<日本灯台紀行 旅日誌>2022年度版
<日本灯台紀行 旅日誌>2022年度版
第15次灯台旅 四国編
2022年11月12.13.14.15.16.17.18.19.20日
#12 六日目(1) 2022-11-17(木)
瀬戸大橋記念公園 観光
セルフの讃岐うどん
高松市到着
六日目の朝は、四国の西端、<道の駅八幡浜みなっと>の駐車場で、午前五時ころに起きた。車の中で朝の支度を終え、少し明るくなるのを待って、トイレへ顔を洗いに行った。トイレ前には、東屋があり、テーブルもある。そこに、おばちゃんたちが座って、大きな声で話している。こんな朝っぱらから、散歩かなと思っていると、建物のほうから、爺様が出てきて、おばちゃんたちと、冗談を言い合っている。まずもって明るい。いやな気分にはならなかった。
車に戻って、今日立ち寄る場所を、ナビに打ち込んでいた。すると。すぐうしろの芝生広場のテーブルに、サイクリング車を括り付けている<はげちゃびん>がいる。この爺も朝の散歩に来たのかと思った。そのとき、芝生広場が目に映った。ありゃりゃ、なんだか、ずいぶん人がいるぞ。三々五々、みな立ち止まって、なにかを待っているようだ。
まさか、と思ったが、そのまさかだった。世話役のような爺が、東屋の前に出て来て、ラジカセ?から<ラジオ体操>を流し始めた。子供のころにやらされた、第一体操だ。気まぐれだ。外に出て、一緒にやった。何十年かぶりのラジオ体操だった。横をみると、車中泊していたキャンピングカーからも人が出てきて、一緒にやっている。おばちゃんたちも、<はげちゃびん>も、そのほか、どこからとも集まってきた人で、芝生広場は<ラジオ体操>の会場と化していた。
途中で、さすがに、こそばゆい感じがした。だが、これも何かの縁だと思って、最後までやった。これで終わりかと思ったが、続けて、第二体操が始まった。第二体操は知らないし、もういいだろう。義理を果たしたような気がして、車の中に戻った。引き続き、ナビに今日の予定を打ち込んだ。そのうち、芝生広場のラジオ体操も終わったようで、四、五十人の人の輪は、ほどけていった。<7時頃出発>。<道の駅 八幡浜みなっと>を後にした。
<大洲北見から高速>。高速といっても片側一車線だ。それなのに、出入口付近にだけある追い越しレーンで、黒い<軽>に追い越された。90キロ前後で走っていたのに、相手は100キロ以上出している。地元の奴で通勤か何かで急いでいるのだろう。とはいえ、<軽>にやすやすと追い越されたので、少しイラっとした。なんというか、追い越す人間も、追い越される人間も、ちっぽけな人間だね。
そのあと、一時間ほどは、うしろを気にしながら走った。だが<松山道>に入ると、片側二車線になったので、楽になった。ややあって、<坂出インター>で降りた。料金表示板に¥4530?とあった。やけに高いなと思った。夜間割引も休日割引も適用されていないのだ。
ところで、今日の第一目的は、高松市の玉藻灯台の撮影なのだが、<坂出>で降りたのは、その前に、<瀬戸大橋公園>に寄ってみようと思ったからだ。通り道だし、ま、観光だね。と、電話の着信音が、大きな音で流れた。何事かとびくっとしたが、ナビの画面に着信ボタンが示されている。すぐさま押すと、数日前に、佐田岬灯台で出会って、名刺風のカードを渡した、日本一周中のM氏の声だ。ハンズフリーで話せるので、そのあと<瀬戸大橋公園>へ向かいながら、互いの現況など、長話をした。電話番号入りのカードを渡した人で、実際に電話をくれたのは、彼が初めてだ。少し気分が高揚していた。
<瀬戸大橋記念公園>には、10:00 頃に着いた。これを機に電話を切った。カメラを手にして車の外に出た。曇り空だ。せっかく来たのに、きれいには撮れないだろう。記念写真とはいえ、少し残念な気がした。
広々した駐車場の奥のほうには、タワーとごつい感じの展望台があった。タワーの前を通った時に、<入場料¥800>の文字が目に入った。上を見上げた。展望席がぐるぐる回りながら昇降するタイプのタワーで、高いのは、タワーの高さだけではない。しゃれた言い回しで、気に入ったのだが、今この瞬間に思いついたのだ。
