというものです。株価が生活の豊かさを示すものではない、と思っています。

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