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収蔵品の手探りの保全作業

 表題写真は、長野市内で使われた「空襲警報発令中」「警戒警報発令中」の立派な看板です。地元の骨とう品店で文字通り掘り出してもらったもので、善光寺近くの公民館に残っていたとか。映画「この世界の片隅に」の空襲シーンで、やはり「空襲警報発令中」の看板を片手にメガホンで呼び掛ける男性の姿が登場しますが、そこで使われているものとほぼ同じ大きさで、長さ90センチ近く、幅20センチ余り。規格品として全国に配置されたものかもしれません。
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 おそらく、作られてから80年ぐらいは経過しているでしょうが、そのことを考えると上々の保存状態、と思えました。ところが、お店を出て車まで運ぶ間にも、はく離した塗装が粉上に落ちてきます。自宅まで運び、よく見ると特に下部からの塗装面の剥離が、どんどん進んでいくようでした。どうやら、この傷みは経年劣化に加え、「この世界の片隅に」で描写されていたように、下部を地べたに付けて片手で支え、もう片手でメガホンを使って「空襲警報発令!」と叫んでいたためでしょう。長野市への空襲は終戦間際の一度だけですが、訓練で何度も使われたのでしょう。
 さて、これでは持ち運ぶのは不可能で、写真だけとなるともったいない。しかも、保存しているだけでも剥がれる可能性が高い。これはいかんと、頼りにしている画材屋マチスに相談です。

 信州「フィクサチーフあたりで何とかなりますかね」
マチス「だめですね。接着力は弱いです。自動車用の艶消しクリアを使ったらどうですか」

 という助言を受けて、ホームセンターで探し当て、ともかくやってみることに。専門家に依頼するお金もないし、第一こんな作業の専門家なんておるのか、ということもあり、覚悟を決めて作業です。
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できるだけ風の影響を受けない屋外で、プシューと。

写真は作業後、屋内で撮影したもの

 反対側も。こっちはちょっとくすみを作ってしまいました。

写真は作業後、屋内で撮影

 クリアを吹き付けると、浸透しなかった成分がほこりのようになって残ったのですね。途中で気が付いて、丁寧にはけで払い落し、二度塗り、三度塗りと重ねました。くすみや白い粒は、気が付く前に残してしまったほこり状態のクリア塗料なのです(泣)。
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 作業後の「空襲警報発令中」看板です。

 同じく、作業後の裏面の「警戒警報発令中」です。

 保存前に比べると、一部てかりが出た程度で、ほとんど外観は変わりません。そして、下から塗料がぼろぼろ剥離する、ということもなくなりました。中途半端にはく離した塗料が残ってしまいましたが、これはやむをえません。
 しかし、あくまで「塗装前に比べて」良くなったという状態で、完全には剥離を抑えられないようです。仕方がないので、できるだけ長期間安定して保管できるよう、トレーシングペーパーに包んで梱包材を巻き、袋に入れて上には物をおかないようにするなど、できるだけ刺激を与えないように保管することにしました。
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 このような工夫をして、数回展示させていただきました。まあ、そのたびに少しずつ粉状のはく離が進行していきますので、困ってはいますが…。
 まあ、大きく崩れるということはないと思いますので、空襲か何かをテーマとした展示会では、お見せしたいなと思っています。どこかで展示しているのを見かけられたら、保存のためのこんな苦労にも思いを寄せてください。

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