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子ども向けに作られた「国策紙芝居」ー「オモチャの出征」に見る戦時下のメッセージ

 国策紙芝居は、日中戦争が1937(昭和12)年7月7日の盧溝橋事件を機に始まって、日本教育紙芝居協会と称する国策団体が1938年に発足して以降、各団体で作られた戦争の宣伝用紙芝居のことです。1941ー1942年をピークに千作品以上が作られ、内容は戦意高揚や貯蓄、奉仕、供出、防諜、教訓、忠義など、銃後の心構えを固めるものが主でした。
 国策紙芝居は、隣組や地域や会社の集まりなど、専門の演者だけではなく、むしろ身近な人が個人宅やお寺などで皆が集まった時に、余興を兼ねて教化を図るというものでした。今回紹介させていただく「オモチャの出征」は子ども向けですが、大人にも通用する内容であり、大人も子どもも集まった場所で上演することもできました。
 一読いただくと、戦争が子どもの心にも何をなすべきかを植え付けていくさまがよくうかがえると思います。そして、できのよい作品ほど人々の心に響き、見事なプロパガンダとして役立っていくのです。
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 では日本教育紙芝居協会作、1942(昭和17)年3月5日発行(堀尾勉脚本、籠宮歌二絵画)、14枚一組の「オモチャの出征」です。冒頭、紹介されるのはまだ小さな「ベイちゃん」(顔は表紙にしか登場しない)が持っているオモチャの数々ですが、乱暴に扱われるので壊れているものもあります。

ベイちゃんとオモチャの数々

 突然、おもちゃ箱にゼンマイを壊された自動車が降ってきて、身の上を嘆きます。

壊された自動車がぐちを言う

 そしてオモチャが集まり、何とかベイちゃんに大事に扱ってもらうよう、みんなが常会を開いて話し合うように、ベイちゃんとおもちゃで常会を開いて相談できないものかと話し合います。でも、ベイちゃんと意思の疎通ができないので、この案も立ち消え。車は捨てられると嘆き、郵便ポスト型の貯金箱は、一度も使われたことがないなどと、それぞれで話し合っていたところ…

悩みを打ち明け合うオモチャ

 突然、自動車が箱から出されます。自動車はいよいよ捨てられると覚悟し、皆にお別れを言います。

別れを告げる自動車

ところが、その自動車が戻ってきます。しかもニコニコ顔です。どうしたのかというと、ベイちゃんがお母さんに、オモチャも鉄や銅の回収でお役に立つかを尋ねたのです。するとお母さんは「立ちますとも!ってお母さんがおっしゃった。万歳! 諸君、みなさん、オモチャでもお国の役に立ちますよ」とことの次第を話しました。そして「露営の歌」が流れ…

金属供出で役立つと大喜びの自動車

 金属製のオモチャが一列に並び、出征のたすきをかけてあいさつすると、皆も「祝 出征」ののぼりや日の丸で見送ります。

お国のために出征するので銃後をよろしくとあいさつ
華々しく送られていくオモチャたち

 残ったオモチャたちは出征した仲間の様子を振り返りつつ、自分たちは慰問袋に入れてもらいたいと語り合うのでした。

残ったオモチャも慰問品に出されることを心待ちに

 そしてこれまで相手にされなかったポストの貯金箱で、ベイちゃんが貯蓄を始めました。ポストは大喜び。すっかり膨らんだポストが、オモチャの国も新体制と演説。金属オモチャは出征、自分は貯金、みなは銃後を支えようと演説。全員が「万歳」をして幕。

やっと使ってもらえたポスト型貯金箱
オモチャの国の新体制をぶつポスト型貯金箱

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 わずかな流れで、常会、金属供出、出征兵士への尊敬、貯蓄、銃後の役割を担う新体制と、子どもでも分かりやすくポイントがまとめられています。出征といっても金属供出で潰されることを出征兵士になぞらえ「万歳」で送り出す場面は、大変きついものがありますが、これは身近な人の出征も同じように笑顔で送り出そうという暗示でもあると思います。

 ところで、こうして多数作られた国策紙芝居ですが、極東軍事裁判にもプロパガンダの一例として登場したほどで、終戦後、多くのものは破棄されて、全容は不明です。長野県小諸市出身の櫻本富雄さんら先人や神奈川大学非文字資料研究センターの調査、収集活動で、ある程度の輪郭は見えてきました。信州戦争資料センターでも、調査に協力して収蔵している未発見資料の撮影などに協力しております。
 戦争を進めるため、国家はあらゆるものを動員します。特にプロパガンダは子どもから大人までを網羅して、さまざまな機会で戦争の正当性と身を投げ出しての協力を求めてきます。国策紙芝居は、そんな戦時下を裏付ける大切な資料でもあります。今後もできるだけ公開の工夫をし、紹介していきます。それが、SNS時代のプロパガンダを見破る力、自分で考える力を磨くと思っています。

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信州戦争資料センター(まだ施設は無い…)
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