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記事一覧

【短編小説】壊れた傘で雨宿りをして

 ぼくは水溜りを避けながら家路を急いでいた。  ちらちらと視界に入るビニール傘の骨がわず…

瀬島春
3か月前
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【小説】もうすぐ、誕生日が終わる

「かち、かち、かち」   先ほどから、里中明美は時計の秒数が増えるごとに、ひとり声になら…

瀬島春
2年前
6

【小説】3回目のデート

 やばい、選曲ミスったかもしれない。  正志はマイクに向かって声を張り、画面に流れる歌詞…

瀬島春
2年前
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盛大な拍手の中

 桜の見頃も終わり、ようやく、ぐずぐずと残っていた冬の寒さが過ぎ去った四月の半ば。盛大な…

瀬島春
3年前
3

水族館の花形

イルカの水槽の前には人集りができていた。ぐるぐると元気よく泳ぐ二匹のイルカが近くを優雅に…

瀬島春
3年前
1

スズランを君に

駅前に新しい花屋ができているのを目ざとく見つけると、カナは繋いでいた手を解き、はしゃいで…

瀬島春
3年前
1

人目につかない場所に咲いた、あの花は

美しい花をみかけた、と彼は言った。 「そうかい、どこかの植物園にでも行ったのかい?」 「いいや」 「花畑にでも行ったのかい?」 「いいや」 「それなら、公園にでも行ったのかい?」 「いいや、それも違う」 「いったいどこで、その美しい花をみかけたというんだい?」 「崖さ」 「崖?」 「そう、切り立った崖を、覗き込んだのさ、おそるおそる」 「おそるおそる」 「足元に、花が咲いてた、一輪の花が」 「そうかい」 「それは、美しかった。白に淡い青が散っていた。一輪で、堂々と、花びらを

新宿駅東口改札前に7時

金曜日の十九時、新宿駅東口改札前は、多くの人でごった返している。 仕事帰り、誰かに追われ…

瀬島春
3年前
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ワシは偉い

部長はいつもの少し大きめのスーツを着込み、のそのそと、その体の大きさにふさわしい振る舞い…

瀬島春
3年前
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はみ出した、赤い線

 塗り絵がある。  決められた線の中を、あるいは既に描かれた絵の中を、さまざまな色で塗っ…

瀬島春
3年前
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