【世界史教科書比較】山川詳説vs新世界史
ながらく"定番"と目されていた山川出版社の詳説世界史と、のびのびとした ”攻める” 記述で知られる新世界史(採択数は少ない)の記述を、今回は索引の異同に注目して比較します。
参考にしたのは新世界史は見本(2022年検定済)と詳説世界史は2023年刊(2022年検定済)の索引。
「王の道」のように、索引にはないが本文には掲載されているものもあるが、すべてに目を通しているわけではないので、おおよその傾向として参考にしてください。
新世界史の特徴
初めに特徴を箇条書きにしておく。
方針は帝国書院の特徴に似る。
用語削減については1mmも案じていない。
2010年代以降の時事的動向も積極的に掲載されている。が、戦後史の叙述はあっさりめ。
バイデン
オレンジ革命
なぜそれが再録されているのか意図がわかれば、たしかにあったほうがよさそうと思えるような語句がちゃんと再録されている。が、この善意が暗記地獄への道を舗装するのだ、ともいえる用語たち。
アシュケナジム
英語教育
兄弟団
クレオール
コジモ=デ=メディチ
メシュエン条約
ムガル帝国、オスマン帝国はムガル朝、オスマン朝の表記。
中世ヨーロッパ史への研究動向の反映が充実し、概説書的で攻めた内容となっている(おそらく千葉敏之氏によるもの。ピカイチでは)。
モンゴル関係は、現地誤表記にこだわらない(「ウルス」を併記せず)。
詳説は西洋史・中国史(とくに両者の文化史)関係を軒並み削減したが、新世界史はそれに後ろ向きである。
近年の研究動向を反映した表記が多い
13植民地 → 13のアメリカ邦連合
慣例表記に従わないものがある。
ストラボンの『地理誌』→『地理書』
国立作業場 → 社会作業場
チェック人 → チェコ人
詳説世界史で定着した叙述とは異なる視点から用語を再録する(あるいは再録しない)箇所も目立つ。
パリ条約(1814年)
「雪どけ」 → 掲載せず
現地語読みを重視
ワールシュタットの戦い → ヴァールシュタット(レグニツァ)の戦い
ノルマンディー公ウィリアム → ギヨーム
アケメネス朝 → アカイメネス(アケメネス)朝
ビザンツ帝国、ロシアなど東欧スラヴ圏の用語が厚い。
グラゴール文字
ゲルツェン
チェルヌイシェフスキー
ネフスキー
バシレイオス2世
オセアニア史、アフリカ史を気にかけている。
サフル大陸
クック
マプングプエ(これは単に細かいのでは)
通例はハイレベルと見なされる用語は、それを再録する文脈を付した上で積極的に採用する。とくにコラム(内容は高尚)で使用される語句は、かなりアカデミック。
コンラート3世、ベルナルドゥス → 第2回十字軍参戦と平行して、モナルキア(君主国)の強化が進行していた点にふれる。
フリーメーソン → 結社・クラブの社会的紐帯という観点から。
ムハンマド常勝軍 → オスマン帝国の近代化の文脈から。
アマーヌッラー=ハーン → 中央アジアのグレート・ゲーム。
けっこうキワキワで細かいものもある(思想系が目立つ)が、ミマール・シナンとか難関私大向けには。
アルベール → 二月共和政に参画した労働者。
シナン
ボエティウス『哲学の慰め』
『倫理論集』
日本史関連の用語は特徴的なものを除いて少ない。
宮崎滔天
概念用語は多くはないが、近現代では積極的に使用も。歴史総合と親和性あり。
公論
文明化の使命
白人の責務
社会ダーウィン主義
アメリカ的生活様式
文明の衝突
エネルギー革命
