「汚点」付きの挑戦者の台頭と情動政治化
2024年は選挙の年だった。中でも、秋に行われたアメリカ大統領選挙と兵庫県知事選はパラレルな関係にあったように感じる。トランプ氏・斉藤氏は両者とも言わば「汚点」付きの候補者であり、その「汚点」がむしろ挑戦者としての彼らの魅力を強化したのである。「汚点」とは、それぞれ県職員へのパワハラ疑惑や議会襲撃における煽動罪などのことである。
トランプ氏・斉藤氏および彼らの支持者たちは、特に既成権力や既得権益との敵対を強調した。「汚点」付きの候補者は、そ既成権力や既得権益に対抗する存在としてイメージされた。そのイメージを通じて有権者は「汚点」に同情し、さらには同一化する傾向を見せた。SNS時代において、こうした情動に基づく支持は「即時報酬」の追求と深く結びついている。
佐藤卓己氏が指摘する「情動社会」の「ファスト政治」においては、合理的な議論や長期的視野が排され、断片的な印象や感情が政治判断を支配する。
こうした政治社会の加速化と断片化により、「推し活」のような行動様式が投票行動に現れ、選挙は短期的な快楽主義へと変容する。民主主義の本質である熟慮や時間を要する討議は軽視され、SNSが生む分断や偽情報によって「推し」と「バッシング」が混在する政治空間が形成された。
民主主義が煩雑な手続きと時間を必要とする以上、この「ファスト政治」の流れが続けば、社会の分断と政治不信が一層深刻化する恐れがある。その解決には、短期的な感情に左右されず、長期的な視野と忍耐をもって政治に向き合う姿勢が求められる。