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綿帽子 第六十三話

いよいよ明日が引越しの日だ。

荷物は全て整えてある。
何だかんだで毎日続いている公会堂への散歩も今日で最後だ。

お袋と二人、お世話になったお地蔵様や観音様をせめて綺麗にしてあげようと掃除の道具を持参した。

色々な思いが巡る中お袋と二人歩く。

公会堂に着いた。

まずは観音様のお堂やお地蔵様の周囲にある枯葉やゴミらしき物を取り除いて行く。

毎日通っているせいかそれほど見あたりはしないが、退院して以来だいぶお世話になったのだ、できる限り綺麗にしてあげたい。

今度は持参したタオルでお地蔵様の体を拭いて行く。
相変わらず周囲から何らかの気配を感じるが、今日で最後だ。
精一杯の気持ちを込めて綺麗にして行く。

お地蔵様が喜んでくれたらなとちょっとだけ思ったりした。

一通り全てのお堂を掃除できたので、今度は敷地内を掃除する為に公会堂の軒下にある竹箒を取り出した。
お袋に一本手渡して二人で隅々まで掃いて行く。

掃除しながらも俺の周りを町人達が普通に行き来しているが、もう慣れてしまった。
慣れてしまったが、見慣れているわけではない。
できる限り早く彼等とはお別れしたい。

「お兄さん」と声を掛けてくる危ない者達も、町人達も小さな目達とも一日も早くお別れしたいのだ。

一回竹箒を使って掃いた後に、目の細かい箒で細かいゴミも一箇所に集めて行く。

お袋が横で黙々と掃除している。
こうゆうところはお袋の良い点で見習うべきところなんだなと思う。

いつからこんなにやることなすこと全てが噛み合わなくなってしまったのだろう?世に言うマザコンとは程遠い親子の関係に頭を悩ましながら今日に至っている。

敷地内全てを掃き終わったので、縁側の目につくところだけをタオルで拭いて行く。
そんなには汚れていないので、思ったよりも早く拭き終わった。
持参した道具を全て纏める。

一服してから観音様やお地蔵様に最後の挨拶をしてから家に帰ることにした。

左のお堂から丹念に拝んで行く。

途中お賽銭を盗られたり勝手に使われたりと、色々あったけれど本当にお世話になった。

今まで全く会話もしなかった人達から、ほんの少し話しかけられるようにはなった。

それ以上のことはまだ何も起こってはいないけれど、きっとこれからもっと良くなる。

そう思うことにした。

最後のお堂に挨拶をしてから、お袋と一緒に公会堂を出る。

帰り際に珍しくお袋が振り返ってお地蔵様の方に向かって一礼をした。

珍しいなと思ったけれど、お袋なりの挨拶をしたかったんだろう、俺も一緒に一礼をしてから再び歩き出した。

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