破綻国家
その他雑感
旧版の「古代」「中世」「近世」「近代」「現代」の端正な構成と、筋の通った論理のほうが好きだった。
「用語の細かさ」に目くじらを立てるのではなく、重厚で自由な叙述で、世界史的な見方の余地をいかにひろげられるか、これをベースに授業を組み立てられるか、が賭けられていると考えたほうがよい。結局詳説にはあるが、新世界史で抜けている語句もあるので、「新世界史はなんでも載っている」と考えないほうがよい。
イタリア=ルネサンスを中世末期に配置し、北方ルネサンスを近世に置いている。
詳説索引にはあるが、こちらの索引にない語句の例(本文にはある可能性あり。余裕あればまとめます)。西アジアなど、結構消えている項目はある。西洋史を抑えようという感じはまったくない。
アカデミー=フランセーズ
アメリカ労働総同盟
衛氏朝鮮
ABCD包囲網
王の道
カーリミー商人
教案
形勢戸
卿・大夫・士
経典の民
源氏物語
ゲルニカ
憲政改革調査委員会 ほか
詳説世界史にはなく新世界史にはある用語
表記法に特色のあるものも含めました。
あ
アイグン条約
アウン=サン
アカイメネス(アケメネス)朝
現地語表記
赤シャツ隊
アカプルコ
アサド
アジア=ヨーロッパ会合(ASEM)
アジャンター石窟寺院
アシュケナジム
アズハル=モスク
アタナシウス(説)
アダムズ
アッパー=カナダ
ロウワー=カナダはない。
アブドゥフ
アマーヌッラー=ハーン
アメリカ的生活様式
アラゴン連合王国
アルベール
アレクサンドル=ネフスキー→ネフスキー
安徽派
暗黒の木曜日
アンゴラ内戦
アンダルス
「15世紀まで存続するアンダルス(イスラーム統治下のスペイン)」と表記。アンダルスのムスリム商人が積極的に地中海交易に参加していたことを明示する(128頁)。
アントニヌス勅令
イギリス病
イギリス連邦
イギリス連邦経済会議(オタワ連邦会議)
イコノクラスム→聖像破壊運動
イスラエル建国
イスラーム原理主義
イスラーム神秘主義者→スーフィー
イソクラテス
一国社会主義論
移動通信システム
イドリーシー
イドリース朝
委任統治領
犬養毅
イブン=アブドゥル=ワッハーブ
イムニテート→不輸不入権
インド航路
ヴァザーリ
ヴァールシュタット(レグニツァ)の戦い
ウォード
ヴォルムス帝国議会
烏孫
雲南
英語教育
英独海軍協定
衛満
エジプト共和国
エジプト人
エドワード1世
エネルギー革命
エリトリア内戦
延安
燕王
オゴタイ
※表記について。オゴデイではない
オスマン語
オスマン朝
オットー2世
オットー3世
オレーグ
オレンジ革命
温家宝
か
カイドゥの乱
※表記について。これはハではなくカ
解放の神学
価格革命
詳説では、価格革命は「ヨーロッパ人の海洋進出」では説明されず、「産業革命」の項目に異動した。その原因は、黒死病後の人口回復に新大陸銀の流入による「物価上昇も加わり」、物価が上昇したという説明。註で小さく「16世紀の急激な価格上昇は「価格革命」と呼ばれることもある」と説明される。
新世界史では、「ヨーロッパ人の海洋進出」の項目の側註に、「この(新大陸銀の流入)ためもあって、16世紀のヨーロッパでは銀の総量が増えて物価が大きく上がり、価格革命と呼ばれる現象がおこった」とあり、人口についての記載はない。
カップ
カーディー
ガーナ独立
カフカス
広東
カンネーの戦い
キエフ公国(キエフ=ルーシ)
キエフ=ルーシも併記
議会(パーラメント)
