大きくて強くて正しいものと、それ以外
個人的な価値観の話をしたいと思う。たぶん、単なる好みの話。
ここでも何度か書いたけど、私をにわかバスケファンにしたのはご多分にもれず、去年のW杯男子バスケだ。
AKATSUKIJAPANの選手たちが海外やBリーグで活躍しているのを見ると、今も特別な感情が湧いてくる。この大会にリアルタイムで立ち会い、その後のBリーグやインターハイ観戦の入口にできたことは、バスケファンになるには間違いなく幸運だったのだろう。
W杯の記憶は今も鮮烈に残っている。ドライブからバスカンを決めてカメラの前で吠える河村、スリーを沈めて思わず飛び出したひえじのセレブレーション、悲願の1勝に顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくる馬場ちゃん。多くの人が幾度となく目にしたであろうハイライトの他にも、私にはずっと忘れられないシーンがある。フィンランド戦後のロッカールームで、いずれもプレータイムの短かかった西田、井上、川真田、原に迎えられた吉井裕鷹が『俺ら雑草魂!メインどころじゃないけど!』と叫びながら喜びあう様子だ。
https://youtu.be/CBgpnfmJ34w?si=wg0fi_T-qrzzqPYa
この日の吉井の働きは決してスタメンやポイントリーダーの選手たちに比べて見劣りするものではなかったと声を大にして言いたいところだが、代表でも泥臭い守備やスクリーンで引き立て役に徹し、またこれまで華々しいエリート街道を歩んできたわけではない彼の口から出る言葉として、これほど端的なセリフはないのではと思う。強烈なキャラ立ちと見掛け倒しではない献身的なプレーで存在感を放った川真田はともかく、日本人ビッグマンとしてほとんどプレータイムの無かった井上、3番手オプションのポイントガードで起用されたものの十分な結果の残せなかった西田も、インタビューで喜びの中に悔しさをにじませる言葉が印象的だった。どうも私は、輝かしいスター選手よりもその隣でチームを支える”脇役”たちのほうに気持ちを寄せてしまう傾向があるようだ。これはこれで決して褒められた態度ではないんだけど…。
地元ハンナリーズの開幕戦を見に行ったのは、W杯であれだけ盛り上がったバスケを現地観戦してみたいという気持ちが強かったものの、正直に白状すれば河村勇輝見たさからだったのは否定できない。脇役が好きだと言ってもやはりスターは気になる笑。レギュラー会員枠の販売開始時刻ぴったりに待機して、みるみるうちに消えていく席を(実際30分弱で完売してしまった。この開幕カード組んだ運営は先見の明があった!)必死で確保した。とりあえず地元チームのチケットを取ってはみたものの、首都圏や愛知周辺なら代表の選手がたくさん見られるのにと残念だった。ハンナリーズはビッグクラブと違ってネット上のコンテンツも充実しているとはいえず、ニワカの私にとっては知らない選手ばかりだ。唯一配信で試合を見たことがあるのは、前シーズン河村のチームメイトとしてビーコルでプレーしていたチャールズジャクソンくらい。試合前になんとか主要な選手の背番号と名前を覚えて試合に臨んだ。
開幕2連戦の初日は、ビーコルが手堅い試合運びで勝った。(そう、この時はまだ「ハンナリーズが負けた」のではなく「ビーコルが勝った」)スタンド席から見る河村勇輝はテレビで見るよりもさらに速くて双眼鏡で追いかけられずびっくりした。
ただこの日心に引っかかったまま消えなかったのは、日本中を熱狂させたスターを自分の目で拝めた満足感よりも、開幕戦で負けて肩を落とすハンナリーズの若い選手たちの姿だった。これが負けか。代表が負けるところは何度か放送で見たけど、この日はその時とも若干違う、なんだか”立ち会った”という表現がぴったりくる感じだった。帰り道で私は河村勇樹を見に来た自分を少しだけ後悔し、次はちゃんと彼らを応援して勝たせてやりたいと思い、次のホーム戦のチケットを取った。
その後もハンナリーズは開幕5連敗、1勝を挟んでまた6連敗と勝てない時期が続き、なかなか勝利の味を知れないまま、それでも私のバスケ熱はおさまるどころか、月2回ペースで会場に脚を運び、イラストを描き応援グッズを作りバスケ雑誌を読み、今やすっかり生活の中にBリーグが定着してしまった。毎週のように試合が続くとそわそわしてしんどいが、バイウィークに入って試合のない週末は逆に物足りないくらいだ。勝利の興奮は当然として、負ける悔しさも競り合いのドキドキもかなりの中毒性があることを知った。おまけにハンナリーズの場合は悲しいかな、勝率が低い分勝てた時の興奮はひとしおで、射幸心を煽られることによってますますのめり込んでしまっている気さえする。スポーツ観戦に耐性ゼロの生粋のインドア派の中年オタクには刺激が強すぎるかもなと思うが時すでに遅しだ。
さて、そんな刺激を求めて禁断症状が出そうなバイウィークのさなか、3月16日の天皇杯決勝戦をバスライで観戦した。数日前にEASLで優勝して凱旋した千葉ジェッツ対、8連勝中の琉球ゴールデンキングス。(いいなぁ8連勝、いや5連勝でもいい。いつか経験できるだろうか…。)1.5万人がつめかけたさいたまスーパーアリーナのきっちり半分を白と金で彩った沖縄ブースターたちが目にしたのはしかし、そうそう見られないような大差での敗北だった。それも、千葉は今シーズンリーグ戦の成績がやや低迷していることもあって、前評判では琉球有利だったらしい。どちらにも特に肩入れせずに視聴していた私でさえしんどくなるような展開だったので、キングスブースターの人たちは念願のタイトル獲得へ意気込んで来ただけにさぞ受け入れがたかったことだろう。何度も経験したハンナリーズのぼろ負けアウェーゲームの記憶が蘇って胸がギシギシと痛みましたよ私は。もっとも直近の試合では当の琉球にバチボコに(正しくバチボコに)やられたわけだけど。分かる、分かるよその気持ち。クーリーがベンチに控えててなおこんな負け方するなんてあるんだな。見れば見るほどバスケの勝敗って分からないです先生!
