時代劇レヴュー㉜:勝海舟(1990年)

タイトル:勝海舟

放送時期:1990年12月30日、31日

放送局など:日本テレビ

主演(役名):第一部、エピローグ・田村正和(勝海舟)

       第二部・田村亮(勝海舟)

原作・脚本:杉山義法


かつて日本テレビが毎年年末に放送していた年末時代劇スペシャルの第六弾で、タイトルが示す通り勝海舟の生涯を描いた作品である。

この作品がシリーズ中で異色なのは、前後編+エピローグと言う構成のうち、第一部とエピローグは田村正和が、第二部は田村亮が海舟役を務めると言うように、途中で主役が変わっていることである。

これは田村正和が撮影中に病気になって降板したことで、山岡鉄舟役で出演予定であった実弟の田村亮が急遽海舟役に「昇格」したためであり(山岡役は勝野洋に交代)、期せずして兄弟のダブル主演になり、また海舟の父・勝小吉役で田村高廣も出演しているために三兄弟揃い踏みの出演となった(ちなみに、田村兄弟の異母弟である水上保広も新見正興役で出演している)。

ドラマの内容は、第一部は大政奉還の直前まで、第二部が坂本龍馬暗殺から始まって江戸開城を経て明治期の諸々から海舟の死まで描いている。

「海舟座談」の編者である巌本善治(演・堤大二郎)が晩年の海舟から話を聞くと言う形式で話が進み、エピローグで再び晩年に戻って海舟の死が描かれると言う構成である。

本作品は、私が同シリーズの中で最初にリアルタイムで見た作品であるが、初見の印象は晩年の話が異様に長いと言うもので、江戸開城以降は話に見せ場がなくなって、海舟の「その後」がだらだらと時系列順に消化されていくだけであまり面白みがあるように感じられなかった。

かつ、後半に取り上げられるトピックは、かつて海舟とともにアメリカに渡り、幕府海軍の栄光の象徴であった咸臨丸が新政府軍によって沈められる話だったり、盟友である西郷隆盛の死だったり、長男の小鹿に先立たれる話だったり、民子夫人との確執だったりと、暗い話が中心(もっともこれは、このシリーズに共通する展開であるが)なので、何となくうんざりしてしまう。

とは言え、後日改めて見直した時には、別段物語としては過不足ない印象であり、一応エピローグまで行ってようやく回収出来る伏線と言うのもあったので、あくまで題材が「暗い」だけであってそこまで悪い構成ではないのかも知れない。

もっとも、それでもやはり明治以降の話が妙に体感的に長いと言うか、実際には第二部全体の三分の一くらいなのであるが、見ている時の印象だと半分くらいが「その後」の話のように感じられ、やや冗長な印象はなおもあった。

ただ、流石に脚本が杉山義法なだけあって、前述のように内容は悪くないので、海舟の最晩年まで描かずにどこか適当な所で話を収めた方が綺麗だったのでないかとも思うが、終盤に徳川慶喜(演・津川雅彦)との確執を回収するエピソードが入るため、このあたりはなかなか評価が難しい。

このシリーズにしては珍しく、主人公の海舟のキャラクタが人間くさくて欠点も目立つ人物に描かれているので、そう言う意味でも晩年の痛々しい姿を描く必要性があったのかも知れない。

このシリーズの他の作品同様、細かい点で史実との相違がいくつかあり、一つ挙げれば、序盤で登場する『ドゥーフ・ハルマ』のエピソードが微妙に史実と違っていて、渋田利右衛門(演・森繁久彌)が海舟を支援したことは事実であるが、海舟が『ドゥーフ・ハルマ』を借りたのは赤城玄意である(なお、渋田は終盤でも登場するが、史実では彼は海舟と出会ってまもなく死去している)。

後、海舟が山岡鉄舟に向かって柳生宗矩のことを語るシーンがあるが、この宗矩の例えをわざわざ海舟に言わせたのは、宗矩が好きと言う脚本の杉山の趣味じゃないかと思ったりもする。

配役について少し言及すれば、主演の田村兄弟の「べらんめえ口調」が意外とはまっていて、シリーズ中では最もコミカル要素の多い脚本と言うこともあって、特に田村正和の演技はくすっとする描写も多い。

海舟周辺の人物では、小栗忠順役の風間杜夫が頭は切れて先見の明があるが融通がきかない忠順を好演していて、彼の悲劇的最後もしっかりと魅せている。

なお、この作品も前年の「奇兵隊」同様、直後に1991年1月2日に放送された「寛永風雲録」に里見浩太朗が出演したために、同シリーズの常連であった里見が出演していない(ちなみに、前述の風間杜夫は両作品に出演している)。

また、これは作品や俳優の評価とは全く関係ないが、それまで豪華キャストを揃えていた印象のある同シリーズの中ではだいぶ「控えめ」(婉曲表現)なキャストである。


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