展望台の下は記念館になっていて、無料で、見学することもできるようだ。蛇足だが、記念館の周辺の道路は、暴走族対策で、夜は通行止めになるらしい。暴走族ね~!話を戻そう。展望台は、やや複雑な構造をしていた。屋上からは、東西南北、四方が見渡せる。北側が瀬戸大橋、南側には記念館前の広場が見える。興味を持ったのは東側で、瀬戸大橋の、巨大な橋脚の間から、工業地帯の煙突や貯蔵タンクなどが見える。西側は、ほぼ樹木で、見通しはない。
いかんいかん、煙突や貯蔵タンクよりは、瀬戸大橋を見に来たのだ。いまさらながら、曇り空が恨めしかった。空と海が青だったなら、素晴らしい眺めなのだ。展望台を下りた。未練がましく、展望台の裏側にも行った。ベンチなどがあり、ここからの展望もいい。海の中に続く巨大な橋を見上げた。橋の上を車が走っている。そして、その下を今まさに、電車が通り過ぎていく。橋は、二階構造になっていたのだ。へえ~と思いながら、この光景も写真に撮った。なにしろ、規模がでかい。本州と四国を橋で結ぶことが、壮大な国家的事業だったことがよくわかった。
10:30 頃に、<瀬戸大橋記念公園>をあとにして、高松市へ向かった。高速は使わず、一般道だ。交通量もさほど多くはなく、道は広くて整備されている。走りやすい。高速を走っている時からだが、香川県に入ってからは、お椀を伏せたような山が、そこかしこに見える。のどかな風景だ。讃岐の<琴平神社>の看板を見た時には、<金毘羅様>に、ちょっと寄ってみたいような気もした。だが、遠回りになるし、なにしろ千段近くある<金毘羅様>の階段を上がることなど、できんだろう。
<讃岐=さぬき>にしても<金毘羅様=こんぴらさま>にしても、音韻が、どことなくおもしろい。<さぬき>は<たぬき>に<こんぴらさま>は<きんぴら>に似ている、と子供のころから思っていた。くわえて、<こんぴらさま>は浪曲や映画で有名な<森の石松>の中にも出てくる。
<森の石松>は、昭和の時代には、庶民に圧倒的な人気があった。清水の次郎長の子分で、独眼でドモリ、義理人情に厚く、けんかが強い。だが、少し間が抜けている侠客だ。自分も、石松の映画やテレビを見て、よく笑ったものだ。たわいもないことに笑い転げていた<のどかな時代>と、目の前に広がる<のどかな風景>。なおいっそう<のどかな気分>になった。そうだ、それに<さぬき>といえば<たぬき>ではなく<うどん>だろう。ちなみに<うどん>の音韻も<愚鈍=ぐどん>に似ていて面白い。
旅に出る前に<讃岐うどん>についても下調べをした。だが、どの店がうまい店なのか、判断できなかったし、わざわざ寄るのも億劫な気がした。結論としては、街道沿いにある、セルフのうどん屋に寄ることにした。グーグルマップには、そのような店が多々あるのだ。集中が内から外に向いた。道沿いの看板を見ながら走った。けっこう、うどん屋の看板がある。
11:30すぎていたと思う。イメージ通りのセルフのうどん屋があった。店の構えは庶民的だが、昼前なのに、駐車場は、ほぼ八割がた埋まっている。地元の人間が昼食に立ち寄る、安くてうまい店だと直感した。暖簾をくぐった。セルフのうどん屋は、地元の埼玉でもよく利用するので、おたおたすることはなかった。お盆をもって、列に並んだ。たしか、普通盛りのうどんに、てんぷらを二つ付けて ¥600くらいだった。
コロナ対策だろうか、カウンター席にはアクリルの仕切り板がついていた。本場の<讃岐うどん>を食べるのは初めてだ。ひとくち口をつけたとたん、これは当りだと思った。うどんの量も硬さも、汁の味も、てんぷらも、申し分なかった。じつにうまい!しかも安いときている。
地元の埼玉だと、これより味が落ちて、しかも¥800くらいはする。うどん県香川の<讃岐うどん>はさすがだと思った。塩分のことなど気にせず、汁も残さず全部飲んだ。どんぶりの底が見えてしまい、多少気恥ずかしかった。
昼時だ。客があとからあとからやってくる。食後のつま楊枝もほどほどにして店を出た。驚いたことに、駐車場がいっぱいで、待っている車がいる。ほぼすべて香川ナンバーだ。早めに入って正解だった。うどん屋の暖簾などをデジカメで撮って、駐車場をあとにした。
