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満を持しての、ドラマ『東京サラダボウル―国際捜査事件簿―』

もちろん初回からずっと観ています!のドラマ『東京サラダボウル―国際捜査事件簿―』。書くタイミングを逸して、すでに放送は6話まできてしまいました。実は大きく話の動きそうな6話は、まだ観られていないのですが…。

第5話「ティエンと進」はいろいろな想いが交錯してしまい、思わず書かずにはいられなくなりました。

奈緒演じるミドリ髪(ネオングリーン)の国際捜査の警察官・鴻田麻里。どんな人でも助けを求められたら手を差し伸べていくという彼女の真っ直ぐさに、毎話心を打たれます。やむをえず悲しい犯罪を犯してしまった人々も、彼女の優しさによって心が救われていると思います。

方や松田龍平演じる中国語の通訳人・有木野了、通称アリキーノ。自分の感情を入れず正確な“逐語訳“でつなぐことに徹する彼の、一本筋の通った強い信念が毎話心に突き刺さります。通訳の仕事って、自分の主観が入ると当の本人の真意とは違うニュアンスで伝わってしまうこともありますからね。

「“一つの言葉”への理解が、“誰かの人生”への理解に繋がれるかもしれない…。」

公式ホームページのこの言葉は、まさにその通りだと感じます。完璧な相互理解は同じ母国語の日本人同士でさえ難しいのに、ましてや母国語の異なる外国人の方たちとなると、さらにその難易度は格段に上がりますからね。

それにしても、奈緒は毎回いろんな奈緒を魅せてくれますね。今回のミドリ髪も地毛を染めたらしいし、前クールのドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』でのボクサー・シーンも惚れ惚れしました。つくづく努力の人だなぁ~と、いつも感慨深く観させてもらっています。

松田龍平も、唯一無二の存在感は相変わらず健在ですね。あの淡々としたテンションの低さは(いい意味です)、誰も追随できません。無表情なようで、たまに見せる喜びや怒りの感情の″ほとばしり″みたいなものが、倍くらいになってこちらに伝わってきます。

この凸凹コンビなようで“胃の合う“二人のバランスが新鮮で、こういうバディぶりもありかも!と感じながら二人のやり取りを微笑ましくながめています。

「まぁでもいいと思いますよ。あなたのその感じ」アリキーノが猪突猛進な鴻田に向けて言ったこの言葉は、本音だと思います。お互いにないものを感じて、なんだかんだ認め合っているんだと!

第5話は、ある介護施設が舞台でした。入居者のタブレットが窃盗され、その疑惑をかけられたベトナム人ケアスタッフ・ティエンの取り調べが行われます。本人は、やってないと否認しました。

ベトナム語通訳人の武田玲奈演じる今井はティエンが窃盗したとはどうしても思えず、逮捕手続きを待ってもらえないかと掛け合います。

鴻田がティエンの右手が腫れて熱も出ていることに気づき、ティエンは病院に運ばれます。ティエンの右手は骨折している上に、体に痣があることを今井は発見。

鴻田は特定技能の外国人サポートをしている登録支援機関の人間と面会をし、ティエンの状況を確認します。職場でのトラブルもなく、仕事にやりがいも感じていて“友だち“もできたらしいと…。

ティエンがなにかを隠していることを察した鴻田は、その後ティエンの働く施設の人に窃盗事件の起きたときの様子を聞き取りしました。

ティエンの上司・別島に会いに行ったところ鼻をケガしていて、そのケガを負わせたのは早川というケアスタッフだと判明。鴻田は、早川こそティエンにとっての“友だち“だと直感しました。

今井は、なんのために警察通訳人をやっているのか?と思うときがあると吐露します。被疑者にせよ被害者にせよ、高い志を抱いて日本にやってきた人たちなのにこんなことのために日本に来たわけではないのに…という気持ちが伝わってきて落ち込むと。

「技能実習制度」のあり方は、日本で学んだ技術を祖国で発展させるというのが基本理念。帰国前提で日本での定着を認めない国の方針と、継続的に労働力が必要な企業側とのミスマッチが起きているのが現状。

そんな今井を、アリキーノはアリキーノらしい言葉で慰めます。たまに他人を褒めたり優しさを見せるアリキーノの″ぼくとつ″とした佇まいが、松田龍平とダブって見えます。

別島がティエンに対して厳しく接するのも、3年経ったら国に帰ると分かっているからでした。別島は、どんな外国人も受け入れる日本の制度に対して不満を抱いているようです。

