カンヌ受賞事例から学ぶ「思い切る勇気」
広告業界を志すものなら一度は憧れる「カンヌライオンズ」。
毎年、世界中から選ばれた最高の広告に贈られる最高の賞です。
カンヌライオンズとは
「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(Cannes Lions International Festival of Creativity)」は、世界にある数々の広告・コミュニケーション関連のアワードやフェスティバルの中でも、エントリー数・来場者数ともに最大規模を誇ります。 期間中に同時開催されるライオンズヘルスと合わせて、約100カ国から15,000人以上の来場者が集まり、全28部門(2020年は、Creative Business Transformation Lionsが新設)に40,000点を超える応募が集まり、広告を超えた様々な業界からの注目度も益々高まっています。カンヌライオンズ開催期間、地中海沿いに位置するフランスのビーチリゾート、カンヌの街は昼夜を問わずカンヌライオンズの参加者で溢れ返ります。
そんなカンヌ受賞作品の中でも「勢い」と「思い切り」に溢れた事例をご紹介いたします。
観光客を呼びたい=テキーラの雲を作ろう!
雨が多いために、国外への旅行者が集中するドイツの冬。
しかし、メキシコはドイツ人旅行者の選択肢にありませんでした。
そこで同観光局は、ドイツ人が大好きな名産テキーラを、
ドイツ人が大嫌いな雲と掛け合わせた「テキーラクラウド」を製作。
ベルリンの降雨データにあわせてリアルタイムにテキーラが降る雲を公開し、自国への旅行需要喚起を図りました。
雨が嫌いなドイツ人に、大好きなテキーラの雲をプレゼントしてあげる施策。日本でいう「降る雪が全部メルティキッスならいいのにね。」を実現させたまさに桃源郷。メキシコに俄然興味が湧いてくるし、行きたくなる事例です。
女性をストレスから救いたい=ストレスフリーなレストランを開こう!
スペインの食品企業「カンポフリオ」は、
ヨーロッパで最も高いスペイン人女性のストレスレベルに着目し、
国産ターキーを主としたストレス軽減効果のある素材だけを使用した
期間限定レストラン「デリシャスカーム」を開店しました。
「ストレス」という潜在的な社会課題を明らかにし、レストランをその課題を解決する“救世主"として魅せることで、その価値と存在感を高めています。日々頑張っている女性のために「ストレスフリーな食事」を提供する素敵な事例。
面白いのが、実際の注文時のメニュー名も「ジムなんか気にも留めなかったので行かなかったわ」など、普段は言えない心の内を言葉にしたような文章になっており、注文時の“読み上げ”行為さえも、発散に繋がる機会として演出されています。
女性にとって「ご褒美」であり「味方」になった施策です。
電車事故を減らしたい=おバカなアニメで自分ゴト化を!
2012年の11月に、オーストラリアの鉄道会社「メトロ・トレインズ・メルボルン(Metro Trains Melbourne)」によって制作された。内容は、かわいいキャラクターたちが歌に合わせてひたすらおバカな方法で死んでいくというもの。ただ面白おかしいだけではなく、「鉄道事故防止のために安全を訴える」というメッセージ性の強い作品となっている。
Metro Trainsはオーストラリアのメルボルンにある鉄道会社。踏み切りを無視してわたったり、勝手に線路に降りたりするのが危ないことはわかっている筈なのに、そんなバカげたことで事故死する人間が絶えず、増加傾向にさえありました。
そこで鉄道付近での軽率な行動に警鐘を鳴らす目的で行われたこのキャンペーンは、公共広告にありがちな「怖さ・シリアスさ」をあえて無くしたことによって多くの人々の印象に残り、人々の心を動かしました。
その結果、同鉄道内での事故は21%も減ったといいます。
2013年7月に開催されたカンヌライオンズでは「ダイレクト」「PR」「ラジオ」「フィルム」「インテグレーテッド」5部門でのグランプリを含め28もの部門で賞を取り、史上最高に成功したウェブ動画キャンペーンと呼ばれるまでになったのです。
説教臭く若者に注意喚起するより、思わずシェアしたくなる動画をつくることで事故が減った。まさに、アイデアが社会問題を解決した素晴らしい例です。
話題化を図りたい=チートスで美術館をつくろう!
