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 …あまり強い言葉を遣うなよ。強く見えるぞ。

 本屋に必ずといっていいほど、設置されている区画がある。それはビジネス書のコーナーだ。  しかも、最近は新刊コーナーのすぐ隣にかなりのスペースがあったりする。やはり世間の関心がそれだけ高いということなのだろう。 『成功したければ、〇〇をしろ!』 『失敗しない仕事術!』 『最大化せよ!』  脳を揺さぶるような大きな見出しが並ぶ。  これは完全にぼく個人の勝手なイメージでしかないのだけど、こういう強い言葉を聞くと学校の教室を思い浮かべる。  中学、いや高校かもしれない。前方には

    • 趣味・特技ですか?そうですね、迷子(人生)、ですかね

       いやぁ、まいった。いや、まいった。  これはあれだ。うん、完全にあれだ。  そうだ、あれだ。迷子だ。迷子。  うん、そうだ迷子だよこれ。いやはや、まいったね、こりゃ。  ぼくは6月特有の湿気で肌がべたつく感覚に顔をしかめて、むぎゅ、むぎゅ、と間抜けな音をたてる自転車を押しながら歩いていた。  うわぁ、どこだここ。  周囲に広がるのは、どこにでもあるような住宅街の風景。しかし、どこにでもあるような風景だからこそ、ぼくは方向感覚を失い、自分がいまどこにいるのかさえ見失って

      • 【短編小説】壊れた傘で雨宿りをして

         ぼくは水溜りを避けながら家路を急いでいた。  ちらちらと視界に入るビニール傘の骨がわずらわしい。しとしと降る雨を遮っているそのビニール傘の骨は一本折れていて、不恰好に一部がへしゃげている。  ついてないな。  ぼくはどんよりと広がる雨空をちらりと見上げて足を早めた。  しばらくして、押しボタン式の信号機が設置された横断歩道にさしかかった。この横断歩道は近所でも有数のイライラスポットだ。とにかく信号が変わるまでが長い。朝の通勤ラッシュ時なんかは、永遠に信号待ちする通行人の前

        • 能動的ひきこもり

           久しぶりに街の中心部のほうに出かけると、いつも思うことがある。  それは、“人、多っ!”ってことだ。  ぼくは基本的に家にいて、仕事以外だと出かけるにしても公園とか川沿いとか、人のいない方いない方に行くか、あるいは近所の焼き鳥屋さん、友達と飲むときでさえ繁華街を少し外れた飲み屋に行くくらい。  そんな感じで生活しているので、百貨店とかキラキラしたショップが多く並ぶ街中にはあまり行くことはないのだけど、たまに出向くと人の多さに圧倒されてしまう。    今日はちょっと用事があ

         …あまり強い言葉を遣うなよ。強く見えるぞ。

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        • エッセイ
          19本
        • 物語
          10本
        • 日常会話
          25本

        記事

           心が傷ついて疲れた日は、思いっきり泣いて、夜中に牛丼を食べて

           ふと思い立って、収納の中身を断捨離していたら、昔のノートがでてきた。ぼくは毎日ではなく気まぐれではあるが、思ったことやその日の出来事をノートに書くことがある。まぁ要するに日記のようなものだ。日記、といっても誰に見せるでもない、なんなら自分でも読めないほどの殴り書きなので果たして日記とよんでもいいのかは、はなはだ疑問ではあるのだが。  まぁとにかく、ぼくはその“日記”をみつけ、そして誰もが一度は体験したことがあるであろう、勉強を始めようとしたら机の周りが気になって、掃除をは

           心が傷ついて疲れた日は、思いっきり泣いて、夜中に牛丼を食べて

          昨日と今日と、それから明日。

           フェリーの窓からは、それはそれは美しい水平線が見えた。窓から下を覗き込むと、ゴーという音と共にフェリーのボディが白いしぶきで海を切り裂いて進む様子がみてとれ、そして遠くに目をやると、そこに美しい水平線があるのだった。  雲の混じった白みがかった空と、少し鈍く黒みがかった海と。そのふたつは綺麗に世界をふたつに分かち、堂々とした様子で一面に広がっていた。  その日、ぼくはめずらしく普段よりも朝早く起きたので、少し足を伸ばして海の近くまでやってきていた。特に目的もなくプラプラと

          昨日と今日と、それから明日。

          あのね、

           昼の1時半。6月とは思えないほどの暑さだった。  今年は梅雨入りが遅く、雨の気配はまるで感じられなかった。  日課の散歩にでかけようと、外に出てみたはいいものの、5分も歩けばじっとりと首筋に汗が滲んだ。  いつもなら、ゆっくりと近所を練り歩き、大きめの公園を一周するところだが、今日は断念した。まるで夏本番のやる気をみせる太陽から逃げるように家に逃げ帰った。  夜。日が長くなってきたとはいえ、さすがに19時半にもなると夜の気配がしてくる。ぼくは昼にできなかったぶんを取り戻す

          あのね、

          あなたは、そのままでいいんだよ

          世の中は厳しすぎる。 と、ときどき思う。 すぐに批判する人がいて、すぐに怒る人がいて、すぐに笑う人がいて、すぐにバカにする人がいる。 頑張っても頑張っても、まだまだ、まだまだ、と何かに追い立てられる。 周りを見渡せばみんな頑張っている。 みんな自分なりに苦しんで、悩んで、戦って、そうして頑張っている。 なのに、聞こえてくる声は厳しいものばかり。 「そんなのは頑張っているとはいわない」 「甘えてるだけだ」 「みんなやっていることだ」 だから頑張る、もっと頑張る。 そ