ティエンと早川は、施設の中では下っぱ同士のスタッフとして距離を縮めていきました。ティエンは早川を優しい、別島は怖いと。

そんな中起きたあの窃盗事件。別島はここぞとばかりにティエンへの不満を爆発させ、タバコを吸っていたことをチクっただの、旧正月で休暇願いを出しただのティエンに暴力を振るいました。それが、ティエンの体の痣でした。

止めに入った早川のことを「役立たず」とさげすみ、そこでティエンはロッカーをこぶしで殴り、別島にベトナム語で怒りをぶちまけます。「日本語でしゃべれ!」と再びティエンの胸ぐらをつかんだ別島を殴ったのは、早川でした。

鴻田は、早川がティエンに窃盗の罪をなすりつけようとしたことに気づいてしまいました。一緒に入浴介助していた別島も、ティエンが盗むことはできなかったと分かっていました。

早川は初めて会ったときティエンが「同じです」と言ったことの意味を、歳も近いし一番下っぱだし、故郷も家族とも離れて“友だち“もいなくて一人ぼっちだから似てると感じていたと言いました。

だから“友だち“になれると思った…。「僕よりも、もっとかわいそうなやつに見えたから…。でも、あるとき気づいたんです。かわいそうって思われてたのは、僕の方なんじゃないかって」

ティエンがベトナムの家族と楽しそうにスマホで会話している場面に出くわしたり、家族写真を見せられてベトナムの旧正月に一緒に来ないかと誘われたり。一緒に入浴介助しているとき入居者に、早川の背中の流し方は痛いけど、ティエンの方が上手いと褒められているのを目の当たりにしたり…。

自分の方がマウント取れていると思える相手には優しく振る舞えても、それが逆転したと感じられたとき、人間の中に潜む悪意がどうしようもなく膨らんでしまうことがありますからね。

早川の短絡的な行動が、ただただ悲しかったです。自分にはなにもなくて、ティエンは多くのものを持っている…。ねじ曲がったジェラシーは、ときに恐ろしい“負の力“を持ちますから。

鴻田は、ティエンが激痛に耐えながら右手の骨折を隠そうとしたのは早川を守るためだったと言いました。早川が別島にケガをさせたことが、警察に知られないように黙っていたと。幸い今回の一件は、誰も積極的な被害意思を示していないということで立件されませんでした。

ティエンは早川が自分を助けたのは、かわいそうな外国人に見えたからではないかと思っていました。「でも同情だけでそうするのは、本当の友情なんでしょうか?」

いつも助けられてばかりだから、自分も助けられるようになりたい。お互いに必要だから、必要な存在として認められたかった。早川が別島に「役立たず」と侮辱されたことが許せなかった…。

ティエンの早川への純粋な想いに、胸が痛かったです。

「ティエンは僕を許してくれるでしょうか?」

施設で再会したティエンは、早川に包帯を巻いた右手を見せながら「ドジった」と言いました。早川が教えてくれた言葉をあえて引用して…。

今度こそ、ティエンと早川の間に“真の友情“が芽生えていってほしいものです。一度壊れた友情が元に戻るチャンスはあると、私は信じたいです。

今井の家で開かれたベトナム料理を食べるホームパーティーで、ティエンが早川に「同じです」と言った本当の意味が分かって驚きました。「ティエン」は漢字で書くと「進」。まさに同じ名前だったんですね。

別島の毒づいた取り調べが終わった後、今井が別島に言った言葉が今の日本そのものを表していると感じました。

「今後のために言います。外国人を働かせてやってるんじゃないです。私たちが彼らに働いてもらってるんです。日本は、人口が減って子どもが減って、今の社会を維持するための労働力も消費力も足りない。日本人だけじゃ、この国はもうもたないんです。外国人を無理に愛せとは言わない。でも、彼らを敵視して排除しようとしても、あなたの居場所は守れないですよ。同じ社会に生きる者として、せめて受け止めなきゃ。あなたが苦しくなるだけです。日本はもう、変わっていくんです」

ドラマ『東京サラダボウル』第5話より

外国人に対しての偏見や差別が、昔に比べれば減ってきたとは思います。でも、真面目に働くために日本にやってきた外国人もいれば、犯罪に手を染めてしまう外国人もいるのが現状です。

メディアでの“外国人犯罪・外国人事件”という言葉に躍らされてはいけないと思うし、国籍が違えど今この瞬間同じ日本という国に生きる人間として、上手く共存していけるような世の中になってほしいと願わずにはいられません。

ますます“サラダボウル”になっていく日本の未来は、どんな風に変わっていくんでしょう。

第6話以降が後半戦のようなので、残りあと数話、ドラマ『東京サラダボウル―国際捜査事件簿―』の世界観を味わい尽くしたいと思っています。

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