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NEW DAYS ★ プチDAYS★ブルックリン物語

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ブルックリン在住の大江千里が日々の暮らしを綴る6000字前後の読み応えあるエッセイ。「NEW DAYS」も仲間になりました。単行本『ブルックリンでジヤズを耕す 52歳からのひとり…
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#ぴーす

特別寄稿 「時空越えの旅の栞」

ほぼ1カ月以上日本にいた。 なのでかどうかは自分でも定かじゃないのだが、ブルックリンやニューヨークの生活が随分に遠く、どこかへ減衰してるように感じられて。 不思議だ。それほど"BIG SOLO"が自分にとって没頭ツアーだったのだ。不安と気づきの間で何をやったかというと、ピアノとずっと戯れていて、記憶として一番残ってるのは客席を見渡す度に飛び込んできた顔だ。多くの人が笑っていて泣いていた。 あの涙の意味をうまく言葉で表現した友達がいる。オペラシティに来てた秋元奈緒美さんだ

特別寄稿プチDAYS 「赤い風船」

ぴの持ち物をかなり処分したのだけれど、意外な大物、おしっこシートの未開封とLast Daysで使ってた開封したものが残ってた。いつまでもウチに置いといてもしょうがないので、 「ね、これ使う?」 と友人のジャズシンガーまみちゃんにテキストした。すると、 「使う使う」 ということだったので、ホッと胸を撫で下ろし、 「じゃ、近いうちに鍋をやるね。」 「じゃ、その時に!」 の流れになった。 当日には彼女の愛犬「ネネ」にも来てもらうように伝えたら、「ほんとう?」とまみち

¥150

プチDAYS 「スコップの音で眼が覚める」

短い旅だったけれど、いいPND慰安旅行になった。 というのはサンディエゴの旅にKayさんも参加、別ルートで現地で落ち合い声を聞いたぴもびっくり嬉しそうだった。当初、LAから車で参加予定だった赤ちゃんができたばかりの映像作家Junくん家族3人は急遽来れなくなった。 太平洋の波はおおらかでキメが細かい。砂を滑る音も清らかでまるで弦のトリルのようで、聞いていると耳の奥までこそばゆくなる。 ほかほかのトッテダシ(録音してすぐに放送すること。)のサニサイもやった。今日オンエアされ

¥100

特別寄稿 DAYS 「シアトルは眠らない」

路面電車の警笛が窓の外から聞こえる。階下で提供してくれてるコンプリメンタリー(無料)のコーヒーを紙コップに注いで部屋へ持ってきた。ロビーでは金髪の女の子が2人、PCを叩いて朝仕事をしてた。そういえば慌ただしくてチェックインしてから2日間ここのソファに座ってもいなかったので、さっきちょこっとだけ一面ガラス張りのダウンタウンを眺め腰掛けてみた。古いけどなかなかいいじゃないかこのホテル。 シアトルは眠らない。というより僕が時差ぼけで眠れない。 部屋に戻りブラインドを全開にすると

¥200

プチDAYS 「わけがあるからパタパタするのだ」

ぴがパタパタ動き続けていた。 時計を見ると夜1時くらいだった。もう朝かと思ったけど意外に時間が経っていない。昼間は結構ぴがあれもこれもと要求、小出しのおしっこやうんこをした。その度にお尻を綺麗にしてやると大きな欠伸をするので、気持ちいいんだなとこちらまで嬉しくなっていた。 ところが1時のパタパタは結構続いていて僕も起きて世話をしてやればよかったんだけどそのまま寝てしまった。ぴも諦めたらしく静かになった。

超プチDAYS「音を立てる喜び」

ぴが音を立てる。

¥100

プチDAYS「雨の糸を曳く。里見八犬伝。未来の箒に跨る。」

時差ぼけはありがたい日本のお土産だと思うようにする。 アメリカに帰国して3日間は昼夜関係なく寝続けた。ベッドで気を失ったように寝た。ニュージャージーでぴの世話をしてくれてたKayからペンステーションでぴをピックアップし、やっと一緒にいつもの我が家だ。 時差ボケで寝続けていたかと思えばムクっと起き上がりいきなり仕事を始める。レギュラーのアルファのラジオを録音したり、アメリカのPR担当のダンとの諸々の打ち合わせなどやることが山ほどある。 Kayには感謝しかない。ぴの調子がす

