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綿帽子 第五話

一向に回復の兆しが見えず、自分のメンタルがかなり弱っていることを自覚はしてはいたのだが、まさか自分があんな風になってしまうとは。

看護師さんだってベテランの方ばかりではない、中堅どころもいれば新人もいる。

俺はもう個室の住人となっていたので、部屋には担当の看護師さんが頻繁に出入りするようになっていた。

というか、頻繁に出入りしなければならない住人なのだ俺は。

そんな俺の担当をしてくれている看護師さんのうちの一人が、定時の検温と血圧測定にやってきた。

昨日と同じ人だ。

昨日はこの人にとってはタイミングの悪い日だった。

たまたま検温に来たその時に、俺は理解不能な発作を起こした。即座に看護師さんに救いを求めたのだが、看護師さんは逆にパニックを起こしたのか、茫然としている。

あまりの苦しさに、早く何とかしてくれ、助けてくれと頼むのだが一向に動こうとしない。

その場に立ち尽くしたままだ。

挙句に「どうしたらいいんですか?」と聞いてきた。

ちょっと待て、

「何言ってんだ、そんなこと俺が分かれば苦労はしない、早くしてくれ、早くしなければ俺はまずいことになる」

心の声がそう言っている。

一生懸命伝えようと試みてはいるのだが、如何せん何も声にならない。

苦しさと戸惑いと不安がどんどんと俺を覆いつくしていく。

看護師さんはピクリとも動こうとしない。

たまりかねた俺は精一杯の声を振り絞ってこう言った。

「血圧測って、脈を取る!先生に連絡!早くしろよ!死んじまうだろ!」

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