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<日本灯台紀行 旅日誌>2022年度版

<日本灯台紀行 旅日誌>2022年度版

第15次灯台旅 四国編 

2022年11月12.13.14.15.16.17.18.19.20日

#8 四日目(1) 2022-11-15(火)

寄り道

四国旅、四日目の朝は、四国最西端、日本一長い佐田岬半島の先端部にある民宿の部屋で目が覚めた。

<…昨晩は8:30ころ消灯 以後 1、2時間おきに夜間トイレ 22時過ぎからは物音もしなくなり静かになった…午前4時ころ目が覚める 5時に起きる  6時までは部屋で片付けなどをして静かに過ごす いやちがった メモ書きをする 昨日は疲れすぎて書けなかった>。

夜間トイレといっても、部屋の前にあるトイレにはいかないで、車中泊の時と同じように<おしっこ缶>にして、ペットボトルにためていた。夜中に、しょっちゅう出たり入ったりするのは、周りに迷惑だろう。それに、面倒だ。

<7時朝食 3畳間の汚い部屋に案内される あいかわらず量も品数も多いが うまくない>。この変則的な狭い空間は、物置みたいなところで、目の前に壁がある。牢屋に入れられたみたいだ。あまりにひどいので、部屋を変えてくれ、と一瞬、抗議しようかと思ったくらいだ。思いとどまったのは、<コロナ>の関係で<蜜>を避けているだろうと推察したからだ。それに、まあ~最果ての民宿だし、<クーポン券>もたっぷりもらっているからね。

<7時30分 出発 三崎漁港の先にあるローソンへ行く 今日中にクーポン券3000円を消化しなければならない 洗剤 靴下  レトルトカレー インスタントコーヒーなど約3000円 店員がやや愛想がない 若い女性だ>。

少し説明しよう。自治体が配布する<クーポン券>の期限は、旅中と決まっている。二泊三日の旅ならば、三日目に消化しなければ無効になる。ならば、自分の場合、二泊するのだから、期限は明日のはずだ。ところがだ、民宿への予約を、一泊ずつ別々にしていたのだ。つまり、はじめに一泊、天気の様子などを見て、何日かしてもう一泊予約した。なので、実質的には二泊だが、一泊が二回、という扱いになるらしい。昨晩渡された、愛媛県からの<クーポン券>3000円は、したがって今日が期限なのだ。

とはいえ、伊方町の<クーポン券>に関しては、この限りではなく、たしか、もう少し有効期間が長かったはずだ。一週間だったのか、一ヶ月だったのか、忘れてしまったが。あと、店員の愛想が悪いと感じたのは、おそらく、爺が日常品で<クーポン券>を消化しているのを見て、うんざりしたのではないか、と邪推したからだ。なにしろ、自分でも、ケチくさいことをしていると思っている。ぱあっとお土産でも買えばいいのにね、ほんとに、細かくてケチな爺だ。

店を出て、すぐの交差点を左に曲がった。<井野浦>に赤い防波堤灯台があるので、見に行ってみよう。たしか、下調べの段階で、三崎港付近をグーグルマップで探索していた時に、見つけたのだと思う。ところが、<下調べ帳>で裏を取ろうとしたら、<井野浦>については一言も触れられていない。となると、現地に入って、佐田岬半島の尾根に登る時か、下る時かに、車窓からちらっと見えたのかもしれない。絵になりそうなロケーションだったのだろう。

入り組んだ地形で、海沿いの崖際の道を上ったり下りたりした。すぐそこだと思っていたが、多少距離があった。<井野浦キャンプ場>と地図には表示がある。きれいな砂浜だ。道路沿いに駐車場があるので、中に乗り入れる。作業用の軽バンが何台か止まっていて、脇のトイレのような建物のあたりで、何か作業をしている。役場の工事担当者たち、といった雰囲気だ。

