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#7「EDO STYLE」~本当の健康食とは~(中編)

日本酒の枠を超え、色とりどりの分野で活躍する「ニホンジン」を訪ね、
日本の輪を広げて行きます。それはまさに「和の輪」。
第7回のゲストは、食文化史研究家・永山久夫さんです。
※#7の続編です。 
前編はこちら


永山久夫さん(左)と薄井一樹(右)

江戸グルメは長寿食

薄井 ここからは、江戸時代の文化文政の頃、酒造りが盛んになったというお話を。仙禽も文化3年(1806年)に創業した酒蔵です。
 
永山 そうでしたか。なぜ、文化文政の頃、非常に酒造りが盛んになったかというとグルメ時代が到来したから!・・・という話からですね。

永山 将軍でいうと、第11代の徳川家斉の時代で、身分が高い者から江戸の町民に至るまで、みんな口が肥えてくるんですよ。もっと美味い酒ができるはずだ、もっと美味い醤油を、などとニーズが高まって料理の味付けも進化して、職人さんも腕を上がる。その頃から天ぷら、うなぎの蒲焼、握り寿司も、今我々が食べているレベルなっていくわけです。

薄井 そして蕎麦ですかね? 江戸時代を代表する4大料理。

永山 そう! 世界に通用するグルメフードの誕生です。文政年間に握り寿司の考案したとされる華屋與兵衛(はなやよへい)の子孫が明治初期に握った寿司の絵をお見せしましょう。明治の頃の“與兵衛”寿司も文政の頃と変わらぬ江戸スタイルです。これが現代にも踏襲されている。


薄井 大きいんですよね、サイズが・・・

永山 一口半がスタンダードです。今みたいに一口で中に入れてしまうのではなくて、思いっきり口を開かないと入らない。よく噛まないと飲み込めないから、それは健康にもいい! だから江戸グルメで寿命も延びた。

薄井 なるほど、大きさにも理由があったんですね・・・。

永山 文化文政期に活躍した浮世絵師の葛飾北斎も精力的に作品を描きながら90歳まで生きてたんだよね。美味しいものを食べて、美味しい酒を飲んで、仕事をして長生きする。江戸時代の後半にはそういう時代になっていった。

薄井 江戸グルメのおかげ! どういったことが長寿に繋がるのでしょうか?
 
永山 老化は酸化ですから、酸化をどうやって止めるかが長生きの基本中の基本。つまり抗酸化力が沢山含まれているものを食べる。寿司ネタの食材はもちろん、蕎麦、蒲焼、天ぷら、それからおでんの食材にも入ってます。
 
薄井 流通のためにケミカルな酸化防止剤浸けにする現代のコンビニフードから江戸グルメに回帰しようという意識を高めたいですね。
 
永山 飲み物も同じだから、健康長寿に役立つ酒を造ってくださいよ! 日本酒にも抗酸化作用を持つ物質が含まれてますから。特に薄井さんの「仙禽」は「長繊(チョウセン)」のイメージだし。
 
薄井 チョウセン・・・?
 
永山 長寿の“長”に繊維の“繊”。絹糸みたく細くてしなやかでしかも強い・・・
 
薄井 「仙禽」は仙界に棲む鶴のことですから、まさに長寿のシンボル。
 
永山 鶴は千年、亀は万年、亀もあるとなおいい!

薄井 なので「亀ノ尾」を使ってます!

永山 ああ、そうだった(笑)。そこもっと強調して売りにするといいよ! 日本がこれから国際的な競争力を身につけるとしたら主要産業は「長寿ビジネス」だと思ってるから。
 
薄井 確かに日本は長寿国。

永山 女性の平均寿命は世界一。男性はちょっとダウンして4番目ですが・・・。 良い料理と良い酒はイコール不老長寿。世界中で桃源郷に一番近いのは日本だと思う。桃源郷ってのは不老長寿の里だからね。近くに桃の木もないと!あります?
 
薄井 すみません、無いので植えます(笑)。

永山 植えてください(笑)。桃源から神前来たる酔心地、空にのぼりて仙人と遊ぶが如し・・・仙禽をいただいたとき、そういう味わいがしましたよ。蓋を開けたときの紫の煙はまさに桃源郷の!
 
