どう捉える?形成的評価
『ピア・フィードバック』(スター・サックシュタイン)『一人ひとりを生かす評価』「C.A.トムリンソン)『学習に何が最も効果的か』(ジョン・ハッティ)の比べ読みを通して、形成的評価の重要性についてまとめました。
日本の教育では、これまで主に総括的評価が重要視されている。それは、学期末において通知表で評価や評定をする必要があることに大きく関連している。どちらかと言えば、評価しなければならないから、評価しているといったニュアンスが強い(もちろん全ての教師がそうなのではなく、これまでの私自身がという自戒を込めて)。
しかし、そもそも評価は子どもの成長を助けるものでなくてはならないし、教師の指導を改善するためのものでなくてはならない。
評価は大きく「診断的評価」「形成的評価」「総括的評価」に分類されるが、今回3つの本の比べ読みを通して、「形成的評価」の重要性を強く感じている。
『一人ひとりを生かす評価』では、形成的評価について「明確な学習目標と、一人ひとりがどうすればその目標に向かってあるいは目標を超えて成長し続けることができるのかということについてのたゆまぬコーチングと、一人ひとりのニーズに応じる指導こそが、学習者の成功と満足の源になる」と明確に定義している。
形成的評価は「学びのための評価(assessment for learning)と「学びとしての評価(assessment as learning)の二つの側面から理解できる。これは、形成的評価が教師と子どもの双方にとって意味のあるプロセスであることを示唆している。
さらに、ジョン・ハッティは『学習に何が最も効果的か』の中で、子どもの到達度に及ぼす影響要因として、「形成的評価の設定」を最上位に挙げている。
形成的評価はこれまで学校教育の中でどれだけ重要視されていただろうか。少なくとも、恥ずかしながら私自身はその重要性をあまり理解してしていなかった。どのような単元設計にするかにこだわっていて、そのプロセスの中で子ども一人ひとりの見取りや成長のためのフィードバックにそこまで注力していなかった。これは、教師としては致命的な欠陥であったと思う。子ども一人ひとりのデータを集め、丁寧に見取り、その子に必要な声かけや支援をしていく。思えば、大村はまをはじめとした子どもを限りなく引き伸ばす授業の達人は、形成的評価の達人である。子ども一人ひとりを見取り、その子に合ったフィードバックができる。
『一人ひとりを生かす評価』と『ピア・フィードバック』では、教師だけでなく子ども同士のフィードバックの重要性が示されている。「教師が指導を改善するために評価情報を使うのと同じくらい、子どもたちも自分自身やクラスメイトの学習を改善するために評価情報を使うことが重要」(『一人ひとりを生かす評価』)とされている。子ども同士のフィードバックによる形成的評価を行っていくことは、形成的評価を学びのプロセスの表舞台に据えることに他ならない。形成的評価を通して、教師はあらゆる子どものため効果的な指導計画を立て直していく必要がある。それこそが指導と評価の一体化であろう。
どの本でも、明確な学習目標の設定と目標達成のための基準を明らかにする必要性が述べられている。さらに、それを子どもとも共有する。これは、「ピア・フィードバック」を目指す上では必須のことであろう。教師だけが学習目標や評価規準を知っていてはならない。フィードバックを子どもに教えることで、子ども自身が目標や基準についてより自覚的になることができる。
また、フィードバックと賞賛を混在させてはならないことも、どの本でも共通していた。「よくやったね!」とか「いいね!」などはどの教室でも当たり前であるし、むしろ認められるフィードバックとされているだろう。しかし、『ピア・フィードバック』では、そういった賞賛は「注意を払い切っていないという、真実から目を逸らすためのもの」と痛烈に批判されている。さらに、「学習に何が最も効果的か』でも、成績に対しての賞賛はほとんど意味をなさないか、むしろ良くなかった時には否定的にさえなり得るとされている。フィードバックにおいては、感情的な反応を引き出すことよりもむしろ認知的な反応引き出さなければならない。
フィードバックをするにあたっては、①私はどこに向かっているのか、②私はどのように進んでいるのだろうか、③次はどこに進むのかという3つのフィードバッククエスチョン(『学習に何が最も効果的か』)を念頭におきながら、具体的でタイミングがよく、受け手に役立つ形で(『ピア・フィードバック』)していく必要性がある。
これまで述べてきたように、形成的評価を学びの表舞台に据え、ピア・フィードバックを推進していくことは、学習者を主体とした授業改善が必須である。評価を知ることは授業を変えるということである。