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【為政者の心得6】答えは、「管子」にあり。時を超えた統治術は、希望に満ちた未来へ続く。


ついに、管仲による為政者の心得も終章を迎えます。

(今までの続き)政治とは、内閣総理大臣や大臣、公務員だけのものではなく、それぞれが天から与えられた使命を果たし、「徳」を育み、「義」を昂ぶらせ、「礼」を正し、自らの身分にふさわしい社会的責任「法」を果たすもであることが明らかになりました。

そして、終章として「権」が登場します。管子は、この「権」について、為政者が臨機応変に対応するために必要な「三度(さんたく)」という三つの尺度を提唱しています。この「権」の登場で、五輔(ごほ)の五つの段階(徳・義・礼・法・権)が出揃い、善政を築くための道筋が明らかになります。
では、為政者の心得としての「権」をご紹介します。

天の時が不吉であれば、洪水や早魃に見舞われる。
地の働きが時に合わなければ、凶作で飢饉がある。
人民の行動が和順でなければ、禍乱が起こるのである。
これら三つの災禍が生じるのは、政治のあり方が招いているのである。

新釈漢文体系 第42巻 管子(上)、遠藤哲夫著、株式会社明治書院、平成元年、178ページ


いかがでしょう。

為政者(リーダー)は、この三つの尺度を意識し、臨機応変な処置を心得ていなければなりません。適切な行動を取ることで、人民は力を合わせ、偉大な業を成し遂げることができるのです。

このことは、現代の経営にも応用できます。
例えば、京セラやKDDIの創業者であり、JALの再建者である稲盛和夫氏は、天の時、地の利、人の和を深く意識していたと思われます。

1 天の時(適切なタイミング)


稲盛氏は、日本が高度経済成長を遂げていた時期に京セラを創業しました。この時代は新しい技術とイノベーションを受け入れる絶好の機会であったと言えます。
また、稲盛氏はJALが戦後最大の負債を抱えて倒産し、日本経済に大打撃を与える可能性があると考慮し、官僚主義を打破する使命感を持ってその再建に臨みました。
さらに、1984年に通信事業の自由化に伴い、KDDIの前身であるDDIを立ち上げた際、稲盛氏は「人間として何が正しいのか」を考え、通信業界に新たな風を吹き込む使命を果たしました。この時期は、日本の通信業界における大きな転換点であり、稲盛氏にとっても「天の時」であったと言えるでしょう。

2 地の利(地理的な利点)

京都という地は、伝統と革新が融合する場として、京セラの発展に最適な環境を提供しました。稲盛氏は、地の利を地理的な位置だけでなく、組織や社会、自然界、さらには壮大な宇宙との調和を重視する幅広い視野から捉えていたのだと思います。

3人の和(人々の調和)

稲盛氏は、「人の和」を最も大切にしていました。彼の経営哲学では、従業員や関係者との調和が企業の成功を左右するとしています。また、自己反省や感謝の心、他者への利他の心を常に持つことが、彼の経営する企業の文化に深く根付いています。

天の時、地の利、人の和と聞けば、孟子を思い出される方も多いことでしょう。
孟子は、「天の時は地の利に如かず。地の利は人の和に如かず」と言います。つまり、戦いにおいては、四季や天候、昼夜の良いタイミングを選ぶことが重要ですが、それ以上に土地の状態や城の堅固さといった地的条件よりも、人心が一体となり団結していることの重要性が最も大きいとされています。このように、孟子も管子の天の時、地の利、人の和を用い、彼の広い意味での戦略的思考に影響を与えたのではないでしょうか。

このように管子の教えは、孔子や孟子に大きな影響を与えたと思います。その管子の深遠な思想は、時を超えて現代にも息づいています。そして今、私たちはその叡智を通じて、過去と現在、そして未来を繋ぐ架け橋となることができるのです。

管子の為政者の心得は、単なる歴史の一ページに留まらず、永遠の智慧として、私たち一人ひとりの心に響き、行動の指針となり続けています。
この偉大な遺産を受け継ぎ、私たちもまた、天の時、地の利、人の和を心に刻み、希望に満ちた新たな時代を築くための一歩を踏み出す時が到来しているのだと思います。


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