華人/華僑の実証研究に関する日本語論文のまとめ
どうも!
セイタです!!
北京大学修士課程にて社会学を学んでいます。
この記事では、華人及び華僑のネットワークに関しての実証研究についての日本語論文にどういったものがあるのか書いていきます。いろいろ論文を読んでいったのですが、自分が日本語論文を探すのがあまり得意ではない上に、ネットワークに関しては専門外なので、代表的な論文が抜けているかもしれません。その場合はコメントで教えていただけると幸いです。
※「華人」とは中国に出自を持つ移民で居住国の国籍を取得している人です。国籍を取得していない場合は「華僑」となります。
閲読した論文一覧
・ 伊藤泰郎.関東圏における新華僑のエスニック・ビジネス[J].日本都市学会年報,1995年,13巻:5-21.
・ 郭文琪. 日本における中国系移住者の人的ネットワークの構築―大阪在住者の事例に基づいて―[J].アジア太平洋論業,2022年,(24号):265-274.
・ 河合洋尚. ベトナム北部華人の移住と社会的ネットワーク[J].アジア太平洋論議,2022年,24号:171-184.
・ 端木和経.中国浙江省温州出身者の社会的ネットワークに基づく産業集積の形成―北京大紅門アパレル地域を事例として[J]. 経済地理学年報,2017年,63巻:35-49.
Cinii及びGoogleにて「華人」「華僑」「ネットワーク」という単語を入力し、自分の興味関心に合いそうな論文をダウンロードして読んでいきました。それが以下の論文たちになります。それでは、一つ一つ簡単に紹介させていただきます。
伊藤泰郎.関東圏における新華僑のエスニック・ビジネス
この論文では、関東の華僑を対象に調査が行われている。文章を読んでいて、現場間を感じる論文だった。
注目すべきは、問題処理に際してネットワークによる動員を非常に重視する点であろう。こうした価値観は、網の目のように張り巡らされた広範なネットワークを作り出し、企業や商店をいくつも経営するような有力者のもとには、本人さえも把握しきれないような、膨大な量の紐帯が集まっている。
(中略)
地縁関係と言うよりもむしろ友人関係に近いのである。
上記のように一人一人のネットワークの在り方についての考察がしっかりとなされている印象を受ける。
また、以下のように地縁性についての考察もなされている。
出身地ごとの言語(=方言)や習慣の違いが、同じ出身地の者同士で、友人関係を形成する傾向をもたらすことは確かである。こうしたインフォーマルな関係が、ビジネスというフォーマルな関係に浸透する形で、出身地は穏やかな影響力を持っている。さらに、 出身地に付随したステレオタイプ(例えば[上海の人は頭がよい/ずるい人が多い]といった類のもの)の存在が、こうした傾向に拍車をかけていることも、否めない事実である。
郭文琪. 日本における中国系移住者の人的ネットワークの構築―大阪在住者の事例に基づいて―
この論文は大阪大学の博士課程の学生によって書かれている。2022年に書かれた比較的新しい論文で、調査手法も下記のように現代風である。
私はアプローチの仕方を変え、微博(WEIBO)や2018年頃に中国で流行していたライブ配信アプリなどの中国発のSNSメディアを利用し社交ニーズのある人をターゲットにすることにした。
調査対象としては、「中国系新移住者」を選んでおり、その特徴は以下のとおりである。
血縁、地縁などのつながりを頼りにせず、個人として単独で来日し、また来日の目的やそのまま日本に留まり続ける意志が判然としないことが多い点でも、従来の「華僑」や「華人」、「新華僑」、「華商」として同定されてきた移民どうしの結びつきとはかなり性格を異にしている。
このように新たなターゲットに新たな手法でアプローチしている点に新規性がある。
また、現代においても人間関係が大事であるという結論を出した中国系新移民もいる。
来日生活の初期において、嬌さんはSNSを通じて日本での中国人との交友関係を構築しようとしたが、次で示すように、日本に先住する故郷を異にする中国人に幾度も騙された後、この交友手段が誤っていることに気が付いて、新たな交友手段を見つけている。今では日本に来てから一番信用できるのがこの中国の友人との繋がりを介して築いた人間関係だと彼女は述べている。
この辺の感覚は日本人と近しいように感じる。やはり、友達紹介から生まれる安心感は大きい。ここから華僑がどのようにネットワークを広げていくかの質問項目として
・「仲良い友達はどこで出会った?」
・「その友達は華僑なのか?」
・「華僑とその他の友達で何か違いはあるのか?」
などの質問をしても良いのかもしれない。
河合洋尚. ベトナム北部華人の移住と社会的ネットワーク