パーラメントも併記
議会王政
キッシンジャー
キャフタ条約
キャメロン
キャラヴァン=サライ
キャンプ=デーヴィッド合意
球戯場の誓い
九・三〇事件
キュリロス
ギュルハネ勅令
『狂人日記』
ギュルハネ勅令
『狂人日記』
兄弟団
銀山
欽宗
『金瓶梅』
金本位制
クセルクセス1世
クック
グーツヘルシャフト→農場領主制
クヌーズ(カヌート)
クヌートではなくクヌーズと表記
グラゴール文字
グラティアヌス教令集
クリュニー改革運動
クリントン(ヒラリー)
クリントン(ビル)
クレオール
クレマンソー
クローン技術
軍閥
啓蒙
遣隋使
現生人類
公論
五月革命
五カ年計画(中国)
詳説はソ連だけ
コーカンド=ハン国
国王巡察使
国民主権
コジモ=デ=メディチ
呉佩孚
コラソン=アキノ
コンツェルン
コンラート3世
さ
サファヴィー教団
サフル大陸
サルゴン1世
ザンジバル
サン=シモン主義
サン=シモンではなく〜主義を採録
山水画
シェリング
理性とは違った方法での世界把握を目指した観念論を丁寧に本文で説明。
ジギスムント
『四庫全書』
持続可能な開発目標(SDG's)
アポストロフィーがついてる
シナン
ジハード(聖戦)
社会作業場
社会ダーウィン主義
ジャクソニアン=デモクラシー
シャーマン反トラスト法
謝霊運
宗教協約(コンコルダ)
コンコルダートではない
13のアメリカ邦連合
自由州
重農主義
粛清
手工業ギルド(同業組合)
ジュネーヴ軍縮会議
ジュネーヴ4巨頭会談
常備軍(オスマン)
植民地主義
初等教育法
ジョフラン夫人
ジョンソン=サーリーフ
スカンディナヴィア
スコット人
スコットランド国教会
スティムソン
スパルタクス蜂起
スポイルズ=システム→猟官制
聖職者市民法
靖難の役
聖パトリック
聖ベルナール→ベルナルドゥス
ゼムストヴォ
宣教師殺害事件
銭大昕
1791, 93, 95年憲法
全琫準
戦略防衛構想(SDI)
宋(南朝)
走資派
曹操
曹丕
三国志ファンは『新世界史』へ。
俗語
『俗語論』
コラム内で使用。ダンテ著。
外モンゴル
ソルジェニーツィン
ソ連型モデル
世界恐慌後に注目されたソ連の経済体制を指す。
孫権
た
大英帝国
大改革
大義名分論
大恐怖
フランス革命
大航海時代
大西洋革命
大祚栄
大不況
第二戦線
太武帝
タタールの軛
表記:軛に漢字を使用。
ダマンスキー(珍宝島)事件
ダルフール紛争
タレース
表記:これは長母音
チェコ人
チェック人。これはよい変更(チェコ/チェック/ベーメン(ボヘミア)は学習者の混乱を招く)。
チェルヌイシェフスキー
治外法権 →領事裁判権
知行合一
チューリップ革命
チョイバルサン
張択端
『地理書』
ストラボン。『地理誌』とすることが多い。
陳(南朝)
ディアス(ポルフィリオ)
バルトロメイと区別。
定期市
鄭芝龍
低地地方
ティルジット条約
デヴシルメ
『哲学の慰め』
テーバイ
表記:テーベ(エジプト)と区別。
しかし「アテネ」はアテネのままである。
デュナン
テュランノス→僭主
表記:原語も併記
纏足
天朝田畝制度
天文学
「ドイツ国民に告ぐ」
ドイツ社会民主党
ドイツ連邦憲法案
統領政府
詳説は投了「体制」
独立社会民主党
都市
トマス=マン
詳説は「トーマス」
ドミニクス
ドミニコ会の祖。
ドーラヴィーラ
トラスト
ドロイゼン
ヘレニズム概念の提唱者
な
ナイティンゲール
詳説では消えていたのでした!
