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読書メモ『ザ・ファースト・ペンギンス 新しい価値を生む方法論』松波晴人著

著者の松波晴人さんは大阪大学フォーサイト(株)代表であり、本書は、大阪大学フォーサイトの取り組みの概略でもあると思われる。


大阪大学フォーサイトでは、新価値創造の方法論(Foresight Creation)を打ち出している。

上記サイトでは、Foresight Creationを実践するために必要な能力が8つ紹介されている。この8つの能力は本書でも全てでてくる。

  1. 着観力

  2. アブダクション

  3. 統合

  4. リフレーム

  5. メタファー

  6. 先見力

  7. メタ認知

  8. マインドセット

本書を深く読むことで、新価値創造の方法論のポイントやコツが掴めるものだと思う。

本書から得た気づき 

本書の中でも記載されているが、新価値創造は、サイエンスというよりはアートに近く、そのため、マニュアル通りで新価値創造ができるものではない。

だから、ファーストペンギンになった気持ちで、「Do and Learn(行動を起こして、そこから学ぶ)」の精神でチャレンジし続けることが必要である。

本書でも、新価値創造に最も必要なことは、マインドセットだと書いていた。
新しいことを始めようとすると既得権を持った人や現状を変えたくない人から当然反発はある。色々な困難な壁を乗り越えるために手法は使えるが、最後はマインドセットを持ったチームメンバーが切磋琢磨して、励ましあい目標に向かっていくことでしか新価値創造はできない。

新しい価値を生む方法

冒頭で記載したForesight Creationを実践するために必要な8つの能力について、本書では物語形式で順に紹介されている。
この8つの能力は本書でも全てでてくる。

1.着観力

着観力(気づきを得る)のポイント

  • 人間は愚かしい風の解釈にならないこと(愚かしい人バイアスを持ったまま、人間の行動を観察すると、気づきを得たり、そこから学びを得たりすることは困難になる)

  • 気づきを得るためにはまずは受容し、そしてそこから学ぶ必要がある

  • 人間は事実と解釈をすぐに混同してしまうので要注意

  • 大事なことは自ら「場」に足を運ぶこと


2.アブダクション

アブダクション(仮説的推論)
驚くべき「事実」が観察される。しかし、もし「仮説」が真であれば、「事実」は当然のことである。よって「仮説」が真である、と考えるべき理由がある。

ザ・ファースト・ペンギンス

アブダクション(気づきを得る)のポイント

  • 初めからその仮説が正しいかどうかを気にせず、新しい仮説を出すことを優先させる

  • 意外なことがあったときに、それを説明できる仮説を見出そうと推論すること


3.統合

この言葉をきっかけに、ジョージ、アート、メタの3人はインサイト(複数の事実を俯瞰し、統合することで生まれる新たな仮説の中で、本質的だと確信できるもの)を導き出す。

統合のポイント

  • 事実をたくさん集めてもそれらを整理するだけでは何も新しい発想は生まれない

  • いくつかの事実をグループで分類するというその行為が、それまでの思考の枠組みで考えることでしかない

  • 整理するのではなく感じ取ることが必要

  • 感じとることで初めて、さまざまな事実が統合され、これまでになかった新たな発想が生まれる(このプロセスは手順ができないため統合の実践は人間にしか出来ない)


4.リフレーム

リフレーム
ビジネスにおいてそれまで常識とされていた解釈やソリューションの枠組み(フレーム)を、新しい視点・発想で前向きに作り直すこと

ザ・ファースト・ペンギンス

この言葉をきっかけに、ジョージ、アート、メタの3人はボケながら(たとえツッコまれることがあったとしても、これまでと違ったとらえ方をして発想を広げる)、「リフレームされたインサイト」すなわち「意外な真相」にたどり着く。

リフレームのポイント

  • インサイト(新たな洞察や新しい仮説)をリフレームするということは、起こっている物事のとらえ方を根本から変えるということ

  • リニア(直線的)な解釈では、これまでと問題の捉え方の枠組みが変わらないので、最適化や改善はできてもイノベーションに繋がらない

  • 新価値創造のように、そもそも正解のない問題については、正しい問いを見つければ勝ち。正しい問いとは「新たな仮説」のことで「イノベーションの枠組み」

  • リニア思考からリフレーム思考にシフトするためには、収束思考から発散思考に頭を切り変える必要がある

3.4 統合&リフレーム

統合&リフレームのポイント

  • これまでの2軸で考えるのではなく、新しい3つ目の軸を生み出すこと

  • イノベーションは、従来の価値軸での100点を120点にすることではなく、従来の価値軸では80点に下がるけれど、別の新しい価値軸を生み出して、そこで100点を狙うという意味