薄井 ありがとうございます。


江戸の男は料理が上手く研究熱心だった

薄井 仙禽を飲まれて他にどんな感想を?

永山 香りが凄いですよね。蓋を開けたら煙がすうっと立ち上って、紫色してた。あの香りは米を発酵させる過程でできたもの。どうやって発酵させるか、そこに秘伝あるんじゃないですか?

薄井 江戸時代の造り方なので、今流行のような米を磨き過ぎることはしませんが、発酵の段階で澱粉などの糖質は邪魔な雑味に変わるので、それを削ぎ落とす造り方をしてますね。そうするとお酒が綺麗になっていくので。

永山 そう、澱粉質が問題なんですよ。ただ削ぎ落とした分も少し入れて造ってみたらどうですか? そぎ落とした段階で、米に付いてた状態とは違う別の発酵が起こりますから、香りの成分が増えるんですよ。

薄井 発酵しすぎると酸っぱくなるのであんばいも必要だけど・・・江戸時代にそういう造り方はあったのですか?

永山 そういうのやってます。捨てるようなものを少し入れて、香りをもっと濃くするみたいな。香りって長生き成分だから・・・。あと、酒粕はどうしてるんですか?

薄井 酒粕はお漬物屋さんに使ってもらったり、直接そのまま販売もしてます。全国の酒蔵から何百トンも酒粕出るんだけど、ほとんどが産業廃棄物捨てられてるんですよ。勿体ないんですよね。栄養価が凄く高いので。今の日本では中々それを活かしきれないので・・・
 
永山 江戸時代から酒粕は甘酒にしたり、漬物にも使ってますからね。今の漬物って人工的なものを入れて浅漬けタイプで作ってますけど、酒粕や糠で完全に発酵したのを作ってほしい。栄養も香りも味わいもかなり違うと思うんですよね。しかも酒粕の中にロイシンっていうアミノ酸成が含まれてます。筋肉の素にも!そういう長寿食を仙禽さんで商品にしてくださいよ。

薄井 そこまでは研究してないんで(笑)、今は酒だけですね。

永山 江戸の町で暮らす男は料理に研究熱心だったんだよ。

薄井 え?そうなんですか?

永山 江戸の町って女性3割、男性7割だから気の利いた男じゃないと結婚できないんですよ。だから男はモテるために料理の腕を磨いた。独り者も料理を自分でしないといけないし。

薄井 江戸グルメの基本はそれですか!

永山 江戸っ子の男は一生懸命勉強して、グルメを知り、色んな料理作る。だから『豆腐百珍』とか流行った。「俺は豆腐百珍を何回も読んだよ」って女性にアピールすること自体がモテる基本ですよね。玉子百珍、鯛百珍、鰻百珍・・・とか続々と。恋女房と美味いもの食べるとオキシトシンが出るからね!
 
薄井 オキシトシンですか?
 
永山 愛情ホルモンといわれてる幸せホルモン。男女の愛だけじゃなく、もの作りをする人もオキシトシンが出ないといい作品が作れないから。お酒造りにもね。で、豆腐、納豆、味噌とか大豆製品はオキシトシンの分泌を促すからね。酒の肴に味噌なんかもいいね。
 
薄井 味噌を肴に・・・
 
永山 生味噌で出すんじゃなくて、胡麻をちょっと入れた味噌をちょっと甘めに味付けて。大豆だからアミノ酸たくさん含まれてるし、レシチンっていうリン脂質は脳を刺激するから発想力が豊かになるんだよね。しかも肝臓を浄化するし・・・

薄井 まさに酒の肴!

永山 そのうち居酒屋作った方がいいですよ。薄井さんはトップランナーになんなくちゃ!ここまで頑張ってきたんだったら!

薄井 頑張ります。もっと江戸時代の造り方を踏襲しないとダメですね。米2トンくらい使っていろいろ試してみないと、EDOスタイルを!

永山 不老長寿に役に立つ「薄井式サステナブルフード!」そう呼んだ方がいい。サステナブルだよ、今は!日本がこれから生き残る道は、観光誘致と健康長寿食だと思うから!

薄井 サスティナブルなお話は、この続きで是非!

後編に続く



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