ナヴァリノの海戦
南米南部共同市場(MERCOSUR)
南洋華僑
ニカイア帝国
ニネヴェ
『人間不平等起源論』
ネフスキー
農場領主制(グーツヘルシャフト)
ノビレス
ノルマンディー公ギヨーム
表記:ウィリアムではない
ノルマンディー公領
表記:公国ではない
は
バイエルン
バイデン
ハイドン
バイロン
ハインリヒ1世
パグウォッシュ会議
白人の義務
ハーシム家
バシレイオス2世
パステルナーク
破綻国家
ハノーファー(朝)
表記:ヴァーではない
バブーフ
ハマース
バラ革命
ハーラル王
パリ条約(1814年)
ナポレオン廃位にともなう和平条約
ハル
バルセロナ伯領
ハル=ノート
パレスチナ=アラブの大反乱
反アパルトヘイト運動
バンツー系
反ユダヤ主義
ヒヴァ=ハン国
飛銭
ヒッピアス
ヒューム
ビン=ラーディン
ファサード
フィチーノ
フィヒテ
フイヤン派
フィラデルフィア会議
フィルドゥーシー
ブヴィーヌの戦い
封じ込め政策
フェルビースト
フェルメール
フス派
武則天(則天武后)
福建
ブハラ=ハン国
プラトン=アカデミー
プラハ大学
フランツ=リスト→リスト
フーリエ
ブリタニア
ブリックス(BRICs)
フリードリヒ1世
フリードリヒ2世(神聖ローマ帝国)
詳説はプロイセンのほうは採録。
フリードリヒ=ヴィルヘルム1世
ブリトン人
フリーメイソン
ブリュメール18日のクーデタ
ブルジョワジー
ブレジネフ=ドクトリン
文明化の使命
文明の衝突
ヘイスティングズの戦い
ベッセマー法
ベルナルドゥス(聖ベルナール)
『変身物語』
包括的核実験禁止条約(CTBT)
北元
保護関税
アメリカ合衆国に関する語句。
保護関税法
ビスマルクに関する語句。帝国でも採録。
保護領
北方ルネサンス
ボードレール
ポーランド独立運動
ホルシュタイン
ま
マイノリティ→エスニック=マイノリティ
マクシミリアン
マケドニア朝
ビザンツ帝国の最盛期
マタラム王国
古マタラム王国(詳説では「マタラム朝」)は不記載
マッカーサー
マティス
マデロ
マプングプエ
12〜13世紀のザンベジ川流域で栄えた。崩壊後、モノモタパ王国が成立。
マレー=ポリネシア系
マンスール
ミドルクラス
詳説では中産層
身分制社会
宮崎滔天
ミレトス
民主主義の兵器廠
民法典
ムハンマド常勝軍
メアリ1世
メイ
BRICs離脱。
名望家
メキシコ出兵
メシュエン条約
(1703)ポルトガルとイギリスの通商条約。ポルトガルはイギリスの従属下へ…。
や
夜警国家
耶律大石
楊貴妃
ら
ラガシュ
ラクスマン
ラダイト運動
ラマルティーヌ
リテラシー→読み書き能力
リトアニア大公国
リービヒ
竜門
劉裕
リュクサンブール委員会
林邑
『倫理論集』
ルイ7世
ルイ15世
ルッジェーロ2世
ルートヴィヒ(ルイ)2世
レウクトラの戦い
『歴史』
歴史叙述
『歴史序説』
連合規約
六月事件
ロシア=トルコ(露土)戦争
1806〜12
1828〜29
1877〜78
それぞれ分けて項目立て。
ロベール=ギスカール
『ローマ建国以来の歴史』→『ローマ史』
ロンドン軍縮会議(1930年)
ロンバルディア=ヴェネト王国
わ
ワスプ(WASP)
ワッハーブ運動
ワヤン=クリ
ワラキア
略語
GAFA(GAFAM)
LGBTQ
詳説はLGBT
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