周囲を気にしながら車から降りて、砂浜に近づく。長~いロープが張ってある。立ち入り禁止ということなのか、遊泳禁止ということなのか、張り紙はない。まあ~いいだろう、ということで、車からカメラを持ち出し、砂浜に足を踏み入れた。人っ子一人いない。うしろでは、工事人たちの作業している声が聞こえる。こちらには何も言ってこない。

赤い防波堤灯台(伊予三崎港井野浦第一防波堤灯台)は、左手から海中に突き出ている細長い防波堤の先端に立っていた。形は<胴長太っちょ>ではなくて、もうひとつ類型であるところの、箱の上に煙突がついているような、例の独特なやつだ。

対岸は佐田岬半島で、尾根に白い巨大風車が並んでいる。右手奥には、ここからは見えないが、先ほど通り過ぎた三崎港がある。奥まった入り江なので、ほとんど波がない。静かだ。

波打ち際に近づく。弓なりの砂浜は、ベージュ色をしている。箒できれいに掃いたようだ。と、視界の右側から、ジョギングの女性が飛び出してきた。スタイルも走り方も本格的だから、ランナーなのかもしれない。見ていると、目の前を通り過ぎ、波打ち際を走っていった。見た感じ、そうだな、中年、いや中高年だったかもしれない。女性の色香を感じた。一瞬、甘い気持ちを楽しんだものの、なにか、自分が不謹慎に思えた。

ぶらぶらしながら、自分のいる場所から見えている風景を撮った。むろん、赤い防波堤灯台は主役だ。この灯台がなければ、積極的に写真を撮ろうとは思わないだろう。

静かな入り江にたたずむ、赤い灯台は、いわば、一種の思い込みの産物で、自分以外の人間にとっては、意味のないものかもしれない。とはいえ、この静かな風景を見ていると、心まで静まっていく。

いい風景に出会った。これが旅の面白さですよ。波打ち際から引き上げかけた時、弓なり浜の、いちばん向こうまで行った女性ランナーが引き返してきた。マラソン大会か何かに出るために練習しているのだろうか。立ち止まって、目の前を通り過ぎるのを見ていた。スタイルのいい、やや都会的な感じの中年女性だ。こちらを振り向くこともせず、黙々と走り去った。最果ての静かな海岸に、やや似つかわしくない。これから、どこへ行くのだろう。皆目見当もつかなかった。

砂浜から引き上げ、駐車場へ向かった。ふと気まぐれを起こした。記念にと、石を拾った。乳白色のきれいなものを選んで、五、六個、ポケットに入れた。静かな感動を、旅のお土産にした。石を見るたびに、<井野浦>の赤い防波堤灯台と女性ランナーが思い出されるだろう。いいや、どこで拾った石なのか、そのうち忘れてしまうだろう。

車に戻った。ほんのすぐ近くで、マンホールの蓋の周辺に工事人たちが集まって、何か話している。こちらには目もくれない。駐車場を出て、<井野浦>の風景をあとにした。

崖際の道を三崎港へと向かう途中、右カーブするところにスペースがあったので車を寄せた。 カメラを手にして外に出た。ガードレール沿いに少し歩くと展望がいい。<井野浦>の赤い防波堤灯台が、小さく見えた。

何枚か写真を撮り、引き返した。その際、坂を上ってくる老年の女性とすれ違った。服装からして明らかに散歩だ。この方も、やや都会的な感じだ。挨拶くらいしてもよかったかもしれない。後姿が、車で追い越す時に見えた。よろよろした感じで、心もとない。それにしても、こんな崖際の車道で散歩とは、危ないでしょう。それがなぜなのか、理解できなかったが、それ以上考えるのも煩わしかった。

坂を下って、信号のある交差点に戻ってきた。右手には先ほどのコンビニが見える。そっちには行かないで、左折した。 と、すぐ左側に防潮堤に沿った空き地があった。まよわず車を入れた。そのままずっと奥まで行くと、真新しい水門があり、都合がいいことに防潮堤に上がる階段があった。

