時代劇レヴュー⑪:五稜郭(1988年)

放送時期:1988年12月30日、31日

放送局など:日本テレビ

主演(役名):里見浩太朗(榎本武揚)

原作・脚本:杉山義法


日本テレビが年末に放映した時代劇の第四弾で、シリーズ人気の安定に加えてバブル期真っ只中の作品のため、映画並みの予算を投入して作られており、シリーズ中でも一際「金がかかっている」観のある作品である。

幕末から明治にかけて活躍し、最終的には明治政府で外交官や閣僚として活躍した異端の俊才・榎本武揚を中心に、蝦夷に理想国家の樹立を夢見て五稜郭に集った男達の生き様を、戊辰戦争最後の激戦である箱館戦争(箱館戦争は明治二年に起こっているので厳密には「戊辰」ではないのだが)を通じて描いた作品である。

タイトルは「五稜郭」であるものの、榎本武揚の前半生を描く伝記的ドラマの側面が強いので、そこまで五稜郭と言う城郭自体は本筋に関わらないのであるが、これまた前年に放送された「田原坂」同様、三文字タイトルへのこだわりであろうか(オープニングテーマでは第一部・二部ともに五稜郭がバック映像であるが)。

戊辰戦争の中では比較的マイナーな戦いである箱館戦争に焦点を当てた所は面白いし、同シリーズでそれまでに放送された他の幕末作品とは異なり、一貫したコンセプトで描いているせいか、戦闘シーンの多さの割に見る側を飽きさせない作りとなっている。

また、題材が題材なだけに悲劇要素も多く(終盤にある中島三郎助親子の戦死シーンなどは特に)、例によって杉山義法の脚本も「白虎隊」「田原坂」に負けず劣らずリリカルなのであるが、主人公である榎本武揚が最後まで死なないせいもあって、そこまで視聴後に悲劇的な印象が残らない(これは杉山義法自身が今作を執筆するに当たり、「死なない主人公」にこだわったせいもあるだろうが)。

同シリーズらしく、佐藤泰然(順天堂大学の前身に当たる佐倉順天堂創始者で、榎本の夫人の祖父)役の森繁久彌、土方歳三役の渡哲也を始め、大川正次郎(幕府陸軍伝習隊士官で土方と行動をともにする)役の三浦友和、伊庭八郎役の舘ひろし、福沢諭吉役の中村雅俊など、ほんの数シーンにしか登場しない人物にも著名俳優を当てる豪華なキャスティングも健在であるが、何と言っても本作品で最も印象に残るのは、里見浩太朗演じる主人公の榎本武揚であろう。

作中での榎本の描かれ方に加えて、時代劇の大御所・里見浩太朗のキャラクタのせいもあって榎本が異常に格好良くなっており、史実の榎本の夢想家でインテリな所をうまいことデフォルメして、新たな幕末のヒーローを作ることに成功していると言えよう(実際の榎本はもう少し気分屋で腰が定まらない印象であるが)。

なお、物語としては同じ杉山義法が脚本を手掛けた同シリーズ第二弾の「白虎隊」の後日談的な作品になっており、それを意識してか近藤勇役の夏八木勲など共通する配役もあり、十朱幸代演じる井上ちか子(会津藩士の娘で、同藩士で新選組と大きく関わる野村左兵衛の未亡人、「白虎隊」では坂口良子が演じた)と土方(「白虎隊」では土方役は近藤正臣)の関係性も「白虎隊」のそれを踏襲したものになっている(ただし「白虎隊」ではちか子は箱館には行かずに他の藩士の家族とともに斗南に行くことになっている。史実では会津戦争の際に実家の父母とともに自害している)。

同シリーズの他の作品と同様にDVD化がなされており、現在でも比較的視聴が容易である。

また、前年放送の『田原坂』同様、杉山義法によるノベライズ版も出版されている(タイトルは同じ『五稜郭』で角川文庫刊、現在は絶版)。


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