さてこの敗北を受けて翌日、キングスのホームページとSNSでクラブ代表のコメントがリリースされた。そこにはファンへの謝罪と残るリーグ戦へ向けた決意表明がつづられていて、琉球ほどのチームが、いや琉球だからこそこんなコメントを出さなければならないのかと私は軽くショックを覚えた。沖縄からはるばる埼玉までやってきたファンの期待に応えられなかったという申し訳なさと、タイトルマッチで大敗を喫したことを飲みこみきれないチャンピオンとしてのプライド。琉球のリーグでの立ち位置がさせる振る舞いのように感じたし、負けたときにファンをケアしなきゃいけないのか、負けたのはファンでもスポンサーでもなくチームなのに大変だな…とまたブースターとしての適切な距離感についてひとしきり考えたりもした。
Bリーグの島田チェアマンもすかさずnoteでこの態度を称賛している。クラブ運営をひとつの事業として考えたとき、ファンやスポンサーといったステークホルダーに向けてすぐさまメッセージを発出し、チームの揺るがない結束をアピールするのは常勝チームにこそ求められる態度なのだろう。またその翌日、同じくnoteで島田チェアマンは(彼は毎日試合や運営に関する何かしらのnoteを書いている。すごい)、今度は優勝した千葉ジェッツの選手たちのメンタリティを讃えてみせた。心・技・体ならぬ、考え方・能力・情熱を兼ね備えた人間が成功するのだと。ここぞという勝負どころでの強さを見せつけられ、惜しいところで勝ちに手が届かないゲームが続くと、確かに精神面の差にも原因を求めたくなる。才能や体格に恵まれハードワークするだけでなく、心も強くて正しくて、あらゆる面でトップを走るビッグクラブの選手たち。そういう選手が目指すべき姿であり、勝利に値するのだと言わんばかりだ。
でもこういう勝利への姿勢、とりわけ選手たちではなくクラブ側やリーグ運営の言葉に触れると、私はちょっと待ってくれと言いたくなる。ファンのために勝利をと言うけど、私たちファンは何に対してお金を払い、限られた余暇をつぎ込んでるんだっけ。そりゃあ勝てなくて下を向く選手を見るのは辛い気持ちになるし、相手チームがどんなに好きでもしばらくは悔しくてSNSのフォローを外してしまいたくなったりする。次こそは勝たせてやりたいと心から思う。何ができるわけでもないただのファンは、なけなしの言葉と声援を届けるくらいしかできないけど。しかしそもそもブースターと呼ばれる私たちは、勝ち馬に乗って気持ちよくなりたいだけならジェッツやキングスを応援すればいいのだ。強いチームが至高ならこのネット配信隆盛の時代、いくらでも他のチームに乗り換えられる。リーグが見せようとするものが、あるいはファンが見出だそうとするものが、勝利とそれを磐石にするスター選手の素晴らしさだけなら、戦力も資金も潤沢な常勝チーム以外は不要ということにならないだろうか。
折しも、青森ワッツやバンビシャス奈良といったB2の複数クラブが経営難に直面してクラファンを呼び掛けているというニュースも耳に入ってきた。元京都のステイシーデイヴィス選手が移籍した新潟アルビレックスBBも、配信を見る限り客の入りが悪そうで台所事情を心配していたところ、やはり中期計画の修正を余儀なくされたようだ。こういったB2のクラブの苦境は決して成績の低迷によるものではない。知名度の低さや資金難に加え今は配信やネットショップで遠隔地のクラブを応援することができる分、地元チームであることや現地観戦の面白さを十分に訴求できなければ、地方から人気クラブへ客が吸い上げられる可能性も考えられる。そもそも、Bプレミアへの参入基準である平均動員数4000人の達成難易度にしても、地方にとっては都市部と比較にならないほど高いことは議論の余地がない。現時点でなんとかBプレミアの射程範囲にあるハンナリーズについて見てみると、昨シーズンの平均動員数は2,700人、完売は4試合のみとなっており、今シーズンの平均動員数4,000人超えがいかに飛びぬけた数字かが分かる。ちなみに京都市は人口143.7万人の政令市だ。人口100万超えで、地方の中では若年層がまだ多い京都でさえこうだというのは、なかなか厳しい印象を受けた。これをバスケ人気を追い風としたクラブの実力と見るか、バブルと見るかは意見が分かれるところだろう。
