映画『ディア・ファミリー』が実話であることこそ、まさに奇跡!
「何事もあきらめない」そういう精神の持ち主は、この世にごまんといると思います。私自身も、どちらかと言えばあきらめの悪い人間の方だと。
でも本来自分の専門分野ではない世界に足を踏み入れて、そこから気が遠くなるほどの月日を積み重ねてしっかり結果を出す…こんなことができる人はめったにいないと思います。
映画『ディア・ファミリー』が実話であることの凄みを、観終わった今改めて感じています。こんな人が実在していたことこそ、まさに奇跡ですね。
「余命10年」を宣告された心臓疾患を抱えた次女・佳美のために、医療知識も何もない町工場の社長、大泉洋演じる坪井宣政が”人工心臓”を製作しようと決意します。
すべての心臓外科医に手術を断られた時点で普通はあきらめるところ、菅野美穂演じる妻・陽子の助言でここに思い至るわけです。
この陽子さん、「次はどうする?」といつも夫の背中を押して支えてくれる頼もしい存在。陽子さんがいなければ、宣政は途中で投げ出していたことでしょう。
”人工心臓ポンプ”の試作品を完成するところまではこぎつけたものの、人工弁、人工血管などは海外から取り寄せる上に莫大な費用がかかることを知り…。
さらにはアメリカで”人工心臓移植″された患者がわずか170日で死亡したことで、協力してくれていたはずの大学教授、光石研演じる石黒が態度を豹変させます。
直後に佳美の容態が急変し、心臓はもちろん、他の臓器にも影響が出ていてリミットが近いことを告げられます。
これ以上打つ手なしで絶望的になった宣政に、佳美は「これからは、その知識を苦しんでいる人たちのために使って。私の命はもう大丈夫だから」と告げます。
父親が自分のためにこれまでしてきてくれたことすべてを知っているからこそ、完治する見込みのない自分の命よりも、他のたくさんの命を救う方に尽力してほしいと素直に思える佳美の純粋な精神にはグッときました。
大泉洋もこのシーンが一番印象に残っていると言っていましたが、「余命10年」の宣告からの壮絶な日々が活かせる新たな道に向かう原動力になったことは間違いありません。
”人工心臓”の完成にはたどり着けませんでしたが、今度はその後世界で17万人の命を救ってきた「命のカテーテル」、”バルーンカテーテル”の研究に宣政は没頭していきます。
佳美の側にいてあげて欲しいと願う気持ちもある家族でしたが、この”バルーンカテーテル”は佳美と宣政の、さらには坪井家、家族みんなの夢になっていきました。
当時のアメリカ製の”バルーンカテーテル”は日本人の体形に合わずに合併症を起こす問題がありました。また、カテーテルが硬くて上手く曲がらなかったり、バルーン部分が破れてしまうこともありました。
”人工心臓”製作で得た知識を存分に活かし、日本人の体形に合ったサイズも選択できてきれいに曲がる”バルーンカテーテル”を、とうとう宣政は完成させました。
これは執念であり、家族の夢の実現への熱い想いのたまものに他なりませんでした。
病院で使用してもらいたいと懇願した宣政の前に立ちはだかったのは、またもや石黒でした。でも”バルーンカテーテル”の完成までに協力してくれた松村北斗演じる研究医・富岡が手を伸べてくれて、徐々に他の病院でも使用してもらえるようになっていきました。
「ここで坪井さんに手を差し伸べられないのなら、私は医者になった意味もありません」
宣政の想いに心が動かされた富岡のこのセリフが、胸にズシンと響きました。
もちろん感動的なストーリーではありますが、いわゆるお涙頂戴的な内容ではありません。
家族愛、夫婦愛、姉妹愛、仲間としての愛…いろんな愛が描かれると共に、一人の人間のあきらめない強い想いがさまざまな人を巻き込んで、後に世界中の人々の命を救う奇跡を起こすという希望に満ち溢れた作品でもありました。観終わって、前を向く力をもらえたような気がしています。
主演の大泉洋はもちろん、菅野美穂、三姉妹、その他すべてのキャストの皆さんの熱演が光りました。
宣政がその功績を讃えられて表彰されることになった時、有村架純演じるレポーターのエピソードが宣政にとって嬉しいものには違いありませんでした。
でも宣政が「自分は佳美の命を救えなかったので表彰されるような人間ではない。礼なら佳美に言って欲しい」と無念をにじませたこの言葉が、実のところ本音だったのかもしれないとも感じました。
たくさんの命より、娘のたった一つの命を救いたかった…。
現在でも”恒久型人工心臓”は完成できていないという最後の字幕を見た時に、宣政の挑んだ道がどれだけ困難なものだったのかを思い知らされました。
それでも17万人もの命を救うことになった”バルーンカテーテル”を生み出した宣政の功績は称賛に値するものであり、佳美の魂と共に永遠に輝く″誇り″だと感じます。
この映画に出会えて良かったと、心から思える素晴らしい作品でした。明日の自分が一歩前に踏み出す…その勇気を間違いなくもらえると思います!