見出し画像

ドラマ『ライオンの隠れ家』は、珠玉の名作でした

プロデューサー松本氏の想い、それを丁寧に紡いだ脚本。それに見事に応えた俳優陣たちの圧巻の演技。どれをとっても珠玉の名作だったドラマ『ライオンの隠れ家』。

スタートから途中辺りまでは“母子行方不明事件“というサスペンス要素の方が色濃く描かれていたような気がしますが、後半戦にいくにつれて“家族愛“を描いたヒューマンドラマの方にシフトしていったように感じます。

「全11話で描き切る物語です」という松本氏の言葉で、最終回の第11話がどんな風になるのかあれこれ想像していました。が、こんなに素敵な”それぞれの旅立ち”はないと思える展開に、ただひたすら感動しかありませんでした。

昔は親の都合でたまたま”異母姉弟”として家族になっただけだったような”愛生・洸人・美路人”の三人が、今度こそ本物の家族になれたような雰囲気も好きでした。

最終回、洸人にもみっくんにも”姉らしく”愛生が言葉をかけるシーンがありました。いつも当たり前のように自分の傍にいた洸人が突然いなくなり、動揺が隠せないみっくん。

「お兄ちゃん、僕が面倒くさいですか?お兄ちゃん、僕が面倒くさいからいなくなりました?」
「なに言ってんの?そんなわけないでしょ」
「お兄ちゃん、僕が僕が…嫌いになりました?」
「美路人、ずっと一緒にいてくれた人をそんな風に言うもんじゃないよ!」

「洸人はあんたのこと、いっつも一番に考えてるから」
「なんで、いなくなりましたか?」
「そういうときもあるよ」
「そういうときは、いつですか?」
「大丈夫。今は一人になりたいんだよ。きっと」

ドラマ『ライオンの隠れ家』最終回より

自分が昔家族から離れてしまったことを思い出して、洸人の心情を慮りながらみっくんに語りかける愛生は姉そのものでした。

みっくんがライオンと暮らす中で大きく成長し、しかも絵の才能が開花。自分はみっくんの面倒をみることを使命として、”凪のように穏やかで規則正しい生活”を送ることだけを考えて生きてきたけれど、実はみっくんの存在が逆に自分自身の支えでもあったことに気づいた洸人。

もしもみっくんが自分の傍からいなくなったら、自分にはいったい何が残るんだろう?そんなことを考えた洸人が中退した大学までフラッと訪れたことには、やはり意味があったわけですね。

記者の楓の言葉も洸人の背中を押してくれました。この言葉、私自身の胸にも響きました。

「やり残したことがあるなら、挑戦してみたらいいんじゃないですか?ほら、社会人になってからも学び直すって人いっぱいいるし」

「えぇ?新しいことに挑戦するのに今さらとかないでしょう。思いきって、どーんって飛び込んじゃえばいいんですよ」

ドラマ『ライオンの隠れ家』最終回より

家に戻ってきた洸人と愛生の会話も、姉と弟…すなわち″家族″としてきちんと向き合っているようで印象的でした。

「どれだけ近くにいても、お互いがなにを思ってるかなんて分かんないってことだよ」
「うん」
「想いは言葉にしてちゃんとぶつけないと」
「そうだね」

ドラマ『ライオンの隠れ家』最終回より

洸人がいなくなったのは、自分のせいだと思っているみっくん。洸人が家に戻ってからも、二人はどこかぎこちない雰囲気でした。貞本家の「結婚10周年記念パーティー」に誘われた洸人とみっくんとライオン。

突然貞本からスピーチを頼まれた洸人は、姉の愛生の言葉を受けてお祝いの言葉と共に、みっくんへの想いを言葉にして伝えます。途中から涙が溢れて止まりませんでした。大号泣!

