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学生と教員がともに学ぶデジタル教科書利用法:山本奈央先生(名古屋市立大学)

山本先生は、デジタル教科書上で課題を提示して、学生に「付箋」機能を使ってコメントしてもらっています。授業で紹介されるために学生が頑張るだけでなく、教員としても学生のコメントから学ぶことが多いそうです。そんな授業実践を紹介してもらいました。

2021年春 デジタル教科書導入にあたり教員(私)が考えたこと

 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、私の所属する大学でも2020年より、オンライン講義が導入された。
 私は2019年末から1年強の育児休業に入ったため、2021年4月にはじめてオンライン講義を行うことになった。この時点ではオンライン講義に関する知識もノウハウもほとんどなく、むしろ学生のほうが講義の受け方や課題提出等、オンライン講義に精通しているという状況だった。
 休職前からガラッと変わってしまった環境を前にかなり緊張をしつつ、何か工夫できることはないか、と考え導入したのがデジタル教科書(「1からのマーケティング・デザイン」)だった。もともと2019年に開催された碩学舎のデジタル教科書導入セミナーに参加していたのだが、その際、最も使ってみたいと思った機能は付箋やマーカーなどの共有機能だった。「これまで学生が自分一人で、あるいは仲のいい友人同士で工夫して勉強していたことを、より多くの学生同士で、そして教員も仲間も一緒にみられるなんて、デジタル教科書すごい!」と感銘を受けたのだ。
 21年度、「マーケティング」(履修者200名程度)でオンライン講義を行うにあたり、「対面で質問が受け付けられない分、自由に疑問点を付箋共有してもらい、みんなで授業を作っていこう」そう思い立った。「わからなかったところや教員に聞いてみたいことをどんなことでも構いません。付箋に書いて貼ってください。講義内で質問に答えます」とアナウンスの上、付箋の共有機能をオンにしたが、結論として、この機能はほとんど使ってもらえなかった。
 なぜそのようなことが起こったのか、自身の反省を含めて振り返りたい。

質問や疑問は付箋を貼るよりチャットが気軽で便利!

 弊学では、オンラインを活用する際には、zoomを利用したリアルタイム講義が主流だが、自身が講義を行ってみて一番驚いたことはチャット機能で質問が多く来る、ということである。
 コロナ禍前、中~大人数(100名以上)では対面講義の際には毎回必ず質問の時間を設けていたし、メールでの質問も受け付けてはいたが、声をかけてくれるのは決まった数人のみだった。自身が大学時代のことを振り返れば「教員に直接聞くのは気後れする」のは当たり前なのに、それを自身が教員になったらすっかり忘れてしまっていたのだ。
 しかしzoomでは基本的に顔は見えない(学籍番号と氏名がわかる表示にするようには求めている)ので、ちょっとした疑問もすぐにチャットで送ってくれる。これは私にとっては驚きだったし、リアクションが得られることが教員としては何より楽しかった。学生側からすると、教員が適宜講義内で回答したり、紹介したりしながら進めていくので、デジタル教科書でわざわざ付箋を貼らなくてもよかったのだ。
 少し考えればわかるはずなのに・・・なかなか貼られない付箋を待ちながら、21年度の前期はあっという間に終わってしまった。このことについて反省をしつつそれだけではいけない、と改善策を考えることにした。今回、導入にあたっては大学生協事業連合ならびに弊学生協山の畑店の方に使い方のレクチャーはじめ大変お世話になった。そこで大学生協の方とデジタル教科書利用者アンケートを取ることにした。そこでわかったのは、学生はデジタル教科書のメリットをしっかり生かして上手に使いこなしているという姿だった。

デジタル教科書はレポートに大活躍

 学生はデジタル教科書のどこにメリットを感じていたのか。アンケートから見えてきたのは「レポートを書くときにキーワード検索を使い、効率的にレポートを書く」姿だった。
 2021年度前期の講義では、毎回小レポートを課しそれを成績評価に利用した。小レポートは講義回の内容について、教員から出された設問(「考えてみよう」など)に答えるというものだったが、そこにあるキーワードをまず教科書内で検索し、課題の中で事例が求められる場合にはウェブ検索する、という利用の仕方をしている学生が多数であった。
 学生は日々多くの課題やレポートを教員から課されている。(反省も込めて、意外とこのことを教員は忘れてしまう)したがって、効率よく課題を進めるには、紙の書籍よりもデジタル教科書のほうが好都合、ということである。 また、講義の人数によって対面とオンラインが併用されていたため、学内で講義を聞く学生も少なからずいたし、それにあわせてコロナ禍前よりwi-fiの環境も整備されていたこともあり、持ち運びの手間のないデジタル教科書は好都合であったようである。
 学生にとってデジタル教科書のメリットがあったことにほっとしつつ、今後の課題としてせっかくのデジタル教科書の双方向性を活用できる方法はないか模索することにした。

2022年講義にあたって

 前年度の反省を踏まえ、今年度は2つの工夫を行った。
 まず「質問があれば貼ってください」という形式ではなく、こちらからテーマを提示(前回の講義内容の中から1つの概念や理論を取り上げ、それにあてはまりそうな事例を紹介してほしい、というもの)し、それに付箋機能で回答をしてもらうという形にした。また、デジタル教科書への書き込みに加点することがある、とシラバスに明記した上で、よかったコメントは講義内で「どのような点がよいのか」を含めて紹介することにした(なお、加点を希望する場合には学籍番号を書いてほしいと伝えている)。
 次に、共有の範囲は教員―学生のみとし、学生間での共有は行わないことにした。このことによって学生の通信量の負荷を下げるとともに、コメントが紹介されなくても他者にわからないように配慮した。

デジタル教科書で提示した課題の例

 現在(2022年6月)時点ではこの試みはうまくいっていると感じている。まず、思いのほかコメントがたくさんついたことがあげられる。もちろん加点対象となることもあると思うが、毎回すべてのコメントが紹介されるわけではない。にもかかわらず、コメントが減ることはなく、むしろフィードバックを経て「紹介されるにはどうしたらよいか」(理論との結び付け方、事例の紹介の仕方、参考情報の書き方など)を工夫している点が見受けられる。
 次に教員にとっては、思いもよらない事例を紹介してもらえるという驚きがあった。特に最新のゲーム産業の事例等趣味性の高い事例は教員よりもはるかに学生のほうが詳しいし、「ネスカフェ バリスタ」(「1からのマーケティング・デザイン」第5章)に似た事例として、「オフィスグリコ」が上がった際には、恥ずかしながら「講義で話せばよかった・・・」と後から気が付かされた。コメント共有は教員にとっても学びの多い機会となっており、今後もぜひ続けていきたいと考えている。
 他にもマーカーやアンケート機能等便利な機能がたくさんあるデジタル教科書だが、すべての機能は使いこなせておらず、試行錯誤の毎日である。今後も「デジタル教科書だからこそできる相互作用」について考えながら教員だけが講義を「作る」のではなく、学生と一緒に講義を作り、「1からのマーケティング・デザイン」にあるように価値を共創していけたらと思っている。


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