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NEW DAYS ★ プチDAYS★ブルックリン物語

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ブルックリン在住の大江千里が日々の暮らしを綴る6000字前後の読み応えあるエッセイ。「NEW DAYS」も仲間になりました。単行本『ブルックリンでジヤズを耕す 52歳からのひとり…
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#マンハッタンに陽はまた昇る

ブルックリン物語 #74 Ambulatory Detox

主治医と面会している時、 「一回受けてみる?」 「ええ、いいですよ」 軽い会話が発端で通いのデトックスプログラムを受けることになった。 お酒の。 僕は去年からいい子になって健康保険に再入会したので、先生は「だったら、保険でカバーできるので、いろんなワクチンは打った方がいいし、精神科医にもかかった方がいいし、肩のレントゲンも撮って痛み止めを打って......」次々に勧めてくれる。アメリカに来てから14年、最初の4年半は学校で入っていた保険がカバーしてくれていたのだけれど、そ

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ブルックリン物語 #63 "Yes and No"

別れがあれば出会いがある。 昔からあるこの代わり映えのしないセリフを自分が実感を込めて使うとは思ってもみなかった。NYへ移住してから一体どれほどの時間が流れたのか? 時間とは伸縮自在の抽象的イメージであり、実体などそもそも心の在り方によって自在に変わるものなのかもしれない。だからそれは心と皮膚が30年にも匹敵すると感じればそうなのだろうし、瞬間風速で駆け抜けていったと感じればそれもそれでまた真実なのだろうと思う。あっという間でありそれ相応の時間が流れているは同義語なのだ。そ

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これから世界で起こること

「Senriさん、夫のところへ子供達を預けようと歩いてたら襲われちゃいましたよ。私マスクして長い黒髪で二人子供連れで、なんだか『いかにも無防備なアジア人』って感じすぎたのかもしれないんですけど、怖かった」 クイーンズ地区のFlushing は中国人、韓国人が多い。教育のレベルが高いということもあり、彼女はそこに住み子育てをしている。しかし流石に「中国人が多い場所での子供の保育はこれ以上感染の観点から危険」だろうとブルックリンの元夫の元へ子供達を預けるため3時間半かけててくて

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ブルックリン物語 #60 スウィングしないと意味がない ”It Don’t Mean a Thing “(If It Ain’t Got That Swing)

人間の首、肩、背中、腰、膝、肘、手首、手の甲、指、は全てが繋がっている楽器である。 だからどこか一つに変調があると必ず別の何処かに影響が出る。ピアニストは手が商売道具だが、指や手だけではなく全身が音を奏でるマレット(枹)のようなものだ。マレットは膝も腰も背中も首ももちろん肘も肩も全てが共に振り子のように力を分け合って共鳴する。 弾き終わった直後の炎症は、氷水で冷やす。しばらくたって筋肉疲労の腫れが引くと今度はホカロンで温める。この「冷やしてから温める」タイミングがコツなの

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ブルックリン物語 #59 我が心のジョージア”Georgia On My Mind”

2017年クリスマス、最初にミネアポリスのセントポール国際空港で演奏 してから駆け足で一年が過ぎ、次の冬がやって来て再び同じ場所で弾くチャンスをもらったので、早速行って来た。 ミネアポリスの大地は雪に包まれ寒そうだった。表情豊かな自然に育まれた雪景色が飛行機の窓の向こう側に流れていく。通路側からほんの少し首を伸ばして一年前に思いを馳せる。空港で行き交う忙しい人たちに向かって弾くなんて果たして聴いてもらえるのだろうか?  そんな不安を抱え窓からミネアポリスの景色を眺めたのを憶

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ブルックリン物語 #57 エメラルドの風の中

母校の関西学院と7年間レギュラーをやっていたTFM HALLで35周年記念コンサートをやってアメリカに戻ったら、すっかりNYの街は秋が深まっていた。関学の楽屋には父や妹、甥っ子が来てくれてしばし話に華が咲く。いつもコンサートや仕事では関西とは言えどホテルにいるので、機を見てゆっくりと帰ろう、と先月1週間ほど実家に帰省した。 「お兄ちゃん、新しいCD買わせて。よかったら20枚持って帰ってきてや」 そう妹が言ってくれていたので「お買い上げありがとう」とPND社長はスーツケース

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ブルックリン物語 #56 “REINCARNATION”

関西学院大学2回生だった時に、学校の賑わう銀座通りを少し入りひっそりしたところにあるco-op (大学生協)で一枚自分用に、松任谷由実コンサートのチケットを購入した。貧乏学生には豪華な値段のものだが、「予感」のようなものを感じたからだ。 大掛かりなセットや凝った演出が施された贅沢なコンサートで、途中大きな「龍」が舞台に登場した。ツアータイトルは「水の中のAsiaへ」。そこで、まだ発表されていない「リインカーネーション」という曲の原型を聞いた気がする。というのは、「水の中のA

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ブルックリン物語 #51 きみの友だち “You’ve Got A Friends”

N Yに生活しているとモノを回していくという発想が普通にある。不要になったモノを「誰か使うかな?」 と路上に置いておくと知らない間に必要な人の元に渡りなくなっている。もともとブルックリンは地元のモノを地元で回す発想のある地域だ。人から人へ。肥沃な土地はないが、ビルの屋上でタネを撒き野菜を作る。収穫物を地元の小売店に卸し、ブルックリンを愛する人々の胃袋に入る。この地産地消(サスティナビリティ)の発想が「リサイクル」の世界でも活きているように思う。 「これ、いいんじゃない?」

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ブルックリン物語 #49 ビキン・ザ・ビキン "Begin The Beguine"

ミネアポリス、シカゴのツアーを終えてブルックリンに帰ってくると、ぴとこの辺りに越した頃から毎日「閉店セール!」の狼煙(のろし)をあげていた紳士服屋が閉店した。呆気ないもので僕が上下100ドルのスーツを買った時も「合わせてネクタイもどう? 別のスーツは?」勧め上手なのか下手なのかわからない怪しいテーラー風親父も店ごといなくなった。あのメジャーをクビにかけた髭ズラがいつもの角で紫煙を薫らせていないと寂しい。ガランとした店内は残った棚や段ボールが散乱し、急いで閉めちゃった跡があちこ

¥100