ハンナリーズについて、もうひとつ気になる情報がある。B.革新が打ち出される前の2018-19シーズン以前には京都府下の体育館でもリーグ戦1試合と小中学生対象のクリニックが行われていたらしいが、(体育館のキャパの情報はないが、かたおかアリーナよりも当然相当小さいと推測する)それが2020年以降は無くなってしまったということだ。詳しい事情は知る由もないけれど、コロナ禍での自粛に次いで2021年のB.革新で動員数のノルマが課されたことにより、箱も集客も基準を満たせない地方興行が難しくなったのではないか。だとしたら、各地の夢のアリーナで華やかな試合が見られるどころか、B.プレミア参入のために地方が切り捨てられたという構図になってしまう。人口と設備がある限られた都市部の住人だけを客にすることは事業としては正解かもしれないが、このことはB.革新のはらむ課題を象徴的に示すひとつの事例ではないだろうか。収益性や集客を物差しにして一律のストレッチ目標を設定するのは、不公平であるばかりか地域格差を大きくしさえするだろう。
収益性のあるチームにはますます人と金が集まり、そうでないチームは業界全体がよほどの拡大を続けない限り、結局ジリ貧だ。そして収益を上げる必須の条件として、クラブの努力やファンの熱量以前に、人が、それも生産年齢かつ比較的時間とお金に余裕のある層の人口が必要になる。嫌というほどこの社会にありふれた光景がここにもまた広がっているのを見て溜息が出る。
果たして事業規模がふくらみ続けることが唯一のゴールだろうか。(そんなことが継続的に可能なクラブがこの斜陽の国でどれだけあるだろう。)日本を――首都圏や主要都市だけでない全国の”うちの地元”を――無理なく生かす方向性ではスポンサーは集まらないのか。私には今のリーグの目指す方向そのものが近視眼的で、持続性のないものに思えてならないんだけど。
ぬるいこと言うならB2かB3で細々とやってくれと言われそうだ。でも、ちょっと想像してみてほしい。キラキラした強豪チームだけで構成されたリーグってつまらなくないか?波があったり素人っぽかったり未熟だったり、エリート集団でもなければ全然完璧じゃない人間による下剋上って最高に痛快じゃないですか。欠けたところのある人がそれでも持てるもの全部賭けてもがく様を私は愛していて、勝っても負けても試合の中でそういう何かを感じる瞬間に心が動く。自分はバスケを通して人間の輝きを見てるんだなと最近よく思う。そこでは勝敗は手段であり過程に過ぎない。選手たちやコーチ、スタッフ、時にはファン自身を輝かせるための。ましてやでっかいアリーナや派手な演出なんか言わずもがな、あってもなくても良い添えものだ。
ビッグクラブ以外が魅力を発揮できる、メインどころじゃない傍流の面白さが出てくる土壌を作るのに必要なのはやっぱり多様性や裾野の広さであり、この先細りの国でそれを実現する方法は地元密着だと思う。2026年以降のB.PREMIER基準がどうなるか分かりませんが、めちゃくちゃ稼げるクラブだけが生き残れるんじゃなく、裾野を広げていくような運営を期待したい。難しいかなぁ…。それが10年後20年後につながると思うし、「バスケで日本を元気に」というふんわりしたスローガンの存在意義が実体を持てるとしたら、きっとこれしかない。
島田さんの言うことに噛みつきまくるような感じになりましたが、彼のことはnoteをわりと読んでるくらいなので嫌いじゃないし、下位チームや地方クラブがどう生き残るかについてちゃんと知恵絞って汗かいてくれてると思います。(地方の政治家へ挨拶回り以外の方法も見せて頂きたいところではありますが。アリーナ一辺倒じゃないか。)チェアマンという立場の正解であり王道を行ってるのでしょう。でも、彼らが置き去りにしようとしてる大きな、それも一度失われたら取返しのつかない価値があるんじゃないかとも思う。
もちろん資本主義の世において唯一の普遍的な価値はお金だ。だからこれは私の好みの話に過ぎないのかもしれない。でも、リーグが今掲げているもの以外の何かに金と時間を使いたい客もいるんだってことをせめて言語化しておきたい。判官びいきにしか見えんかもしれんけどさ、みんながジェッツ目指す必要なんかないでしょ。
※ジェッツやキングスを引き合いに出してごめん!両方好きな選手もたくさんいますし、決して他意はないです
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