【中年の危機を生き延びる】(13)メンタル系YouTubeを見過ぎない

「中年の危機」に陥ってから、メンタル系YouTubeにはずいぶん救われました。けれどもその一方で、「うつになった原因のひとつに、メンタル系YouTubeの影響があったのではないか」という気もしています。

矛盾するようですが、今回はそのことについて書いてみたいと思います。

私は「中年の危機」に陥る前から、メンタル系YouTubeをよく視聴していました。その理由としては、「自分が過去にうつを経験していた」ということもありますし、単純に「人間の心理に興味がある」ということもあります。そこで得た知識を生活の中に活かし、日々を元気に過ごしたい。そんな思いから、精神科医、臨床心理士、カウンセラーなどのYouTube番組を、散歩や家事のお供として聴いていたのでした。

番組の構成としてよくあるのは、「精神疾患に関する質問に、専門家であるチャンネルの主宰者が答える」というもの。ですから、視聴者には精神疾患を抱えている方も多く、主宰者はその前提で話をします。ところがこの当然の配慮が、人によってはネガティブに作用する可能性もあるのではないでしょうか。

たとえば、情報発信者が視聴者に対して、毎日こう語りかけていたらどうでしょう。

「毎朝体がだるい、食欲がない、眠れない、気力がない。そんなうつ症状を抱えているあなたに、今日も役立つ情報をお伝えします!」

このようなメッセージを、精神疾患と無縁だった人が繰り返し聴いているうちに、「精神疾患を抱えている私」というセルフイメージを、自分の中に生み出してしまう……。そういうことがあり得る気がするのです。たとえ情報発信者にそのような意図はなく、発信される情報が有益なものであったとしても。

もちろん、精神疾患の対処法を知りたいとか、その予防法を知りたいという明確な目的がある場合、こうしたチャンネルはとても役立ちます。けれども、それをひたすら毎日のように聴いていると、自分自身を「そのチャンネルのターゲットである視聴者像」のほうに寄せていってしまう、ということがあるのではないでしょうか。

それだけではありません。専門家が発信する情報は、基本的に科学的根拠に基づいていますから、視聴者はついその情報を鵜呑みにしてしまいがちです。その結果、「自分で考える力が弱まってしまう」というデメリットもあるような気がします。ただこのあたりは、メリットとデメリットが裏表の関係にある気がするので、非常にむずかしいところではありますが。

これは私の個人的な感覚ですが、人間というのは基本的に、「自分の考えや、自分の感覚に基づいて生きるから楽しい」のではないでしょうか。他者や自然から学びながらも、「これは面白いな!」「これはマネしよう!」と思うのはやはり自分の感覚です。

ところが専門家のYouTubeを聴き続けていると、いつの間にかその専門家に依存するようになり、ただただ「あの人が言ってるからこうしよう」となってしまう可能性もあります。そうなってしてしまうと、その情報が「正しい」とか「正しくない」以前に、その人の「生きるエネルギー」が失われていくような気がするのです。なんとなく自信とか元気がなくなっていく……というように。

このように書くと、まるでメンタル系YouTubeを否定しているように思われるかもしれませんが、そうではありません。むしろ、「無料でこれだけの専門的な情報が得られるなんて、いい時代になったなあ……」というのが本音です。

けれども一方で、臨床心理士の河合隼雄が言ったように、「ふたつよいことさてないものよ」(『こころの処方箋』新潮文庫)。ひとつ良いことがあれば、何かしらそのぶん悪いこともあるものだ、というわけです。

とても有益なメンタル系YouTubeですが、ここで書いたようなデメリットもふまえ、いい距離感で関わっていけたらいいなと思っています。

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