この論文は2016年に大阪大学グローバルコラボレーションセンターから電子媒体で発刊されたものをもとに加筆修正したものである。ベトナム南部と異なり、あまり研究対象とされることのないベトナム北部を扱っている。
そこでの華僑のネットワークの在り方として以下の二つの記載が印象深い。
一般的にハイフォンに残った広東系華人は、A1氏のように配偶者がベトナム人であるか、 家族Bのようにベトナム地域社会と良好な関係を築いてきた者である。ベトナム華人において、家族・親族の他に重要なネットワークは、同じ学校の同窓生であること、すなわち「学縁」である。C1・C2氏夫妻は、「学縁」で結ばれるネットワークを今でも大切にしており、そのために出生地を訪れている。
ここでは、他の研究においてあまり重要視されることのない学縁がキーファクターとして取り上げられている。
ベトナム北部に在住する華人は、何かしらの理由でベトナム社会と深いつながりをもっていた。本稿の事例で特に注目されるのは、婚姻関係である。
この記載でもまた、他の研究で取り上げられることのない婚姻関係といったファクターがベトナムでの定住に影響を与える要因として取り上げらている。
端木和経.中国浙江省温州出身者の社会的ネットワークに基づく産業集積の形成―北京大紅門アパレル地域を事例として
この論文は、北京のアパレル地域の産業集積において、ネットワークが如何に機能しているかが研究されている。
まず、産業集積に大きな役割を果たすメカニズムとして、資金調達の仕組みが挙げられている。
同郷者間の社会的ネットワークに基づいた取引先の確保と情報入手という機能は産業集積形成の重要な要因になっていると考えられる。加えて中国においては,民間の中小企業が銀行から融資を受け,資金調達を行うことが難しい。
(中略)
創業時に最も課題になるのは創業資金の確保である。また,生産技術・技能の習得や取引先の確保も大きな課題になる。
上記のように創業資金の確保が難しい中で、温州人は「標会」を作り、資金の獲得を試みている。
個人的な知り合いであるだけでなく,取引相手でもある同業者が資金を必要とする時には支援せざるを得ないという考え方が会の参加者の間では一般的である。そのため,一時的には損失を被るリスクがあったとしても参加する場合が多いと考えられる。
この考え方は前記事でも紹介したPowellの関係資本説で説明できる。
標会への参加は短期の経済性だけを追い求めると、非合理的である。ただし、純粋に金銭的な利益を超えたところでの長期的な利益を得ることができる。
掛金や給付金額が高い上に運用期間も長いため,会員らは大きなリスクを負う必要があるにもかかわらず,低金利である点である。
(中略)
市場金利より低い金利で資金の運用がなされる標会が存在していた理由として,やはり会員間での人間関係が重視されるため,よい関係にある人から高い利息を取ることが難しいという点が挙げられる。金利という点では表面的な経済性は弱いが,人間関係や取引関係等を維持することや,会で親睦を深めることで情報の入手・ 交換を行うこと,将来,自身の事業が経営難に陥った場合に他の会員から支援を受けられる可能性があること等,より長期的な視点でみれば経済性があるといえる。
以上のようにある種の地縁に基づいた関係性が構築されていた。
まとめ
前者の三つの論文は1990年代の日本、2020年代の日本、2010年代のベトナムをそれぞれ扱っている。三つの論文の特徴としては、従来最も機能すると考えられていた地縁や血縁に捉われない新たなネットワークが形成されていることである。例えば、ベトナムでは、学縁や婚姻関係が重視されていたり、日本では友人関係がより重視されている。
一方で、中国北京の温州人を対象とした研究では、いわゆる地縁が重視された経済圏が広がっている。
ひょっとすると、海外に出た華僑や華人の場合は従来の地縁や血縁だけに頼っていられないためにより多様なチャネルを頼るようになるのかもしれない。もしくは、研究者の視点の問題に過ぎないのかもしれない。どちらにせよこの差異は研究テーマとなりうるかもしれない。
本記事は一旦、以上とさせていただきます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
以下の記事では、ネットワークや華人の理論に重点を置いた論文についてまとめています。
また、以下のマガジンでは、華人や華僑に関して書かれた様々な記事を掲載しています。記事の内容としては非常にライトな体験談のようなものから実際に華人へのインタビューや本や論文などをまとめたものといったヘビーなものを想定しています。
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