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ブルックリン物語 #49 ビキン・ザ・ビキン "Begin The Beguine"

ミネアポリス、シカゴのツアーを終えてブルックリンに帰ってくると、ぴとこの辺りに越した頃から毎日「閉店セール!」の狼煙(のろし)をあげていた紳士服屋が閉店した。呆気ないもので僕が上下100ドルのスーツを買った時も「合わせてネクタイもどう? 別のスーツは?」勧め上手なのか下手なのかわからない怪しいテーラー風親父も店ごといなくなった。あのメジャーをクビにかけた髭ズラがいつもの角で紫煙を薫らせていないと寂しい。ガランとした店内は残った棚や段ボールが散乱し、急いで閉めちゃった跡があちこちに見られる。携帯カメラのシャッターを2、3枚押した僕は「ふ~」ため息をついた。

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そういえば客が入ってなくて心配だったオーガニックフードのコンビニも、もぬけの殻だし、靴屋も2軒なくなった。なんだか開発による地上げで小売がどんどん影を潜め、ヒーブルが仕切る似通った景観の大きなビルが建設ラッシュだ。さみしい気持ちになる。

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僕が住むアパートの1階の半分を借りていた教会も引っ越してしまった。人の気配がないというのはさみしいものだ。ワイワイ聖書のフレーズを朗読したり合唱したり。あの人たちはどこへ行ったのか。

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