「貞本の家族は、幸せを絵に描いたような家族といいますか、いつも仲が良くて温かくて、僕にとってはうらやましい存在でした。貞本はいつも職場で、奥さんやお子さんの話をとても嬉しそうにしてくれるんですけども、僕は……僕は、自閉スペクトラム症という障がいを持つ弟のことを、あまり人に話すことはなくて、聞かれてもなんとなく言葉を濁してきました。でも、家族への感謝の気持ち、愛する気持ちはしっかり言葉にしなければいけないと貞本家の皆さんから教わったので、今日はこの場をお借りして弟に伝えます」

「美路人、僕はみっくんの優しいところが大好きだし、みっくんの描く絵が大好きです。僕にはなんの取り柄もなくて、今までみっくんの才能に嫉妬したこともあったけど、今はみっくんのことを心から尊敬しています。これまで、本当にいろいろなことがあって僕一人ではどうにもできないようなことも、みっくんのお陰で乗り越えることができました。僕にとって弟はこの先もずっとずっと、自慢の家族です。ありがとう」

ドラマ『ライオンの隠れ家』最終回より

照れくさそうな、嬉しそうな表情を浮かべるみっくん。いつもみっくんと呼ぶ洸人が”美路人”と呼びかけたのは、みっくんを自分と対等な人間として尊重していることの表れだったと感じました。坂東くんの絶妙な演技に感服でした。

みっくんが”1000人画廊”の自分の絵を観たときに「違います!…違います。違います」と言って、絵の前で写真を撮ることを拒んだシーンがありました。みっくんにとっては、まだその絵が完成していなかったんですね。

”ウミネコ”の絵を、思い思いに描いた洸人とみっくんとライオン。

「海じゃなくても、ウミネコはウミネコです。どこを飛ぶかはウミネコの自由です。ウミネコだって違う景色見たいときあります」

第1話のみっくんのセリフがよみがえりました。”ウミネコ”がこのドラマの重要なキーワードだったんですね。

「みっくん、お兄ちゃん東京の大学に行って勉強し直そうと思う」
「東京の大学?」
「家を出て、東京で一人暮らしをしようと思うんだ。ずっと迷ってたけど、この絵を見て決めた。みんなと離れて暮らすことになるけど、僕たちのプライドはずっとここにあるからね。離れていても、ずっとプライドの仲間だよ。いいかな?」
「はい。同じプライドの仲間です」
「ありがとう」

ドラマ『ライオンの隠れ家』最終回より

洸人の決断を聞いて、自分も新しい世界に飛び出そうと決心するみっくん。家を出て「アートグループホーム」で暮らすというみっくんに驚いた洸人でしたが、”ウミネコ”を絵に描き足したみっくんの気持ちは実はその時点でかたまりつつあったのかもしれません。「チャレンジします。”ウミネコ”です」

いつでも戻れる小森家がある限り、離れていても家族であることは変わらない…。それぞれ自分の道を踏み出そう!あの絵には、そんな想いが込められていたように感じます。

愛生は忘れているようでしたが、昔愛生が言った言葉と同じく「じゃあ、あとはよろしく」と言って、洸人は小森家を後にしました。洸人とみっくんとライオン…それぞれの旅立ちの姿がまぶしかったです。別れではなくて、あくまでも旅立ち。「またね、行ってきます」ライオン色のランドセルを背負ったライオンの後ろ姿にウルっと。

バスに乗るみっくんを見送る洸人。「じゃあ、またね」「はい」ハイタッチを2回した二人。兄弟の絆がしっかり感じられました。いつかみっくんの絵を集めた本を出版したいという洸人の夢が、本当に叶うことを願いたくなりました。「僕はお兄ちゃんのファン1号です!」みっくん、最高!

愛生たちを助けてくれた柚留木への差し入れ、橘祥吾の判決…。短いシーンながらも、登場人物たちを誰も置き去りにしないこのドラマが、いかに細部にわたるまで作りこまれてきたかが伝わりました。

小森家のその後が、ぜひとも観たいです。スペシャル・ドラマに期待を込めて…。本当に素敵な愛に溢れたドラマでした。キャストの皆さんの演技、ずっと忘れません。深く心に刻まれました。

「またいつか、嵐に突然巻き込まれることがあるかもしれない。でも、僕たちならきっと…」

そう確信できます。3か月間ありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集