¥100

プチminutes「ぴはお利口な娘っこ」

全てに理由がある。 朝、最近パパの方が早く起きるので3時すぎくらいから起こさないように気をつけながらデスクワークをしている。程よい距離で爆睡のぴ。 4時頃にぴがゆっくり背伸びをしキッチンへ移動。 1日に合計8回あげる薬。その最初の3つをプチtomatosやプチ全粒粉のパンに仕込んで与える。しかしわきまえたもので「ぺ」と薬だけを出す。狐と狸の化かし合いで出した薬を次のtomatosに隠し大騒ぎで口を蓋して食べさせる。

¥100

プチminutes「バードランドの子守唄」

「バードランドの子守唄」を聴いて眠り続けた。 全部が終わりUberを呼んでマンハッタンを後にしたのはもう12時過ぎだった。ブロードウェイは眠らない。ゴミ収集車の停車中の後ろについて「ちっ」と舌打ちするドライバーに気をやりながら自分も後部座席でうつらうつら船を漕ぎ始める。 気がつくと遠いところにエンパイヤやクライスラーが靄がかって見えた。クイーンズ側に渡ったのだ。数日前からTh City(ニューヨーカーはマンハッタンのことをこう呼ぶ)を覆っている靄は離れるとよく分かる。ここ

¥100

プチDAYS 「Same but Different」

NYへ戻り仕事に追われている。追われるなんて嫌だけれど追われながらもなんとか追いついて、やがていつか追い越すぞとそんな気持ちでやっている。 そして仕事だけじゃ悔しいので、遊びもふんだんにやろうと心に決める。ぴとの朝散歩は欠かせないし、ご飯の後のコミュニケーションにも時間をとる。彼女は調子がいいし、昼寝をするまでは結構パパに絡んでくる。このじゃれ合いの瞬間がまた大切だったりするわけだ。 今日はアメリカ盤のphysical CDの担当者 Trevornと、『Letter to

¥150

プチDAYS「コロナで人生が変わった」

コロナで人生が変わった。 率直さというか人への気持ちの伝え方が変わった。今、心にあることをちゃんとシンプルに伝えようと思い、実践するようになった。それまではどっちかと言うとズバズバ伝える方だったが、より局面ごとに意識をする自分を感じる。ここが決定的に違う。 コロナ以前まで当たり前に思ってたことが、実は稀有なことなのだとわかったことも大きい。生きているうちに会いたい人に伝えたい想いを伝えよう。そう思う。だけどそんなに会いたい人って実はいないんだよな。思えばこれまでずいぶん傲

¥150

プチDAYS「樅を運んでる」

ぴはモミ(樅)を運んでる。 家のあちこちの隅っこに去年のクリスマスツリーのモミの葉っぱが落ちている。それは実はぴがあちこちものに当たりながら歩くせいで、迷ってぶつかった探検の結果、ソファの下や普段は目が届かない隅に、掃除し忘れたモミのカケラを体にくっ付けて運んできちゃうんだと思う。 あれ? またモミが床に落ちている。拾って綺麗にしてもまた気がつくと落ちている。日本へ帰国する前の1月頭に慌ててチョキチョキ切って抱えたモミの木を路上に捨てる時に後ろ髪引かれたあの思いが切なく蘇

¥150

プチDAYS「おごと〜!でも無事よ。3」

ぴが帰還して少し経った。 最初はふらつきつつあった歩行も、もうかなり堂々と歩いている。しかし一番船を漕いでた左足はまだ少しおぼつかない。彼女もそこをわかって用心して踏ん張ってるのがわかる。 ご飯は偏食が進んでていて退院したすぐ後はもぐもぐだった食事が、今や毎回味付けを変えないと鼻をぷんとそむける始末だ。大江屋じゃ茹でたサツマイモとゆで汁汁、鳥の胸肉のゆで汁、ブロッコリーやトマト、マッシュルーム、人参のスープ、おかゆ、など常に作り置きしてうまく混ぜてぴの食欲が増すように工夫

¥150

プチDAYS 「おごと〜! でも無事よ。1」

ぴが倒れた。 レコーディングのMIXを取りに行って帰宅し夕方一緒に聞いた。その後キッチンに二人で移動し、パパはぴごはんを作ってた。気配を感じて振り向くと、 キッチンの近くにうんこを放出したまま、その側のアイランドキッチンの下に挟まってぴが喘いでいた。心筋梗塞か脳溢血かおそらくそんな症状だと瞬間思った。息が止まる思いだった。 舟を漕ぐように左手を動かし、舌はべろっと垂れて目は白目を剥き、呼吸困難で全身硬直する彼女を救い出しタオルで身体を包み水を口にあてた。 苦しそうに声

¥150