癒しとリラックスの場を作りたくて11
Rさんの場合:嫌なことを排出する催眠(後編)
さて、暗示にかかりやすくする催眠導入に成功したので、いよいよこれから本格的な催眠に移ります。
最初に思い浮かべてもらった、Rさんの頭の中の嫌な記憶を、外へ排出するヒーリング作業です。
目の前ですやすやと眠っている(実際はリラックスして弛緩しているだけで睡眠状態ではないのですが)Rさんに、声を掛けます。
「これから言うことをよく聞いてください。最初に思い浮かべてもらった、嫌なこと。これをこれから頭の外へ追い出していきましょう」
すーっ、すーっ。寝顔が可愛いです。
「ではまず頭の中に、これから言う、あるものを思い浮かべてください」
……すみません、ここから先の具体的な方法は、企業秘密ということで。まぁ催眠に詳しい人なら予想はつくんじゃないですかね。
そうやってイメージしてもらったものを使って誘導を行います。これも詳しくはかけないんですが、「はい、それがゆっくり、ゆっくり移動していきます……」と声を掛け続けると、Rさんの瞼がピクピクとしていて、僕の声に従ってそれが移動するイメージを思い浮かべているのがわかります。
「では、それが×××しました。もう頭の中には、思い出すのも嫌だったその記憶はありません」
すーっ、すーっ。
目を閉じているその瞼の奥で、本当にそのことが消えていますように、と寝顔を見ながら願います。
さて、排出するための行程は終わりました。今度は催眠状態で弛緩している全身を、元に戻す作業です。
「いまだらりと力が抜けている体が、少しずつ元に戻っていきます。はい吸って……吐いて……最初は首の筋肉が元通りになって自由に動かせるようになります。吸って……吐いて……今度は腕に力が戻ってきます……」
そうやって弛緩を解いた後、3、2、1、パン! で目覚めてもらいました。
まだどこかぼうっとして目をぱちぱちさせているRさんも、だんだんと意識がはっきりしたようです。
「どうでしたか。すっきりしました?」
「はい、すっきりしました!」
良かった。こんなふうにきれいに成功したのも、Rさんのおかげです。
◆
せっかくなので、次にいままで試したことのない催眠に付き合ってもらいました。ある物が異様に好きになる催眠です。
対象はなんでもいいのですが、なんにしようかな……?
テーブルの上に、木造りの小さな筒がありました。よく焼き鳥屋さんにいくとありますね。食べ終わった串をその中に入れて、お勘定の目安にするという。これにしましょう。
改めてRさんの顔の前に、今度は僕の閉じた手をかざして、一点を見つめてもらいます。
「じーっと見ているうちにだんだん意識が集中してきます……これからあなたは、ある物が大好きになっていきます……」
導入ができたと感じられたところで、さっきの小さな筒を目の前にかざします。
「はい、あなたはこれが大好きになって仕方なくなります……」
目をぱちくりさせているRさん。
あれ?
「ひょっとして催眠が効きませんでした?」
「ていうか、この筒ってなんですかね? それが気になって、好きになるとかそんな気になれなくて」
そうですよねぇ、と二人で笑い合いました。はい、大失敗。まぁ催眠に掛からないことはよくありますし、今回は対象のセレクトもアレでしたし(笑)。
ひとまず癒しの催眠が成功したので、今回はよしとしましょう。僕にとっての大きな自信につながりました。
ちなみに、この「好きで仕方なくなる催眠」、次にはちゃんと成功するのです。その話は、また次回に。