人間の幸福感について~連載コラム「ヴィレヴァンのこんなんもあり」番外編
以前、宣伝会議のニュースサイト、アドタイで「ヴィレッジヴァンガードのこんなんだってあり」というコラムの連載を約1年間やらせていただきました。ですが、そこに書ききれなかったこともいろいろあり、記憶が消える前に、そのことについてメモを残しておこうと思い立ち、ここに残そうと思います。
ヴィレッジヴァンガードは、書籍雑貨を店員の手書きPOPとともに縦横無尽に陳列する店だ。私は、下北沢がオープンして間もない頃に入社。当時、関東では名前を知っているひとさえほとんどいない存在だった。経営規模もまだ小さく、給料が遅れることも日常茶飯事。いつ倒れてもおかしくない状況だったが、働いているスタッフはいつも上を向いていて笑いには絶えなかった。そんな当時の状況を振り返りたい。
ヴィレッジヴァンガードは、先述の通り、いつ潰れてもおかしくないような弱小企業で、常に自転車のペダルを全速力でこがないと倒れてしまいそうで、当時の社長は、倒れたら死ぬから自転車じゃなくオートバイ経営と冗談のような本当の話をよくしていたのを覚えている。当時そんな状況にも関わらず、メジャーな店舗形態を目指すわけでもなく、粗利の良い商品に走ることもなく、自分たちで良いと思ったこと、楽しいと思ったことを素直に表現すること、お客様に嘘をつかないことに徹していた。
社長も社員も、学校や会社をドロップアウトしたような連中ばかりで、困難な経営課題を論理的に解決するようなタイプではなかった。ただ、その頃にいたメンバーは、本が好き、漫画が好き、音楽が好き、映画が好き、演劇が好きなどなど、カルチャーリテラシーだけは高い、ひとくせある連中ばかりで、お互いを刺激しあいながら、店舗というキャンバスに共同で絵を描き続けた、そんな状態だった。
ありがたいことに、ほんの一部のお客様に支えられて、なんとか生き延びさせていただき、下北沢という街に溶け込みながら、その輪も口コミなどを通じて徐々に広がって行った。いまもそうだが、その頃から、書店業界は暗いニュースばかりで聞きあきていたのだが、我々はその流れを完全に逆流していた。当時、単純に雑貨をやっているからでしょという安易な批評もあったのだが、おそらくそれだけで説明できるほどシンプルなものではなかった。当時、半分以上は書籍売上で構成されており、特にコミックの売上構成比は非常に高かった。しかも、その特徴としては、他の書店では見向きもされていないタイトルで売上を構成していた点も注目に値すると思う。
なぜ、こんなドロップアウトした連中が、特殊能力があるわけでもなく、小さいながら独自のムーブメントを起こすことができたのか。その原動力となっていたのが、当時の社長が無意識的に作り上げていた独特の組織のあり方が大きく起因していたと思われる。
当時、全社員を集めた社員会議というものが2~3カ月に1回あり、オープニングで社長が社員に少しだけ話をする。他の会社の社長にした社員の自慢話、誰かの真似をするな、自由にやればいい、毎回内容はこの3点で、ギャグのネタは毎回変えてくるが、本質の話はだいたい一緒。その話をくだらない話9割、たまにちゃんとした話1割で伝えてくる。難しい話は一切なし。
社長も器用じゃないので、ただただ自分の頭の中にあることを参加したみんなに面白く話したいだけで、嘘っぽさは一切なく、そのおかげで本質部分は社員へ深く伝わっていた。
夜は社長を含めて徹夜で遊んだり、はたまた酒を飲みながら、各々の仕事自慢、成功事例をシェアしたり、自主的に話し合いが行われていた。おかげで2日目の本部の人からの連絡事項を聞く時間は、社長を含め半分以上の人が寝ているというすごい全体会議だった。
社長と社員は非常にフラットな関係性にあり、社員とスタッフもまた一緒、そして、はたまた、スタッフとお客様も非常にフラットな関係性を表現するまで至っていた。
社員は店舗にいるスタッフに社長の話を笑いながら伝え巻き込み、書籍、雑貨、スタッフコメントPOPなど、パッケージを越えて、多様なメディアコンテンツを独自に編集し、キーブックのコンテンツに付加価値を付ける仕事に邁進していた。
日々、前年比ランキング情報など、どの店舗がもっとも独自性を打ち出しながら、ファンを増やすことができているか競争する仕組みと文化があり、その情報をもとに、それぞれのスタッフが他の店舗へ偵察に向かい、だいたい先方の社員やスタッフと、そのまま酒の席となり、そこで売り方や考え方をシェアする文化があった。
当時、社員もアルバイトスタッフも薄給で猛烈に働き、空いた時間は自主的に他店へ視察を行うなどの行動が起きていたが、疲弊していることなく、皆、楽しんでやっていた。糸井重里著「インターネット的」にもあるが、トップの非常に強いメッセージ(コンテンツ)が、リンク、シェア、フラットに結び付けられ、頻度高く、信頼感にもとづき共有されると、幸福感が得られ、組織は活気づく。
その会社の意思(ストーリー)もしくは発信するコンテンツを、いかにお客様まで含めたフラットなコミュニティとして形成させ、頻度高く、リンク、シェアを起こりやすくするか。これがポイントだ。これだけメディアやシステムが高度化している時代においては、その方法は以前にも増して行いやすくなっており、今後より「インターネット的」な社会が発展することを期待している。