民宿の食事以外は、コンビニのおにぎりや菓子パンなどばかりで、ろくなものを食べていない。久しぶりに、温かい物を食べたので、余計うまく感じたのかもしれない。実際、温かいうどんには、手間暇かけた手作りの味、いわば人間の温かさがあった、と言ったら言い過ぎだろうか。まずもって穏やかな気候と風景が<讃岐うどん>の源泉だろう。まろやかでこくのある味を好む、この土地の人々も、おそらく人情味豊かな、穏やかな性質の人が多いのではないか、<讃岐うどんは>まさに<文化>だと思った。
高松市に入ると、道がさらに広くなり、高い建物が目立つようになる。近代的な大きな町だ。ナビにしたがって、高松港付近の駐車場を目指した。お目当ての玉藻防波堤灯台の周辺は公園化されていて、観光地になっている。駐車場はすべて有料のコインパーキングだ。下調べの段階で、玉藻灯台に一番近いパーキングを探し出していた。時間¥200だから、まずまず良心的な料金だ。
海が見えた。件のコインパーキングは高松港のフェリー乗り場の少し西側にある。バーの前で止まり、機械から駐車券を取って中に入った。けっこう車が止まっている。昼過ぎだった。晴れているのなら、すぐに下見方々、写真撮影だ。だが、あいにくの曇り空。それに、玉藻灯台は、かなり長い防潮堤の先端にあるから、ちょっと見に行くにも大変だ。
車の中で少し考えた。玉藻灯台の最大の魅力は、なんといっても、内側から光を発して、灯台全体が赤く光ることだ。こんな灯台は世界に一つしかない。しかも、デザインがおしゃれだし、ロケーションもいい。アクセスもしやすい。日本で一番有名な観光灯台だろう。とはいえ、暗くなってからの,赤く光る灯台が、あまりにインパクトが強いので、昼間の灯台は、いわば<昼行燈>で、なんとなく精彩がない。ま~、これはネットの画像を見た限りでの印象だが。
とにかく、メインの撮影は暗くなってからだ。運転席側のドアを開け放して、空を見上げた。曇り空なのだから、下見する必要もないだろう、と楽な方に考えが流れた。となれば、有料駐車場にいる必要もない。そうだ、今晩の車中泊地、<道の駅 源平の里むれ>に行って昼寝でもしよう。下調べでは、ここから12キロくらいで、三十分ほどだ。出発前にナビに記憶させていたから、指示するのも簡単だった。
駐車料金は¥100だった。入ってから出るまで30分以内ということだ。無駄を最小限に抑えたので、気分はよかった。ところがだ、そのあと、思いもよらぬ<伏兵>に出っくわした。高松市の市街地の道路だ。片側三車線で、広い道なのだが、交通量が多いうえに、信号も多い。さらに、車線区分が独特で、真ん中だけが直進で、左右は、それぞれ、左折オンリー、右折オンリーなのだ。
車線区分のある道路を走る時は、左車線を走る癖がついているので、はじめはかなり難儀した。交差点に差しかかるたびに、真ん中の車線に移動しなければならない。しかし、その時には車線区分の線がすでに実線になっているから、またぐと違反になる。何度か、同じ過ちを繰り返した後に、さすがに理解した。ならば、真ん中の車線をずっと走っていればいいのだ。
しかしながら、碁盤の目のような道路で、すぐに信号、しかも、必ず<赤>。まだ、二、三キロしか走っていないのに、すでに二十分近くたっている。時間はかかるわ、疲れるわで、これじゃあ~しょうがないだろう。決断した。さっきのパーキングに戻ることにした。数百円の駐車料金をケチったのが、よくない。この歳になっても、ケチくさい性根が抜けない。すこし情けない気分になった。
件のコインパーキングに再度入場した。さきほどとほぼ同じ、端のほうに車を止めた。暗くなるまで、いや暗くなる少し前まで、車の中で待機するつもりだった。昼寝でもしようと、たしか車中泊スペースに入り込んで、くつろいでいた。菓子パンなどをかじりながら、メモ書きをしたような気もする。うとうとしたのだろうか、ふと外を見ると、午後の光が差し込んでいる。見上げると青空も見える。おお、晴れてきた!