デジタル教科書を活用した反転授業の試み:明神実枝先生(福岡大学)
デジタル教科書との出会い
私のデジタル教科書との出会いは2019年の夏に開催された碩学舎のFDセミナーでした。4人の先生方がご自身の講義で取り組まれた「デジタル教科書を活用した反転授業」を紹介して下さり、それぞれの先生でやり方は少し異なるのですが、学生は事前に予習し、それを用いて対話型の授業をしておられました。
自分なりに、グループワークなどのアクティブラーニングを取り入れてきたものの、予習を取り入れてはおらず、こういう授業をいつかできたらいいなと思いました。デジタル教科書があれば受講者は予習しやすくなり、教員も予習に対するフィードバックをしやすくなり、メリットがありそうだとも思いました。しかし、果たして使いこなせるだろうかとも...
そうこうしているうちにコロナ禍に入り、教科書の購入もままならない中、1からシリーズのデジタル教科書が無料公開となり、それに助けられて受講者は教科書を手にし、授業を進めることができました。中村学園大学では学生のノートPC必携化も進んでいましたので、多少の混乱はあったものの、導入は思いのほかスムーズでした。
あとは授業でどのように活用するか、という状態になってしまいました。今が反転授業をやってみるタイミング?と思わされ、重い腰を上げて、慣れ親しんだ授業のやり方を手放すことにしました。
反転学習の流れ
先のセミナーの内容を参考にさせていただきながら、①予習→②オンライン講義 →③復習という学びの流れを計画しました。中村学園大学の「ブランド・マーケティング」(3-4年対象、選択科目)では、『1からのブランド経営』のデジタル教科書を使っています。当時は「Actlearn」という名前のアプリでしたが、現在は改良され使いやすくなった「EDX UniText」のアプリでデジタル教科書を開いています。
①予習
①予習では、学生は該当章を読んで重要だと思う箇所にマーカーを入れ、マーカーした箇所とマーカーした理由をLMSに回答してもらいました。加えて、コロナ禍のオンライン授業では、受講者同士の様子も少し分かるようにと質問やお便りを寄せてもらうようにしました。
②オンライン講義
②オンライン講義(Teams使用)には、予習に対するフィードバックを組み込むよう工夫しました。
導入は「お便りコーナー」です。例えば、「昨日も誰とも話さなかった」などの誰もが持つ悩みや、「インターンシップの申し込みを始めなければ」といった(学生にとっての)季節の行事に向けて考えていることを紹介しました。悩みに応えるすべもなく「聴く」ことに徹するコーナーですが、翌週のお便りで別の学生が応答してくれることもあり、1週間という時間を隔てた対話が成り立つのも新鮮でした。
次に、デジタル教科書を画面共有して何人かの予習を紹介しつつ、「該当章のポイント確認」を行いました。最初のころ、受講者の多くが、各章の最終節にまとめられた要点の部分をマーカーしたことがあり(教科書のコンテンツが優れているということなのですが)、1つの正解を求めているように見えたので、そうではないことを伝え、あえて「2節のみを読んでマーカーする」といった予習に切り替えることもしました。
メインイベントは「クイズ」です。2~3つ出題し、チャットで回答してもらい、意見交換を行いました。最初は思うような反応はなく回答が少なかったので、クイズの前に「アンケート」を始めました。予習をしていなくても答えられ、学びのポイントに関わる、という内容を心がけました。デジタル教科書にアンケートとその解説を貼り付けておき、アンケートの解説は折りたたんでおいて、アンケートが終わってから表示させて解説をしました。
「クイズ」は予習をしていると答えやすく、予習したことが報われる、という内容を心がけました。そのため、本文の一部にマーカーし、関連したクイズをマーカーしたページに貼り付けました。クイズの多くは、各章の最後にある「考えてみよう」を参考に作成しましたが、ある時から、予習の中で思った「なぜ~?」を伝えてくれる学生が出てきたので、それをもとにしたクイズも作成しました。受講者はお互いの考えやアイデアを知ることができ、理解を深めるきっかけになりました。
③復習
③復習として2つの課題を設定しました。1つは、予習と受講中の学びを整理する内容を心がけました。クイズの回答、〇節を読んで~、考えてみようなど、該当章での学びに合わせて形を変えました。もう1つは理解度チェックという選択問題です。基本的な用語などの知識理解を確認するために行いました。
予習に助けられて
慣れ親しんだ授業のやり方を手放して、授業設計を見直したことで、いくつかの気づきがありました。
まず、予習してもらうのは難しいと思っていましたが、そんなことはありませんでした。デジタル教科書のおかげで、受講者はいつでもどこでも空いた時間に予習できる環境が与えられたことは追い風となりました。
また、予習してもらうことで、講義で丁寧に解説すべきポイントを整理することができ、授業準備がスムーズになった部分がありました。労力を要しますが、続けることでやり方が定まってくるかなと思っています。
そして、考えてみれば、予習の習慣が身につくことは受講者の卒業後に意味を持ってくるのではないかということです。受講者の多くは卒業後に企業に就職するか、何らかの形で社会と関わって活動します。例えば、お客さんの前で行うプレゼンを行うとしたら、事前準備が重要です。卒業までに事前準備の習慣が身についていると、社会人スタートもスムーズではないかと思います。そこまで思い至らずに授業をしていたなと思い、予習を大切にしていきたいと思います。
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