続・時代劇レヴュー⑮:河井継之助~駆け抜けた蒼龍~(2005年)、附・峠(2022年)
タイトル:河井継之助~駆け抜けた蒼龍~
放送時期:2005年12月27日
放送局など:日本テレビ
主演(役名):十八代目中村勘三郎(河井継之助)
脚本:金子成人
2005年の年末に放送された作品で、日本テレビが十八代目中村勘三郎襲名を記念して(そのため、十代目坂東三津五郎、笹野高史、六平直政など、勘三郎と親交のある俳優が多数出演している)、実に12年ぶり(レギュラー放送の時代劇枠終了から数えると8年ぶり)に制作した年末大型時代劇である。
タイトルの通り、幕末の越後長岡藩を率い、戊辰戦争最大の激戦である北越戦争で新政府軍と戦った河井継之助の半生を描いた作品で、河井の江戸遊学からその死までを二時間半ほどで描いている。
幕末を舞台にし、敗者の側である河井継之助にスポットを当てるという、かつて同局の「年末時代劇スペシャル」を彷彿とさせる題材であり、前半をダイジェスト的に描き、後半部(この場合は北越戦争)に時間をかけると言う同シリーズに共通して見られる作り方も共通している。
物語自体は比較的しっかりと作っている印象があったが、いかせん継之助の生涯を二時間半で描くのは無理があったようで、ドラマ全体の印象が薄くなってしまったことは否めない。
本作の感想については「時間が足りない」の一言に尽き、その点はいかにも残念である(すでに時代劇は斜陽、と言うか落日期に作られた作品だけにこの尺が限界だったのかも知れないが)。
前半部のやや駆け足な展開はあまり気にならなかったが、後半、特に長岡城をめぐる攻防戦はもっとじっくり描いて欲しかったと思う(継之助が負傷するシーンも、何だか間に合わせみたいな感じだった)。
時間の他に、強いて不満を言えば、勘三郎の継之助はちょっとイメージが違う。
あくまで私のイメージの問題であって、彼の芝居が悪いわけでは決してないのであるが、個人的には、これより前にテレビ朝日で1999年の年末に放送された「最後のサムライ河井継之助」(ドラマとスタジオトークが交互の進行する歴史教養バラエティ)のドラマパートで、継之助を演じていた阿部寛の方がはまっていた印象がある(笑)。
ちなみに、2020年5月現在、日本テレビが最後に放送した時代劇である(再放送等は除く)。
なお、本作はDVDがリリースされており、現在も視聴が容易である。
・2024年2月22日追記
河井継之助を主人公にした文学作品としては、司馬遼太郎の長編『峠』が最も著名であろう(と言うか、この小説によって継之助の名が広く知られるようになったと言える)。
この『峠』を初めて正面から映像化した作品が、2022年6月に公開された映画「峠・最後のサムライ」(監督・脚本は小泉堯史)である。
公開から一年以上経ってから見る機会があったので、本編と同じ主人公を扱った作品として、追記の形で簡単に感想などを書いておく。
作品の上映時間は二時間弱ほどであり、最初これを聞いた時は、あの長編をどうやってそんな短時間でまとめられるのだと思ったが、いざ見てみると前半をばっさり切って北越戦争にポイントを絞って描いたために、よくあるダイジェスト的作品にはなっておらず、その点は好印象であった。
ただその反面、当時の政治状況や長岡藩、あるいは河井継之助に対する説明がほとんどないまま話が進むため、原作を読んでいない人に対しては不親切な印象が否めない(とは言え、物語がいきなり北越戦争直前から始まるため、それまでの状況をナレーションで説明していると、それはそれで冗長になるだろうからそのあたり塩梅が難しい所である)。
前述のようにポイントを絞ったお陰で、原作のダイジェスト的な展開ではないものの、司馬遼の原作は、若い頃の継之助の行動から全部ひっくるめて最後に帰結するようになっているから、前半をばっさり切ったことで何だかわからないまま終わってしまった感がなきにしもあらずであった(前半部分が描かれないと、何故継之助が武装中立にこだわったり、新政府軍と戦う道を選択したのかがよくわからない)。
継之助を演じたのは役所広司で、キャラクタ的にはそれなりにはまっていると思うが、いかんせん継之助にしては年を取りすぎで、そのあたりはちょっと違和感があった。
監督に役所広司を起用したい意図があったのかも知れないが、ここは素直に四十代くらいの俳優を起用した方が良かったんじゃないかなと個人的には思ったりする。
後、この手の時代劇映画にして珍しく、登場人物に紹介テロップがつかない所に持ってきて、長岡藩の人物は一般にはマイナーなため、今誰と誰が会話しているのかが、どうもつかみにくい印象があった(名前を呼び合うシーンもないから、川島億次郎役の榎木孝明が誰役なのかが最後までわからなかったり 笑)。
また、どう言う意図かは不明であるが、継之助をはじめ長岡藩の高位の武士が皆月代を剃っていない総髪髷であったり(藩主や冒頭に登場する徳川慶喜ですら総髪。継之助や慶喜は月代を剃っている写真も現存している)、新政府軍の兵士の格好が、ドラマでよく登場する陣笠に段袋ではなく、日中戦争・太平洋戦争時の日本軍兵士のような出で立ちだったのは、ちょっとヘンテコな印象を受けた(兵士の格好については私も詳しい知識があるわけではないので、本作で描かれる格好がおかしいかどうかは自信がないのだが、戊辰戦争を題材にした錦絵や写真などでは、陣笠・段袋が一般的であるように思う)。
なお、総集編しか現存していないが、1977年のNHK大河ドラマ「花神」は、司馬遼太郎の同名小説が原作で、大村益次郎が主人公であるが、終盤において河井継之助が重要人物として登場しており、『峠』も原作の一部としてクレジットされている(「正面から映像化した作品としては初」と前述したのはこのため)。
この作品で継之助を演じているのは、若かりし頃の髙橋英樹であるが、総集編を見る限り、結構原作のイメージにはまっている。
余談ではあるが、髙橋英樹と役所広司はテレビ朝日で七シリーズにわたって放送された時代劇「三匹が斬る」(「続・時代劇レヴュー㉘」参照)では、好対照なキャラクタを演じているが、この継之助以外にも、宮本武蔵・織田信長・堀部安兵衛(髙橋英樹が演じたのは中山安兵衛時代のエピソードであるが)と言うように、結構共通する役を演じている。
#時代劇 #歴史ドラマ #日本テレビ #河井継之助 #駆け抜けた蒼龍 #中村勘三郎 #幕末 #北越戦争 #峠 #司馬遼太郎 #役所広司 #髙橋英樹 #歴史 #日本史