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綿帽子 第五十七話
ようやく気になっていた親父のレコードの保管場所も決まり、ロビンを運ぶ段取りも決まり、引越しの準備に本格的に取りかかれそうだ。
だけど、そのレコードを一体どうやって運ぶのだ?
段ボール箱に10箱くらいと思っていたが、実際詰め出したら20箱ぐらいになった。
話が違うとか言われそうだが、彼のことなのでそれ以上は何も言わないだろう。
車の運転ができれば、後部座席を倒しこんで運べば二往復ぐらいで済みそうだ。
しかし、誰も運転免許を持っていない。
肝心の車も無い。
ご近所さんが親切に手伝ってくれるとでも言ってくれたら何とかなりそうなのに、それは期待できそうにない。
俺は考えた。
考えて考えて考え抜いたけど運ぶ手段は思いつかず、諦めかけたが家の物置兼納屋に一輪車が置いてあるのを思い出した。
「そうだ、一輪車で運ぼう!」
「いや、ちょっと待てよ」
名案に思えたが、一輪車の大きさを考えたら乗せられる箱の数も限られてくる。
20箱あるとして、一回に2箱載せるとすると、彼の家と自分の家を一輪車で運びながら10往復はすることになる。
簡単そうに思えてかなりきついに違いない。
段ボール箱二つの重量だけでも相当な重さになるのだ。
10kgとか言うレベルではない。
それを一人で運びながら10往復とは考えるだけで気が遠くなる。
しかしやらなければ。
運び込む日も決めてから彼の家を後にしたので、実行に移さないわけには行かないのだ。
来週の日曜日、彼の休みの日に運ばせてもらうことになっている。
いくら家が近いとはいえ、歩けばそこそこの距離にはなる。
この日は気合を入れる。
気合を入れても今の俺には荷が重い。
ダジャレでも何でもなく本当に荷が重いのだ。
むしろ、一輪車に乗せた瞬間バランスを崩してレコードを地面に叩きつける方にこそ自信を感じる。
それでもやらねば。
あとは家の中の整理を進めながらの荷造りだ。
パックについている段ボールには限りがあるので、問い合わせしたところ追加は別途料金が発生するらしい。
一回使用した物でよければ持ってきてくれると言う。
とにかく数が足らなそうなので、あるだけ持って来て欲しいと注文する。
自分の部屋には大して荷物があるわけではない。
あるのは子供の頃の、いわゆる思い出の品々だ。
それに俺が未練を示すか示さないかで、荷物の量が変わってくる。
結構そこそこ大きめの家にたっぷりと詰まった荷物の中から3LDKのマンションに引っ越すのだ。
本当に必要と感じる物以外は捨てていかなければならない。
本棚には俺が小学生の頃読み漁っていた本や、一回もまともに開いてみたことがない百科事典がずらりと並んでいる。
この歳になってもう見ることなんかないのだけれど、いざ捨てるとなると名残惜しいものだ。
一つ一つ手にとってみる。
小学生の頃熱中して読んだ本もある。読書感想文を書いた本もある。
ただこれは俺の思い出の品々と言うよりも、どちらかというとお袋の思い出が彩られたものなのかもしれない。
俺が全てを管理していたのならば、とっくの昔に全て廃棄処分になっているだろう。
俺はちょっとの未練を残しながら、本棚に飾ってある全ての本を本棚から床の上に投げ出した。
少し心に痛みが走る。
お袋は過剰なまでに干渉ばかりする人だけど、それが全て母親の愛情から来ていることは分かっているのだ。
だから、やっぱり心の何処かで罪悪感を感じているのだろう。
必要なだけで、何もお袋を傷つけるようなことをしているわけではないのだが、それでも何とも言えない心境にはなったりする。
床の上に無造作にばら撒かれた本を、荷造り紐で纏めていく。
ある程度溜まったら階下に運ぶ。
この動作を延々と繰り返した。
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