普段できない体験をと彼は言っていた
低価格で本格的なカクテルが楽しめることが魅力のそのバー。
一人でしっぽりと飲むのにちょうどいい。
私は今、行きつけになりつつある。
大学時代は、
仲間と共に飲むのにはちょうどいい場としてよく行き来していたバーでもある。
仲間の中には、当時付き合っていた彼もいた。
そのことを思い出しつつ、私はバーテンダーに
オリジナルカクテルを作ってもらった。
甘くなく、度数の強い、ラムのお酒。
クッと喉にくる感覚が癖になり、私は「同じものを」と何度も繰り返し同じカクテルを注文した。
どちらかと言うとしんみりとした雰囲気の
カウンター席とは真逆で、
たわいもない会話で盛り上がっている男女4人組。
大学生ぐらいだろうか。
チラリと横目で見ながら、私は思い出した。
彼が良く言っていた言葉。
「普段楽しめない珍しいカクテルを低価格で味わえるなら、飲んでみたことのないカクテルを色々飲んでみたい」
同じカクテルに夢中になっていた私は、彼の言葉を思い出して頭の中で思ってしまった。
「私も変わってしまったのかな」
そのことに気づいた後、
「何か飲まれます?」
と氷だけになったグラスをみたバーテンダーに私は
メニューを見ようともせずに
「同じので」
と答えた。