          あなたは、そのままでいいんだよ

          好き嫌い好き

          この前読んだ本が個人的にあまり面白くなかった。 それは海外の小説を日本語に訳したものだったのだけれど、わかりにくくてイマイチ頭に入ってこなかった。 だけど、その本は小説として世界的に絶賛されている本だ。 たくさんの人が素晴らしいと認め、高い評価を受けている本だ。 逆のパターンもある。 自分がすごく面白いと思った小説があった。 しかし、世間的にはそれは酷評を受けていた。 そんなときに「ふーん」と思えればいいのだけれど、なかなかそうもいかない。 ぼくは、心のどこかで「自分

          好き嫌い好き

          雨が降れば傘をさして、疲れたら雨宿りをして

          雨。 じめじめするし、カビの心配が増えるし、洗濯物は外に干せなくなるし、自転車には乗れなくなるし、髪の毛は爆発するし、靴の中にまで水が染みる。道は混むし、電車やバスが混むこともある。 これから梅雨の季節だから、そういった日々が続くだろう。 でも、ぼくは雨の日が割と好きだ。 雨がアスファルトを叩く音。車が通るときに水を跳ねる音。傘を叩く音。 雨に濡れる花。地面に張り付いた落ち葉。電線から落ちる水滴。 傘をさして歩く人。水たまりにはしゃぐ子供たち。普段より静かな町。それから

          雨が降れば傘をさして、疲れたら雨宿りをして

          自分の意見を自分で否定して。自分の心を自分で否定して。

          ぼくは文章を書くのが好きだ。 ある日、思いついたことがあり、その気分のまま勢いにのって、ひとつの文章を書き上げた。 そうして、できあがった文章は誤字脱字もあり、表現も拙い部分ある荒削りの文章であった。 しかし、ぼくは満足感を感じた。自分の意見をまっすぐにその文章に載せて書いたことを誇らしく思った。 少し時間を置いてその文章を自分で読み返してみる。 ここはこう書いた方がいいな、ここはこの表現の方がいいな。 そうやって少しずつ修正をしていく。 しかし、そのうちこのような考えが

          自分の意見を自分で否定して。自分の心を自分で否定して。

          ゲームの中ですら先のことばかり考えて今を楽しめない人生なんて

           ぼくはゲームが好きだ。  RPG、いわゆるロールプレイングゲームなんかは特に好きで、新しい発見があったり、仲間が増えたり、主人公のレベルが上がったり、レアなアイテムが手に入ったり、とても楽しい。  最近のゲームはボリュームもあり、世界観やキャラクターの作り込みが凄いこともあって、とにかく没入感が高いものが多い。  ゲームの世界を実際に冒険しているような体験ができる。  主人公を操作するぼくは、その世界で謎を解き明かすべく、あるいは世界を救うべく日々敵と戦いを繰り広げる。

          ゲームの中ですら先のことばかり考えて今を楽しめない人生なんて

          だから今日もぼくはノロノロと下を向いて歩く

           散歩をしているぼくの前をスーツをビシッと着こなした男性が歩いている。年齢は30代後半くらいだろうか。少し日焼けした肌に、刈り上げた襟足、ワックスで濡れたようにもみえる髪の毛にはパーマがあてられている。身につけているスーツや手に握られている鞄は高級そうにみえる。  彼はスマホを耳に当て、誰かと話しながら前をしっかりと見据え、胸を張り一歩一歩力強く進んでいく。  それに対しぼくは、少し寝癖のついたままの頭、寝る時にも履いていたスウェットパンツに首元の伸びたTシャツという格好で

          だから今日もぼくはノロノロと下を向いて歩く

          誰とも話さないでも楽しめるのは才能だ

           こんなことを言われたことがあります。 「もっと外に出て、人と会って話したほうがいいよ」  ぼくは「なるほどな」と思いました。  ぼくにそう言った、その人は、パワフルで活動的でとても魅力的な人です。  その人は会社などで普段会う人とはまた別に、約束をとりつけて毎日誰かと必ず会うことを自分の中でルールにしているそうです。  飲み会の誘いがあれば、基本的に断らずに出向くことにしているそうです。  ぼくは、やっぱり「なるほどな」って、そう思いました。  だから、そのアドバ

          誰とも話さないでも楽しめるのは才能だ

          【日常会話】特別な普通の一日

          「よし、じゃあ二軒目いこうか」 「いや、俺明日早いし今日はもう帰るわ」 「え?」 「悪いな、また今度」 「え? ……なんで?」 「だから明日仕事早いんだって」 「え? ……なんで?」 「日本語通じねぇのか」 「えーいいじゃん。もう一軒いこうよー」 「また今度、な」 「あ、まって。ほら唐揚げが一個残ってる」 「ん? ああ、そうだな」 「知ってる? これ関西では『遠慮のかたまり』って言うんだって」 「遠慮のかたまり?」 「そう。大皿とかで出てきた料理の

          【日常会話】特別な普通の一日

          【日常会話】どうせ分かってもらえないんでしょ?

          「ハッックション!! うぇぇい!!」 「おお、おお。派手にやってるねぇ」 「ああ……しんどいわ。ああ、もう!」 「きつそうやね。大丈夫?」 「大丈夫じゃねえよ! 鼻水は止まらないし、目は痒いし!」 「大変やねぇ」 「他人事かよ。お前にはどうせこの苦しみは分かんねぇよ! ったくよぉ!」 「うん……まぁ。俺は花粉症じゃないからなぁ。その辛さを分かってやることはできないけど……」 「そうだろ? この常に顔あたりにある不快感が分かんないだろ!? ハックション! うぇ…

          【日常会話】どうせ分かってもらえないんでしょ?