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綿帽子 第五十四話

あっさり引っ越し屋が来てあっさり日取りを決めてあっさり帰っていった。

期待通りには全くならず、雀の涙ほどの割引が入った。
10tトラックの数がそんなに必要なのかというぐらいに見積もりされている。

若い頃建築関係で働いていたこともあるので、大体どれぐらい荷が乗るのかは想像できるのだ。

少なくとも一台分は余計に見積もられている気がする。
そこを深く突っ込みたくても、万が一詰め込めない事態が発生した場合には対処のしようがない。

納得いく内容ではなかったが契約することにした。
一つ抱えている問題がクリアできたことに感謝した。

しかし、もう一つ厄介事がある。

犬だ。

これに頭を悩ませている。
犬二匹をどうやって京都まで運ぶのか?

最初は従兄妹に頼んで車で来てもらって運んでもらうとか呑気なことをお袋と叔母は言っていた。

そんなことやるわけないと伝えても、聞く耳を待ってはくれない。
仕方ないので任せていたが、それが間違いの元だった。

「やっぱり忙しいから来れへんて言うてるわ」

「え?じゃあ一体どうするの?」

「知らんわ、あんたの犬なんやからあんたが考えたらええやん」

「あのな」

もう言葉が出なかった。
何を言っても自分が疲れてゆくだけで、それ以上話す気にすらなれない。

さて、どうするか?

俺にとっては自分の方が問題だ。
相変わらず電車に乗れない俺は、とてもじゃないけど片道5時間はかかる道のりを電車で移動できる気がしない。

俺の方がよっぽど誰かに車で京都まで連れて行ってもらいたい。

落ち着け、冷静になれと繰り返し呟いてはみるけれど「そんなことまで全部俺か」というワンフレーズだけが頭の中でグルグルと回っている。

もうやってられない。

やってられないけど、頼れる者は居らず。
道を切り開くのは片側ぐらいしか動いていない俺の脳みそか。

子供の頃、人造人間キカイダーという特撮テレビ番組があった。

キカイダーは完全体ではなく不完全な部分があって、完全な部分と不完全な部分を描写するのに、頭の半分に段差ができていた。

内容は確かそんな感じ、見た目は明らかな段差が機械の脳に値する部分にできている。

感覚的に今の俺は正にそれなのだ。

キカイダーのように不完全な良心とまではいかないが、神経を集中させても深く思考できずに何処かに歪みを感じる。

熟考という行為自体に困難がつきまとっているのだ。
だから俺は何かを考える毎に、キカイダーを思い出す。

子どもの頃憧れたテレビの中のスーパーヒーローだけど、今の俺とリンクしなくたって良いのにな。

今の俺に必要なのはキカイダーでは無く、その兄のキカイダー01なのだ。ジローは不完全、イチローは完全だから。

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