  • クリエイティビティを発揮するためには、セレンディピティ(偶発的な事柄をもとに何か新たな発見をするという概念)と遊び心が必要

  • 新価値創造では「真面目である」よりも「遊び心を持つ」ことの方が重要

  • 気づきを得るためには「気づき力」が必要であり、インサイトを出すためには「仮説構築能力」が必要。フォーサイトを生むためには「クリエイティビティ」が必要。

  • イノベーションとは、知識や、リソースや、装置や、その他様々な物の「新結合」である(シュンペーター)


5.メタファー

メタファーのポイント

  • メタファーは、新しい価値のコンセプトをわかりやすく説明するために有用。未知のものであっても、既知のもので例えると理解しやすくなる。

  • コンセプトは新価値を簡潔に説明するキーワードとして多くの人々の中に広がっていくもの。また一言でいうと何なのかを説明するもの

  • もしシンプルに説明することができないのであれば、そのことについて十分に理解していないということである(アインシュタイン)


6.先見力

先見力のポイント

  • 人間は意識だけで動いているのではなく、無意識が”それ以上にその人の思考や行動を決めているから、無意識の世界は重要。”意識の世界は”水面の上に出ている部分”だから目に見えやすくてロジカルに説明しやすい。一方”無意識の世界”は”水面下に潜んでいる部分”で見えにくくて言語化しにくい。

  • 新しい価値を創造する時に一番重要なのは、”論理的に正しいかどうか”ではなくて、”その価値を喜んでくれる人がいるのかどうか”。”顧客の創造”という言い方もあるように、新しい価値を生むというのは、お客さまを創り出すということでもある


7.メタ認知

メタ認知のポイント

  • リフレームして物事の捉え方を変える、ということは、それまで”自分自身が無意識にとらわれていた枠組みに気づく”ということでもある

  • 他者を理解することが自己理解につながる

  • 問題の種類の中でも解くことが難しいWicked Problem(厄介な問題)は、課題もソリューションも明確ではない上に、そもそも”何が問題なのか”を定義することが困難な問題であるが、Wicked Problemに取り組むためには重要なことは自分の意思である。

  • 新価値創造は、ほかのイノベーションがそうであるように、最初は「個人の思い」からスタートする。「こういう世の中にしたい」という思いと直結しているからこそ、最後まで成し遂げることができる。


8.マインドセット

マインドセットの紹介の章では、物語形式で進められてきた登場人物によるプレゼンテーションが行われるのであるが、そのプレゼンテーションでは、Foresight Creationを実践するために必要な能8つの能力がフルに使われているプレゼンテーションである。

プレゼンテーションの内容

  • 様々な場の観察から気づきを得たこと(着観力)

  • それらの気づき(事実)が何を意味しているのか、なぜ起こるのかを推論したこと(アブダクション)

  • そして、気づき同士を推論したこと(統合)

  • 考えた仮説を、これまでの常識的な解釈から脱却して、新たな仮説を生んだこと(リフレーム)

  • そうして、新規性と妥当性を兼ね備えた仮説(インサイト)を得たこと

  • 新しく考えたサービスを、バーのママにたとえてコンセプトをわかりやすくしたこと(メタファー)

  • 市場についての深い理解に基づいて、考えた案の妥当性を目利きしたこと(先見力)

  • 会社の創業時の思い(意志)と合致するものであり、会社の意志を表明するサービスであり、世の中に存在する意義を見出したこと(メタ認知)


マインドセットのポイント

  • 「ファクト(気づき)」→「インサイト(洞察)」→「フォーサイト(展望)」→「アクション(行動)」→「リフレクション(振り返り)」のプロセスを支えるのは、成長のマインドセットである

  • マインドセットの維持のためには、心理的安全性が担保された環境と、仲間が必要

  • 新価値創造をなし遂げるためには、打たれ強くないといけない

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