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智恵子以外の人の抄

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詩。
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2021年7月の記事一覧

詩13

詩13

ユニコーンふれあい広場では
多くの人がツノを触るから
そこだけ色が変わっている
そのことをユニコーンは知らない
触ってる人も知らない
離れて見ている者だけが知っている
ペガサスふれあい広場では
ペガサスに乗る体験ができる
ペガサスは空を飛ぶわけだが
安全ベルトが付いているわけではないため
安全面に大きな不安があり
実際に乗っている人はいない
ちなみに売店のソフトクリームは人気で
蕎麦は普通だ

詩12

詩12

アパートの階段の手すりにかけられた
誰かのビニール傘に雨水が溜まって
かなり膨らんでいる
私はそれに針を刺すことを想像して
いてもたってもいられず針を探すが
針などどこにもなくて
今は缶バッジを探している
最悪昨日買った弁当の箸に付いていた
爪楊枝を使う手もあるだろうが
それだと少し太い

詩11

詩11

家と家の間の細い路地を通る足音に
後ろめたさが感じられないのなら
それは間違いなく小学生だ
小学生が近道をしているだけだ
だから気にせず眠れば良い
もしも喧嘩になったとしても
勝てると信じて

詩10

詩10

開店したばかりの電器店の
マッサージチェア売り場は
好きなものを選び放題であるが
もたもたしているとあっという間に
すべて埋まってしまうぞと
アドバイスしてくれた男は
まったく知らない人で
それ以来会っていない
しかしその男の言葉は
不意に私の頭を駆け巡る時があり
まったく迷惑この上ないのだ

詩09

『居酒屋で文庫本を読む人がいるが、その90%は村上龍の本である』
そんな嘘のデータのおかげで
私の人生はめちゃくちゃになった
お前のせいだ
先生に言うからな
えっ、先生って亡くなったの?
いつ?

詩08

雨が降ってきたから
干してあったTシャツを取り込んだ
まだ湿っていたので
カーテンのレールに掛けた
それだけで疲れてしまい
床に寝そべっていると寝てしまった
逃げる夢をまた見た
夢で良く出てくる場所があって
今回もそこを逃げまくった
いったいあそこはどこなのだろう?
目覚めるとTシャツはハンガーから滑り落ちていたが
直さずに夢のことばかり考えた

詩07

小さな商店の奥に見える
居間はなぜあれほどの
生活感に溢れているのだろう
会計の時に奥をさりげなく盗み見たら
遺影と目があった

詩06

後ろから聞こえてきた自転車のベルは
端に避けた私を追い越しても
まだ鳴り続いている
ベルを鳴らすことで動く自転車なのかもしれない

詩05

冬の夜布団の中で
蝉が鳴く声が聞こえた気がした
「冬に蝉の声を聞くと死ぬ」
そんな言い伝えがあったらどうしようと考えて
怖くなって電気をつけると
散らかった部屋が露わになって
食べかけの柿の種があったから
空腹でもないのに食べた

詩04

潰れてしまったガソリンスタンドの
地面を覆うコンクリートの隙間から
生えてきた雑草を見て
生命力を感じるとか言う人に
ならなかったことだけが救いだ

詩03

よくある温泉まんじゅうを
ありがとうございます
死んだ兄もきっと
喜んでいると思います

詩02

子どもの頃は大きな声を出していた
出す気がなくても出していた
中学生になっても出していた
意識して出すようになっていた
高校生になると出さなくなった
そっちの方が面白いと思ったからだ
それが何十年も続いた後、今は独り言が大きくなった
ふざけるな
今日は暑いなあ
死んでくれないかな
子どもの頃不思議に思っていた独りで話している変わったおじさん
それになっていた
そんなおじさんに大きな声で何かを叫んで

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詩01

「あの獅子舞張り切ってるな」
そんな声を獅子舞の中で聞く
「あの獅子舞動きが良くないな」
そんな声を獅子舞の中で聞く
「あの獅子舞邪魔だな」
そんな声を獅子舞の中で聞く
「去年までの獅子舞の方が良かったな」
「あれだったら俺の獅子舞の方が良い」
「獅子舞いらなくない?」
近づいて頭に噛みついてその狭い空間の中で私は「うるせーな」と言う
という想像をしてドキドキする