見出し画像

またとてつもなく凄いドラマが誕生した予感~『いちばん好きな花』初回感想~

ドラマ『silent』があれだけの話題作になったのは、生方美久という新人脚本家の書いた脚本が非常に秀逸だったからというのは誰もが認めるところだと思います。

特に”台詞のセンス”には脱帽でした。もう一度ドラマの世界観に浸りたくて『silent』のシナリオブックも買ってしまいましたが、「……」と表記されている台詞の”間”・”空白の時間”までもがその台詞をきちんと成立させるための必要十分条件になっていて、”生きた会話”の連続に文字だけで読んでも圧倒されました。

その生方氏にとって”次回作”というプレッシャーが相当重くのしかかっているだろうと勝手に考えていました。でもドラマ『いちばん好きな花』の初回を観てみたら、それはまったくの杞憂に終わりました。こちらの予想をはるかに越えてくる悔しいほど”心に残る言葉”の数々に、生方氏の”無限の才能”をまざまざと見せつけられた思いがしました。

生方氏のインタビューで、

「私が描きたいのは、主人公の半径5メートルにある世界の話。そこにある、とても普通でリアルな人間模様を切り取りたい」

「Indeedキャリアガイド」より

という言葉がありましたが、今回のドラマは四人の俳優たちの”クアトロ主演”。それぞれの”半径5メートル”にある世界を描きながら、その四人がふとしたきっかけで出逢いまじり合っていく様が、実に自然な流れで展開されていきました。

潮ゆくえ(多部未華子)
「昔から、二人組を作るのが苦手だった」
近況:「唯一なんでも話せた男友達が、彼の結婚を機に友達ではなくなってしまった」

「女の子だから」
「なにそれ、しょうもな」
「価値観ってそれぞれだから。自分的にはしょうもなくても、誰か的には常識で…正義で…絶対ってことあんだよ」
「それはそうかもだけど…。ここは…私と赤田は…一緒じゃん。そういうの。常識とか正義とか…一緒」
「でも、これから一緒に生きようと思ってる人はちがくて。こういうの許せない人で」
「しょうもな…」
「しょうもないけど…好きだから。価値観が違うのはどっちかが寄り添うしかないっていうか。だから……ごめん」

『いちばん好きな花』より

春木椿(松下洸平)
「昔から、二人組にさせてもらえなかった」
近況:「結婚を約束した彼女を、彼女の男友達に奪われた」

「結婚は?」
「…できない。ごめんなさい。ホントにごめんなさい」
「………はい」
「椿くんと…」
「ん?」
「椿くんと…友達ならよかった。友達なら三人でもいいのにね。恋愛って二人組を作る作業でしょ?ごめんね。苦手なんだ。二人組…」
「大丈夫。俺も苦手だから…二人組」
「一緒だね」
「俺のこと…好きだった?」
「いいなぁ~って思ってたよ。ホントに。いい人だなぁ~って」
「そっか…」
「うん。バイバイ…」
「バイバイ…」

『いちばん好きな花』より

深雪夜々(今田美桜)
「昔から、一対一で人と向き合うのが怖かった」
近況:「ただ友達になりたいだけなのに、相手(男性)に勝手に恋愛と勘違いされてしまう」

「夜々ちゃん、気をつけた方がいいよ」
「なにを?」
「軽い気持ちで男と二人で会うのよくないよ」
「私はホントに普通に友達だと思って…」
「友達っていうのを自分が男と遊ぶ言い訳にするのよくないよ…」

『いちばん好きな花』より

佐藤紅葉(神尾楓珠)
「昔から、一対一で向き合ってくれる人がいなかった」
近況:「友達の友達もみんな友達と思っていたけれど、結局本当の友達は誰もいなかった」

(グループLINE一人になっているのをバイト仲間に見られてしまい)
「グループなのに一人になってるじゃないですか!」

『いちばん好きな花』より

四人が偶然巡り逢ってからの会話劇がテンポよく面白かったですね。お互い勘違いの会話がひとしきり続き、椿が指輪を外して花壇に埋めてみんなで手を合わせるところなんて、くすっと笑えました。

そこから初対面の四人でコーヒーを飲みながら、”男と女の友情”と”恋愛”の話、”二人組”にまつわるそれぞれのエピソードを語り合い…。子供時代から大人になっても何も変わっていない四人の状況が、この一連の会話から手に取るように伝わってきました。このゆくえの言葉が胸にズキンと突き刺さったんじゃないでしょうか。

「二人組作れなんて命令、もうないのに…。なのに上手に二人組作れないと大人になっても…。……あっ、そっか…!だから学校でそれやるのか…なるほど。それが上手にできなくて、こぼれ落ちちゃったんですね。私たち…」

「二人組になれなかった、四人。四人全員…余っちゃった一人」

『いちばん好きな花』より

初回はなんと言っても、ゆくえのナレーションのこの言葉。名言すぎでした。「二人」と「一人」の関係性をこんなにも的確に表現できるなんて生方氏恐るべし。ドラマの今後の展開&テーマである“男女の間に友情は成立するのか?”を生方氏の世界観の中でどう着地させるのか?期待が高まります。

二人というのは難しい。あらゆる人数の中で二人というのは特殊で、二人である人たちには理由や意味が必要になる。二人は一人より残酷。二人は一人いなくなった途端、一人になる。もともと一人だったときより、確実に孤独な一人になる。

二人は強いに決まってる。一人の人間は二人の人間がいないと生まれない。逆に、三人以上の複数人というのは一人の集合体でしかない。

個々の価値は間違いなく二人のときが一番強い。

『いちばん好きな花』より

ちなみに”男女の間に友情は成立するのか?”については、私は成立すると思いたいです。でも自分の実体験としては完全に友情オンリーは難しいというのが本音です。”LIKE"と”LOVE”の線引きは明確にはできないのでは?と感じます。

またとてつもなく凄いドラマが誕生した予感がしています。四人の関係性がどんな変化をしていくのか?非常に楽しみです。

長い文章最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集