言語における「男女」の違いは無くせるのか?
近年、「男女平等」運動の一環で英語圏の一部の人達の間ではheやsheの区別を無くそうという試みもあるようです。英語は他の印欧系(インド・ヨーロッパ系)言語とは異なり男性名詞や女性名詞の区別がないので(一部どの名詞が男っぽい、女っぽいというのはありますが)やろうと思えばできないことはないでしょう。その国や民族において、自分達の言葉の仕組みを変えたいという意欲があり難しそうでないのであれば議論を充分尽くした上でそうした試みがあってもいいと思います。しかし、印欧系言語の中には男女、そして言語によっては中性という概念と切り離すことが難しい言語も存在します。
私が大学で勉強したロシア語には男性、女性、中性名詞の区別があります。そして、ドイツ語やフランス語とは異なり、語尾を見れば大体どの性に当てはまるのかすぐ分かります。例えば、ロシア語で「机стол」は男性、「鳥птица」は女性、「窓окно」は中性になります。更に名詞の性によって名詞の格変化(日本語で言う〜は、〜の、〜へ、〜で…などの違いに近い)が異なります。先述の例でいくと、男性名詞である「机」は、「机が」と言う時は「стол」、「机の」と言う時は「стола」と変化します。一方、女性名詞である「鳥птица」は、「鳥が」と言う時は「птица」ですが、「鳥の」と言うときは「птицы」と変化します。
過去形においても、主語の性によって語尾が異なります。これはチェコ語やポーランド語にも当てはまり、スラヴ語派の言語の多くに見られる特徴です。
名詞の性と文法の仕組みの結びつきの強いこうした言語がいきなり男女の違いを無くすことになると混乱を極めるでしょう。
中国語や日本語には男性名詞や女性名詞の区別はありませんが、「女偏(おんなへん)」という部首のついた女性に関係のある漢字が存在します。確かに中には「奴隷」の「奴」のように印象の悪い漢字もありますが、かといって「ど隷」と書くわけにはいかないでしょう。或いは「又」と表記することもできるでしょうが、それでは本来の「又」という漢字と紛らわしくなってしまいます。実は、既に中国では「簡体字」といって、日本の漢字や台湾の「繁体字」に比べて簡略化された漢字が使われています。かつては今よりも簡略化されていたことがあったようでしたが、結局ある程度は元来使われていた文字を使わざるを得なかったようです。女偏が良い、悪いという話になれば、他にも芳しくない漢字自体無くそうという話になり歯止めが効かなくなります。それに、同じ女偏の漢字でも「嬉」といった印象の良い漢字もあります。
伝統を変える時は本当に現実的なのかどうか、きちんと議論を尽くしてから行うべきですね。