時代劇レヴュー⑫:豊臣秀吉 天下を獲る!(1995年)
タイトル:豊臣秀吉 天下を獲る!
放送時期:1995年1月2日
放送局など:テレビ東京
主演(役名):五代目中村勘九郎(豊臣秀吉)
原作・脚本:長坂秀佳
かつて正月の二日に一挙放送されていたテレビ東京の名物番組「12時間超ワイドドラマ」の十七作目(オリジナル作品としては十五作目)であり、テレビ東京開局30周年および松竹創業100年記念番組でもある。
タイトルが示すように、豊臣秀吉の生涯を六部構成で描く作品で、長坂秀佳がこのシリーズ初となる単独での原作・脚本を務めており、秀吉の幼少時から話を起こし、その死までを描いているが、前半生に時間を割き過ぎたせいで、後半はかなり駆け足となっている(全十二時間のうち、小牧・長久手の戦いから秀吉の死までが終盤の二時間ほどでまとめられている)。
私はこの作品を本放送時も含めて複数回視聴しているが、史実とは全く異なる描写や時代考証が適当な所(例えば、随所の合戦シーンで大砲をぶっ放しているような描写が多々ある)、あるいは複数のエピソードを一緒くたにしたような箇所(例えば、明智光秀が本能寺の変の直前に籤で凶を引き、その衝撃でちまきを皮ごと頬張ってしまう描写など)が見られることから、最初この作品を見た時は作品としてのかなり評価が低かった(後、この作品に限らず、個人的に長坂秀佳の脚本があまり好きじゃないせいもある)。
が、見返す度に結構工夫して作っている箇所が多いことに気づき、現在は傑作とは言えないものの「そう馬鹿にしたものでもない」作品と言う印象である(ほめているのかけなしているのかわからない表現であるが)。
確かにストーリー展開にはやや無理のある所や、意味のよくわからない描写、キャラクタ設定が「?」な人物(例えば、柴田勝家などはかなりデフォルメされている)などもいるが、作品の雰囲気自体は決して悪くはない。
個人的に最も高評価したいのが明智光秀の描き方で、近藤正臣の怪演が光っている。
近藤正臣は、かつてNHKの大河ドラマ「国盗り物語」で生真面目な光秀を好演したが、この作品の光秀は打って変わったエキセントリックなキャラクタになっている。
当初はエリート官僚的なスマートなキャラクタで登場するのであるが、徐々に信長のやり方(林秀貞や佐久間信盛の追放など)に疑心暗鬼になり、心のバランスを崩して本能寺の変を起こしてしまうと言う解釈で、そうした狂気じみた演技をさせると、近藤は抜群にうまい。
ちなみに、山崎の合戦に際して光秀は平静を取り戻すのであるが、本放送では描かれていた平静を取り戻すきっかけとなるシーンが、各種再放送版ではカットされているために、何だか唐突に光秀がまともに戻ったような感じになるので再編集版を見る際には注意(?)が必要である。
近藤の演技がうまいだけはなく、光秀の本能寺の変に至るまでの描写も面白かったと思う。
この手のドラマでありがちな、光秀が信長に打擲されるようなシーンは一切なく、むしろ信長は最後まで光秀を高く買っていて(インテリを鼻にかける嫌な奴と言う感情を持っていることをうかがわせる台詞はあったが、それを信長が光秀の前で出すことは最後までない)、光秀の方が信長の家臣の粛清などを見ている内にどんどん事態を悪い方向に捉えてしまうと言う展開で、案外史実はそんな感じなのではないかと思わせるリアリティのある描き方だったように思う。
面白い設定、と言う点で言うと、清洲会議の際に秀吉は最初、柴田勝家・神戸信孝に対抗するために北畠信雄を後継者として擁立しようとするが、あまりにも信雄が暗愚なので考えた末に三法師を後継者とすることに思い至ると言う展開になっており、これはこの作品独自の描写と言って良い(2013年に公開された三谷幸喜監督の映画「清須会議」も、これと同じ展開であったが、この秀吉が当初は信雄を擁立しようとした設定になっている作品は管見の限り他に知らないので、あるいは三谷はこの作品に影響を受けたのかも知れない)。
もうひとつ、この作品で特徴的なのは、秀吉を主人公にした作品にしては全体的に秀吉が批判的に描かれていることであり、徐々に耄碌していく秀吉には痛々しい印象を受けるが、主演の中村勘九郎(→後の十八代目中村勘三郎)がこれを見事に演じている(なお、秀吉の幼少時を勘九郎の長男で、現六代目中村勘九郎である二代目中村勘太郎が演じ、次男の二代目中村七之助も幼少時の徳川家康役で出演、実姉の波乃久里子が家康の生母役を演じるなど一家で出演している)。
後半どんどん良心を失って、権力欲の権化みたいになっていく秀吉のシーンは、非常によく雰囲気が出ていた。
キャストで印象的な人物を他に挙げると、白竜演じる黒田如水は特に印象に残っており、作中では何を考えているのかわからないポーカーフェイスの軍師を好演していた。
秀吉にとってのあこがれの存在であるお市も、長坂秀佳なりのこだわりか、ヒロイン格であるにもかかわらず、決して「いい人」ではなく、徹底的に秀吉を嫌い抜き、戦国の女性らしいしたたかな所も持った女性として描かれていた(他にも竹中直人演じる徳川家康や、岸部一徳演じる千利休など、全体的に「曲者」として描かれる人物が多い印象がある)。
お市役は黒木瞳であるが、個人的には彼女は良妻賢母みたいな役よりも、こう言う嫌な感じのある役の方がよく似合うように思う。
なお、2019年現在、VHSとDVDがリリースされている他、BSやスカパー、あるいはテレ東から権利を買った地方局などで時折再放送されることもあるので、比較的視聴が容易な作品であるが、同シリーズの他の作品同様、再放送の際にはオリジナルサイズではなく、一回あたりが一時間の枠で収まるように十三分割編集されたものでカットされた部分もある。
またDVD版も十三分割の再編集版を使用しているので、オリジナルに最も近いのはVHS版である。
・追記(2023年7月24日)
レヴューを書いてだいぶ経ってから思い出したことであるが、本作が意外と「史実通り」な点としては、本能寺の変における光秀の「居場所」が挙げられる。
テレビドラマで本能寺の変が描かれる場合、光秀は本能寺の門前に陣を構えているものが多く、中には自ら本能寺の中に乗り込んで信長と対峙する(言葉を交わしたり、創作が強いものだと二人でチャンバラをしたりする作品もある)ような作品もある。
近年では光秀自身は前線にはおらず、鳥羽で陣を構えていたことが有力視されるようになっているが、本作では光秀は三条河原(だったと記憶している)に陣取っていて、場所こそ鳥羽ではないが、直接本能寺には出向いていないように描かれている。
長坂秀佳が新説をいち早く取り入れたのか、あるいはたまたまなのかはわからないが、本文中でも書いた通り、本作は意外と「ちゃんとしている」所もあるから侮れない。
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