フリトレー社は自社商品チーズ味の「チートス」が、製法の関係で、1つとして同じ形がないことをフックに、リンカーンに似ているチートス、タツノオトシゴに似ているチートスなどを、消費者が投稿して展示するミュージアムをオンライン上に開設。自分で見つけた「何かに似ているチートス」の写真を投稿して、そこに掲載され、週間ベストに選ばれると数10万円がもらえるという施策(10週間実施)。
生活者はこの「何かに似ているチートス探し」に熱狂し、12万7717もの投稿があったらしい。ほかにもギターに似たチートスやキリンみたいなチートス、自由の女神にそっくりなチートス、ナイキのマーク「スオッシュ」に見えなくもないチートスなどが続々と投稿、拡散されました。
フリトレー社は、集まった数十万件の投稿からNYのグランドセントラル駅にリアルなミュージアムをつくり、展示も行いました。
コレクター心をくすぐられる。。
農作物の規格によるフードロス問題を解決したい=闇市を開こう!
白を基調としたいつもの明るいスーパーの店頭。その一角が、ある日突然、異様な暗さに包まれることに。黒い陳列棚に並ぶのは、それぞれユニークな形をした野菜や果物、そしてシリアルたち。そして、まるで標本のようにクールにディスプレイされているのは、農家が自ら採取した伝統的な品種の種。そして、アンチヒーローのように不敵な笑みを浮かべる農家の人たちのポスター…行われてるのはそう、闇市です。
ヨーロッパにはGAP(Good Agriculture Practice)という厳しい規格があり、小売業協会に加盟している小売店ではこの規格に合った農作物を店頭に並べる決まりになっています。
GAPの規格に合うのは、カタログに記載された特定の品種で、適正な化学肥料と化学農薬を使用した慣行農業による農作物。その結果、ヨーロッパではなんと97%もの農作物が「違法」扱いになっていたのです。
この現状を変えるべく行われたのが、「違法」な農作物を販売する「闇市」。
スーパー内に「違法」な野菜や果物を販売する「闇市」を展開し、お客さんにそのおいしさと伝統的な農業を守る意義を伝えました。
この取り組みは多くのテレビやラジオ、新聞で取り上げられ、著名なシェフやジャーナリスト、そして農業組合の人びとが規格の改訂を主張するムーブメントに。あっという間に83,000を超える署名が集まりました。その勢いはついにEU政府を動かし、在来種の流通が解禁されることになったそう。
「時代を覆した。」という大きな事実がカンヌに選ばれた大きな理由なんだろうなあと思いました。
コロナ禍で新しいCM撮影ができない=過去の素材で勇気を与えよう!
最後はカンヌ受賞作ではないけれど、今の世の中を生きる皆さんに観てほしいナイキの広告です。
今回のコロナ禍で、新たにCMを撮影することは困難な状況になりました。
しかしNIKEは、このような状況下でも、人々を鼓舞するメッセージを伝えるため、過去素材を使い、今の状況できちんと共感を創り出せる新しい内容に仕立て上げ、それを世に送り出したのです。構成はいたってシンプルで、世界中の人々の記憶に染みついた“ヒーローたちの挫折”を取り上げ、そこからの復活劇を改めて見せる、そして、「We Are Never Too Far Down To Come Back(カムバックできないはずがない)」というコピー。“心が折れそうになったときでも、とにかく前を向いて一歩でも進み、自分の心と戦う”そんなアスリートの姿に人々が自分を重ね合わせ、このコロナ禍でも挫けず進めるよう励ます動画を作り上げたのです。
この動画はYouTubeでも公開後わずか3日で7600万回以上再生されるなど大きな注目を集めました。
「We Are Never Too Far Down To Come Back」
「どこまで深く落ちたとしても、私たちは必ず逆転する。」
スポーツ界のヒーロー達だって、幾度とない絶望から立ち上がってきたし、
人生には「逆転」するタイミングがある。時代がそれを証明している。
しばらくは苦しい日々が続きますが、逆転するその日まで、みなさんがんばりましょう!