新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』皆さんの人生の、次の駅はどこですか?
新春早々、こんな豪華キャストのドラマ!?しかも脚本は野木亜紀子。これは観ないともったいない!…ということで観た新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』。
交通事故で、両親と祖母を一度に亡くした三姉弟。年の離れた葉子が親代わりになって、妹と弟を育ててきた深い絆が感じられました。松たか子と多部ちゃんと桃李くん。三人のバランスが絶妙でしたね。キャスト最高でした。
葉子は出版社の作家担当の仕事をしていましたが、出版社を辞めてフリーに。そんな葉子に担当作家だった百目鬼は「恋愛してますか?」と。そういう相手がいないのかと尋ねます。これはもしや葉子のことを好き…なの?
いないと言うと、まさかの“マッチングアプリ“をススメられます。この理由が後で明かされますが、まさかの…!
一方、もう一人の担当作家、リリー・フランキー演じる二階堂は、もう書かないと宣言。「駄作で人生畳みたくない」と。『カモメ』という自分の作品が最高傑作と思っている様子の二階堂に葉子は何か言いたげ。
「書けない先生」と「書き出さない先生」…葉子の担当作家は二人とも難ありのようです。
一方両親と祖母の二十三回忌の法事の帰り道、韓国の釜山に行って住むと突然言い出す都子。
どうも都子はこれまで二年と仕事はもたず、彼氏も半年以上続いたことがない…。今回も男絡みの思いつきで韓国行きを決めたのではないかと、葉子は心配します。
三人できちんと韓国行きについて話をしようと日程まで決めたのに、葉子が出張の日にこっそりパスポートを取りに突然実家に現れた都子。
1番下の弟・潮は、子どもの頃から大好きな江ノ電の“保線“の仕事をしています。実は潮はその日、恋人を実家に招待してパーティーをしようと目論んでいたようで、朝からローストビーフ作りに張り切っていたのでした。
葉子は葉子で都子の裏をかいて出張と嘘をつき、押し入れに隠れて都子のパスポートを隠し持っていました。
そこで聞こえてきた都子と潮の会話。
「はこ姉が今一人なのって、私たちがいたせいだよね?」昔“目黒“という作家志望の恋人がいたのに、自分たちのことを置いていけないからと結婚をあきらめたらしく…。もし結婚していたら、マッチングアプリなんかに手を出さずに幸せだったのに…。
我慢できず押し入れから姿を現した葉子。「人を不幸せみたいに言わないでくれる?」
そこにタイミング悪く現れた潮の恋人。相手はなんと百目鬼…二人は同性のカップルでした。弟が担当作家と自分に隠れて一年も付き合っていたこと、「けんちゃん」と呼ぶことに複雑そうな葉子。
韓国行きの経緯を問いただす葉子に、付き合っている相手に釜山の飲食店で働かないかと誘われて行くことにしたと答える都子。そこからの姉妹の会話には、都子の心情が垣間見えました。
両親と祖母をある日突然亡くした三姉弟。トラウマになっている部分はありそうです。
フリーになってから「盆石」の特集の仕事を任された葉子は、この「盆石」を通してさまざまな想いを静かに自分の中で整理しているように見えました。
野木亜紀子脚本は本テーマを描くのに、何かこういう「盆石」のようなものを絡めてくるのが上手いというか、深いというか…。「盆石」は人生をも表現できると思うし、私もぜひやってみたくなりました。
葉子は百目鬼と潮の件での自分のモヤモヤした気持ちを晴らすために、出会い系アプリでアプローチしてきた男性たちに愚痴を言いまくります。
そんな中、ある男性が葉子に「今はよくても、老後は一人じゃ寂しいでしょう」と。「そうですかね?」と言う葉子が弟と一緒に住んでいることを伝えると「なんだ、一人じゃないじゃないですか。あなた…孤独じゃないんですよ。だから簡単に言えるんです。一人でも生きていけるって。一人じゃないから言えるんです」
このセリフ心に沁みました。確かに、葉子はなんだかんだ一人じゃないですからね。本当の孤独は間違いなく「寂しい」と思います。
実は葉子に百目鬼が出会い系アプリをススメたのは、葉子が早く誰かと結婚してもらって潮を自由にしてあげてほしいとの理由からでした。潮を葉子から引き離すために、葉子の昔の恋人・目黒にまで連絡した百目鬼。
葉子は目黒の書いた小説に強烈にダメ出しをしてしまい、目黒は葉子に「君のような人間は編集者になれない。なっちゃいけない」と。相手の一番大切なものをお互いにへし折った…そうなったらおしまい。これが葉子が目黒と別れた真相でした。
小説が原因で別れたなんて誰も納得しないし、葉子は自分が否定されたことが現実になるようで誰にも言いたくなかったのでした。だから周りの人に、結婚なんて妹と弟がまだ小さいのにできないとカッコつけた…美しい言い訳でごまかした。
「私があの子たちのかせになっているなら、そのせいです」と葉子は百目鬼に吐露します。
一方、都子と潮。二人はそれぞれ恋人との間に悩みを抱えていました。都子は彼氏のユンスに突然プロポーズされ「結婚はできない」と断ってしまいます。潮は百目鬼と同居することに、なかなか踏み出せません。
誰かと一緒にいても感じる孤独の方が、本当の孤独よりも「寂しい」というのも確かに真実ですよね。もしかしたら、そっちの方が余計に辛いかもしれません。
毎日のようにインスタグラムを更新していた都子が全然更新していないのを気にかけて、葉子は落ち込んでいる潮と一緒に都子のいる韓国まで飛んで行きました!!
都子の彼氏のユンスと二人は会い、都子へのプロポーズを失敗したと告げられます。その理由は「お姉さんが結婚してない…自分が先に結婚できない」と。
そこで都子を探しに行く二人。本音をぶつけ合って話をする三人は、同じ悲しみを共有し合っている三姉弟という関係性だからこそより分かり合えると感じました。自分が幸せになれるかどうかへの不安な気持ちも、今幸せだからこそ生まれる矛盾からだとも。
この後鎌倉の海に似た海辺を三人で歩いている姿と重なって、両親と祖母のお葬式の帰りの江ノ電の中での三人の会話がありました。葉子の“次の駅“という“たとえ“が、妹と弟の悲しみを癒して、未来への希望を繋いだんですね。
葉子が最後に読んだ両親に充てた手紙。「盆石」を通じて「寂しさ」について考えていて、両親が亡くなった年齢になる葉子は、まだ幼かった子どもたちの成長を見られなかったことが両親にとって一番寂しかったであろうと推測します。
彼らは新しい時代を、小石を積み上げるように、一つずつ駅を数えるように生きていると伝えます。自分は子どもを残さないけれど、日々を営んでただ生きて、小さな時間を過ごしている。一つの命として消えていく…。
「小さな私たちの小さな営みは、どこへ繋がっていくのでしょう。真新しい滑らかなレールが運んでくれることでしょう。連面と続く私たちの営みをすべて乗せて、いつかの遠い彼方まで…」
タイトルの「スロウトレイン」の意味が、ここでようやくハッキリ理解できました。
ドラマは全体的に淡々とテンポよく進んでいきました。ときにクスッと笑えるし、ハタと考えさせられるし、ウルッとくるし…。やっぱり野木亜紀子脚本に駄作はありません!お正月から、人生について改めて考えることができました。