五月雨(さみだれ) 【創作・詩】
ジメッとした雰囲気をまとっていないだろうか。
今の私は笑えてるだろうか。
あなたの前で。
あなたに悟られずに、今を演じられてるだろうか。
メロウな音楽に、木のぬくもり。
都会から少し離れた小洒落たレストラン。
あなたの誕生日祝いに選んでみたお店。
気に入ってくれたみたい。
なんて、いい笑顔。
ようやく幸せを取り戻したみたい。
なんて、素敵な笑顔。
きつねの嫁入りがごとく、あなたは一歩、前に進んだだね。
私の声は、震えていないだろうか。
あなたの前で。
あなたに知られずに、今日の気持ちを仕舞えるだろうか。
ノロケな話題に、ほおの緩みに。
席から少し離れた窓には、透明なドットとライン。
あなたの誕生日祝いとは別に、告げた、もうひとつの「おめでとう」に。
間違ってなかったみたい。
なんて、いい笑顔。
ようやくゴールに辿り着いたみたい。
なんて、素敵な笑顔。
2年前のあなたとは、まったく別の人みたい。
今にも泣き崩れそうだった、あの日のあなたは、もう居ない。
あなたがもう一度、立ち上がれるよう見届ける。
あなたがふたたび、愛を語れる日まで寄り添い続ける。
そんな誓いを立てた、あの日も窓の外は雨だった。
でも、今日は、雲の切れ間に光が一線。
お店を出る時には、傘は閉じたまま。
また会おう!
と手を振って、
本当に有り難う!
と手を振られて。
1人で乗った車の中で、私の心は急に揺さぶられて。
ただ、ただ長い田舎道。
いつの間にか、視界がぼやけて、どこまでも続くような気がした。
慌てて、ワイパーを動かしても、目の前の景色は変わることなく。
頬を伝う、雫が一線。
熱を奪って、泡沫と帰す。
五月雨、落ちる。
車の中で。
さ、乱れ落ちる。
ひとり密かに。
2023/6/14
せきひと
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