防潮堤に上がった。三崎港が見える。右下の船溜まりには漁船が数珠つなぎ状態で停泊している。防潮堤の先端には、赤い防波堤灯台(伊予三崎港三崎第1防波堤灯台)が見える。三メートルほどの、ほぼほぼ円柱に近い形で、まあ~、これも防波堤灯台の、類型の一つなのだろうが、造形に魅力を感じない。機能性重視で、人間味がないのだ。風景としても乱雑で、しかも曇り空だ。記念写真を撮って、すぐに引き返した。

先ほど、三崎港の横を通り過ぎたときに、防潮堤沿いに車だまりがあることを確認していた。防潮堤に登る階段もあった。まよわず、ハンドルを左に切った。適当なところに駐車し、カメラを手にして、また防潮堤の上にあがった。三崎港が一望できる。先ほどの円柱灯台が、こんどは左手に見える。しかし、いかんせん曇り空だ。風景としても、写真としても、撮るに値しない、と言っては言い過ぎだろう。証拠写真を、何のための証拠なのか定かではないが、一枚だけ撮って、すぐに引き返した。

階段を下りながら、脇に止まっている、黒っぽい軽バンを見た。中に荷物がぎっしり詰まっている。廃車なのか?いや、なんとなく、車上生活者の車のような気がした。こんなところにも、とやや驚いた。いや~、たんなる廃車だったのかもしれない。

三崎港のフェリー乗り場に、ほぼ隣接するかたちで、<はなはな>という新しい施設がある。十時から開店するようなので、ちょこっと寄ってみた。こじゃれた飲食店や土産物店が、大きな建物の中に入っている。<しらす丼>が名物らしいので、食べてみたい気もしたが、民宿で朝食をがっつり食べたので、腹はすいていない。土産物店のほうへも、ぶらっと入って、店内を一回りした。何か欲しいものがあれば<クーポン券>で買ってもいい。だが、<くだらないお土産は買うな>という自制が働いていたせいか、なにも目に留まらなかった。

佐田岬灯台へ向かう前に、もう一か所、寄り道をした。<みさき風の丘公園>。日本一細長い佐田岬半島は、北側の瀬戸内海(伊予灘)と南側の宇和海に挟まれている。そのためなのか、季節風などが強いらしい。40キロちかくもある尾根に、白い巨大風車が林立する所以である。と同時に、尾根には<風>をテーマにした公園も数多くある。<みさき風の丘公園>もその一つであり、三崎港から佐田岬灯台へ行く途中にある。

さてと、ナビにしたがって、国道からそれて、林道のような道路を上って行った。右側に広場があり、トイレもある。一基、巨大な風車も立っているが、展望はない。横目で見ながら、さらに進んだ。道がだんだん先細りだ。あれ~、と思ったときには、時すでにおそし。回転するスペースもないほど狭くなっていた。どこまで行ってもこの感じだと、えらいことになる。怖気づいた。慎重にバックして、路肩の多少広いところで、何回か切り返して、やっとU ターンした。

ほっとして、坂を下りてくると、先ほど通り過ぎた広場が左手に見えた。スピードを落として、よくよく見ると、展望台への階段が見えた。でも、なんだか、興が覚めてしまい、階段を登るのが、大儀に感じられた。昨日の、山登りで体が疲れていたのだろうか、そのまま走りぬけて、国道に戻った。

センターラインはないものの、悠々すれ違いができる、整備された道路が続いた。所々で路肩の工事などをしている。で、昨日来たときも疑問に思った二又に出た。道路標識は、左が<佐田岬灯台>、右が<大串>となっている。ナビは、<大串>方向を指示していたので、それに従ったが、ここからが狭い山道で、運転に気を使った。なので、今日はためしにと、ナビの指示は無視して<佐田岬灯台>方向へハンドルを切った。

結局、右に行こうが、左に行こうが、少し先で、道は一つになった。ただ、左の道のほうが、ちょっとの間だが、広くて快適だった。いわゆる<農免農道>で、整備された道路だったのだ。ナビの指示を、やや疎ましく感じたが、これは、しょうがないだろう。なにしろ、国道256号線のほうが、未整備だったのだ。

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