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綿帽子 第二話

現在の状態。

目、視力激減。
おそらく0.1くらいに落ちていると予測する。もっと悪いかもしれない。薄ぼんやりとしている。

耳、聞こえてはいるが、かなり遠くで喋っているように感じる。体温計の音は聞こえない。

鼻、よく分からないが匂いだけはやたらと敏感に感じる。
これって何だ?嗅覚だけが過剰に敏感になっている。
それを人は過敏と云うんだろう。

手、とりあえず動いてはいるが物を持つと全て重く感じるので、腕と共に筋力低下は否めない。

腰より下は力が入らない。
何より自分の男性自身がまるで何も感じないのだ。これが一番精神的には堪える。いわゆるインポテンツというものとはまるで次元が違う。

男性器の周りにはやはり神経なるものが集中しているのであろう。
体感として、男性器を中心に足の先に向かって細胞が死滅していく感覚が死の予感を益々加速させている。

そして下半身を中心に全身に及ぶ激しい痛み。頭から足の先までくまなく痛い。足の裏はまるで五寸釘を両足の裏から頭に向かってガンガン打ち込まれているような激しい痛みが走っている。

顔面まで痛いって一体何だ?
敗血症って一体なんだ?
さっき主治医の先生がそう教えてくれたけど。

「敗血症ですが原発が何か未だに不明でウイルス性のものなのか、もしくは細菌性のものなのかはっきりしていません。あなたの状態に見合った抗生剤を色々と試している最中です。全力を尽くします」

先生それだけかよ。

「大丈夫です。我々も全力を尽くしていますから、必ず治りますから心を強く持って下さい。私達があなたを絶対助けてみせます。一緒に頑張りましょう。分かりましたね!」

そうじゃないのかよ先生。
このままこの状態で、効果のある抗生剤が見つからなきゃ死んじまうって事は俺だって分かってるさ。

血圧上げる薬、昇圧剤っていうんだろう?それを24時間打ちっぱなしで血圧が80から上に上がらないなんて、馬鹿な俺でも危ないのは重々承知だ。

だけど先生、俺が欲しいのはそういう言葉なんだよ。

そう思いながら俺は天井を見上げた。

「白い」

ほぼ白だけのこの空間。あの時もそうだった。

今から約10年前、俺はやはり同じこの病院のベッドで半年という時間を過ごした。

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