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綿帽子 第六十二話
てんやわんやの毎日が続く。
引越しの日も迫って来ている。
家の中の荷物は一通り片付いた、後は家の中の掃除だ。
本当は家をそこまで綺麗にしなくても、売れているのだから問題はないのかもしれない。
しかし、売る側は何といっても初体験。
そこは少しでも綺麗にして売ってあげたい。
それに、これでもう親父が最後まで居た場所は消えてしまうのだから、息子の自分としては恩返しのつもりで綺麗にしてあげたいのだ。
親父との数少ない思い出も綺麗にして、親父の想いが少しでもこの家に宿ったままにならないように手放してあげたい。
お袋が急に墓参りに行こうと言い出した。
これでもう当分来ることができなくなるし、親父の墓を精一杯綺麗にしてあげてから京都に向かいたいとのことだった。
引っ越すことはできても、次に戻って来れるのは一体いつになるのだろうか?全く見当が付かない。
幸いなことに空は晴れ渡っている。
こんな天気の良い日に綺麗にしてあげられたら、親父も当分は我慢してくれるかな。そんな気がした。
親父は大きな霊園の一角に眠っている。
牛久浄苑と言って日本一高さのある大仏様の足元で眠っている。
この辺りのことにあまり詳しくない俺は、何でまたこんな所に墓を買ったんだ?と思ったのだが、本人がもう亡くなってしまっているのだから仕方がない。
結局そのおかげで俺は全く別々の場所にある二つのお墓を管理しなくてはならなくなった。
素直に先祖代々眠っている同じ墓所の敷地内に墓を建てていてくれたなら、他県に跨って墓の管理をしなくても良かったのだ。
しかし、今更そんなことを言っても仕方がない。
出かける準備をして浄苑に向かう。
空は澄み渡り、本当に綺麗な青空が広がっている。
浄苑に着くとお袋が先にタクシーを降り、事務所へと向かう。
俺は会計を済ませてから後を追った。
事務所の中の売り場でお供え用の花を購入する。
お袋は何やら事務所の人に頼み事をしている。
俺は購入した花を抱えて先に親父の墓へと向かった。
親父が亡くなってから毎月欠かさずお参りに来ていたので、墓は掃除をしなくても十分に綺麗なのだが、当分来れなくなるのだから精一杯綺麗にしてあげたい。
墓のある場所に向かう途中で、水道の横に置いてある桶に水を汲む。
柄杓を一つ手に取り桶の中に入れる。
明確に記憶に刻まれたコースを躊躇なく進んで行く。
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