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1936年から1945年まで、政府の政策を伝える狙いで発行が続いた官報付録「週報」の変遷で情勢の悪化と無責任を見る

 1936(昭和11)年10月14日、官報付録「週報」第1号が発刊されます。一部5銭、緑色の表紙で本文は28ページあり、毎週水曜日に発行するとしました。「発刊に際して」という一文を見ますと、従来の官報雑報の規模を拡充し「政府と一般国民との接触を緊密にし公明な政治の遂行に寄与」するとありました。表題写真は、収蔵している週報で、2冊は欠品しておりますが、残りは付録も含め445冊を揃えました。追跡すると面白いかもと思った次第です。

週報第一号は税制改革とスペイン内乱を巡る話題
発刊の狙い

 当初は内閣情報委員会という組織で発行していましたが、やがて情報部、情報局と格が上がっていきます。日中戦争開戦の話題が載ったのは1937(昭和12)年7月21日発行の第40号で「事変特集号」とし、以後、しばらく特集号が続いていきます。そして、戦争への国民の協力要請の内容、統制の説明など、戦時関連の記事で埋まっていくことになります。また、地図がこの号には付録となったように、時々地図が入ることがありました。

最初の事変特集号。8年も続く戦争となるとは感じていない様子

 では、太平洋戦争開戦時の号を見てみましょう。開戦は1941(昭和16)年12月8日、第270号は12月10日発行なのですが、既に出来上がっていたため、別刷りで「付録」を付けて開戦を伝えています。色が青く見えますが退色と光の加減で、実際は緑色です。

太平洋戦争開戦と関連の発表を付録にしてセット販売

 これから、一層戦争一色となっていきますが、1942年中盤から下り坂となり、1943(昭和18)年にもなると、輸送船の航路が危険となります。さらに戦闘での輸送船の消耗が激しく、民間需要が一層厳しくなっていきます。特に紙はパルプ不足で、週報も最低限の表紙まで含めて16ページにまで減らしていきます。
 そして、表紙の塗装も塗料節約の狙いで、前面緑色だったのが1943年12月1日発行の372号から中央に緑の太線、1944年4月5日発行の389号からは大事部分のみに緑色を。そして同年9月27日発行の414号からは墨の横線で変えるようになり、単色となります。最初の転換からわずか11カ月、転げ落ちるような勢いの変化が、物資の急速な悪化を物語ります。

薄くなっていた前面緑色から中央に緑の線へと転換
表題だけの色付けで少しでも節約になるかと
とうとう単色に。内容もだんだん追い込まれ感が

 そして、空襲の激化、輸送の困難さなどから、毎週1回の定期発行が間に合わず、合併号も頻繁に出るようになってきます。値段も倍になるなどしています。実は、現在も収集できていない444‐5合併号は空襲などを受けて、ごく一部にしか配達されなかったもの。443号の実質的な続きは446号となっています。

1945年6月20日号は6月13日を抜かした合併号

 戦時中最後の発刊となった1945年7月11日発行の450‐1合併号は、国民義勇隊を兵士にさせるための義勇兵役法を問答の形式で説明し、「国民義勇隊の歌」を掲載して鼓舞しようとしています。この歌詞の3番は、まさに義勇兵役法を適用された国民義勇戦闘隊にあたるでしょう。
 そして最終巻の452号は、8月29日の発行。天皇の詔書を載せ、状勢の変化で6号分は出せなかったと断りを入れ、後は野菜の話で、臣民の自助努力を求める内容。政府の反省の言葉も軍のお詫びもなにもないまま、尻切れトンボのように消えてしまいます。

戦前最後の号(右)と最終号
給料は出ないが食糧が出る、戦死者は靖国に祀られると。
国民義勇隊の歌。「陛下の赤子」ですよ。実際は日本刀など揃わなかったし
452号(最終号)に掲載の詔書。解説も何もない
情報局の説明らしいものはこれだけ

 週報も、戦争末期には6月から敗戦調印の9月2日までに、5号しか出せないほど、国力が低下していました。そんな状態で、本土決戦を呼号していたのです。政府が臣民に与えたのは、天皇のために最後まで戦い抜けという趣旨の「国民義勇隊の歌」でした。
           ◇
 あらためて読み返し、特に最終号は継続のつもりでもあったのでしょうが、何も民への政府としての姿勢が見られない。天皇の影に隠れたのか。この、最後は天皇の後ろに隠れる無責任体質こそ、追放するべき大日本帝国の残滓でしょう。今は、天皇の後ろには回りませんが、国民がそのうち忘れるまで、こっそりと、あるいは開き直る、そんな体質が残っていませんか。それを亡くさない限り、歴史は繰り返すと思います。

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信州戦争資料センター(まだ施設は無い…)
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